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ライフル魔法少女

 チンッと、思った以上の音量で、手元のジッポは澄んだ鐘の音を響かせた。

『あ、また煙草吸ってますね。その格好で吸うのはやめて欲しいんですが』

 もう何度目になるかわからない注意をするバラキの声。最初は頭に直接響く声が気持ち悪かったが、今となっては慣れたものだ。彼に構わず、咥えていたキャスターに火を点ける。

『ひょっとしてガン無視決め込んで、ます!?リアクションぐらいしてくれないとキツいんですけど!ただでさえ、心許ないんですから、こっちは』

 その言葉に、思わず口元が歪んでしまう。生身でガンアクションしなければならないとはいえ、武装して戦いにも慣れてきた私に比べれば、確かに彼の今の姿、空飛ぶハムスターは心許ないものだろう。どれだけ感覚を共有化しているかは知らないが、あの小さな体で空を飛んでいると思うだけでも、どこかすーすーして来そうだ。

「小さくて目立たないから、そうやってバレないで監視できるんだよね。私の方は状況が整うまで見られるワケにいかないんだから、頑張ってよ。あと、この格好で煙草吸ってたって、免許証見せれば問題ないでしょ。携帯灰皿だってちゃんと持ってるんだし」

 相手の心境を予想した上で、ここまで冷たいことを言えるのだから、私も酷い人間だ。元々これだけの厚かましさを持っていたのに、それを無理に封じていたから鬱になんかなったのかもしれない。

『はいはい、ちゃんと監視はしてますよ。で、社長室はターゲット二名だけになりました。ターコイズ、状況開始してください』

「はいよ、ライフル魔法少女ターコイズ、状況開始、了解」

 ビルの屋上の縁で立ち上がり、スカートの尻を一応はたいておく。それから煙草を揉み消した携帯灰皿をマグポーチに突っ込み、手に持っていたアサルトライフルの初弾を装填し、足元を蹴飛ばした。

 私の飛ぼうという意図を察知し、発光する翼が背中に現れる。SFに出てくる光る剣を羽にしたよう感じだ。衣装といい、戦い方といい、まったく外連が多い。

 もし私の姿を見る者があれば、魔法少女のコスプレの飛び降りと言うかもしれない。ターコイズブルーの派手な衣装をまとい、私の足は地、というか、ビルの屋上を離れた。

 しばらくは自由落下にまかせ、逆さまにビルの輪郭をなぞっていく。羽の生えたふざけたハムスターがいる階の前で、自分の羽を広げてくるりと回転し、ダットサイト越しに室内を見る。

 一人は手配所にあった、パラハラ&太鼓持ちの人事課長だ。いや、社長専用の人身ブローカーと言うべきかもしれない。

 セレクターレバーをフルオートにセット。相手が驚いて動けないうちに撃つ。短い連射で、ブローカーが吹っ飛ぶ。

 もう一人は、セクハラを通り越して性犯罪者であるところの社長だ。慌てているが、引き出しから拳銃を取り出そうとしているのだから、恐れ入る。もしかしたら、命を狙われたのもこれが初めてじゃないのかもしれない。まぁ今度こそ、これで終わりだけど。

 銃を掴んだ右手を撃って無力化、あとはさっきと同じで、上半身から頭にかけてフルオート。

 本当はもっと苦しんで死んだ方がいいのだろうけど、私達にできるのはこれだけだ。数々の悲劇を産んで来た社長室も、今は二体の、穴の開いていない死体が転がるだけの場所になった。

 血を流さない魔法弾。けれどもこうやって、実弾と同じ結果になるのだから、これほど暗殺に適した武器もないだろう。こんな面倒臭くて胡散臭い、魔法少女なんてものが出張る理由だ。

「ターコイズ、所定完了」

『所定完了を確認。撤収しましょう』

 返事をしたハムスターと私は、文字通り現場を飛び去って行く。飛びながら、煙草を咥えて、ジッポを開いた。

 魔法少女とは便利なもので、生身ではあり得ない速度で飛ぶ時も、バリアのようなものが体を守ってくれるので、激しい風圧にさらされることなく、煙草を吸うことだって可能なのだ。

『だから、その格好で吸わないでくださいよ。煙草なんて、帰って元に戻ってからでもいいじゃないですか』

 再び、ハムスターを操作しているバラキの、説得力の無い抗議が聞こえてくる。

「あれ、まだハムスターやってたの?任務も終わったし、あとは感覚切ってオートで戻してんのかと思ったよ」

『帰投するまで何があるかわからないですから、しっかりサポートするのが私の役目です。だから、魔法少女の時に煙草はやめてください』

 帰るまでが遠足だと言って、生徒がハメを外さない様に目を光らせる教員のようだ。

「私、二十三だよ?」

『鏡見てください!魔法少女に変身すれば、体力がピークの年齢になるのは知ってますよね!今の年齢でさすがにその格好になったら痛いですよね!?』

「高校生ぐらいの外観でも十分痛いって・・・」

 その間にも、ハムスターは何か怒鳴っていたので、通信を一方的に切る。彼の説教も、私の呟きも、甘い煙と共に夜空の一部になって溶けていく。

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