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596日目の告白  作者: ゆか
夏休みも明け…
8/30

約束。


 ……いたっ。目が。

「どーしたの、皐?」

 この声は、睦。はあ、疲れた。

「別に。目にゴミが入ったのかも。……それより、彼女さんのところに行かなくていいの.

明弥ちゃんって、寂しがりな印象だけど」

 今は秋。夏休みが明けて、定期テストがあって、模試があって、テスト尽くしで、そうして、学校祭を目前に控えている。

 そんなことはどうでも良くて、今は教室の窓から外の景色を見ている。秋っぽくなったよなあ。落ち葉が落ちている。枯葉は、ひらひらーって散って。自由だねー。

「今ね、出しそびれた宿題を出しに行っているからいいの」

「ふーん、そう」

「うん、そう。……皐、落ち葉が落ちているねー」

「だよねー」

「二人とも、落ち葉は落ちているから落ち葉って……」

『明弥ちゃん?』

 振り返ると、明弥ちゃんが睦の席に座っていた。

 あー、また兄妹で同じことを。まあ、いっか。

「いつの間にいたの」

「ずっとこの席に座っていたけど」

「え、僕、自分の席なのに気付かなかった。しかも皐の隣なのに。今、絶対に視界に入っていたのに」

「と言うより、今会話に出てきたのに。何で睦の席に?」

 明弥ちゃんは一番前の席だったはず。

「睦くんが、好きだから。彼の席に座りたいと思っちゃ、だめ?」

 ……うーん。この子は、どうにも憎めないよね。素でこの上目遣いをするんだもん。ぶりっ子じゃないんだもん。それに、本当はお嬢様らしいし、ね。

「あー、そういえば。明弥ちゃんの髪ってさ、天然パーマなの?」

 実はずっと前から気になっていたこと。すごくかわいらしい感じに巻いているんだよね。短いのに、きれいだし。

「うん、元からこう」

「皐!」

 何、睦。顔が赤いよ。

 あ、わかった。私に明弥ちゃんを取られたような気になって、あせっているんだ。あー、かわいい。我が兄ながら、すごく。

「へー、あ、そう」

「もー。皐は自分の相手の心配していなって。すごい約束をしたって聞いたよ、洸に」

「え? ……あー、洸。何を人に話しているんだ。後でふっ飛ばしてやろう」

「手加減してあげてねー」

 分かっているって。全力でぶつかってあげなきゃ、失礼にあたるもんね。

 さてと、帰ろう。今日は、宿題が、いつもより多かった気がする。嫌だなあ。面倒くさい。

 睦と明弥ちゃんが手を握っているのに背を向け、教室を出る。廊下は、多分部活で忙しい人が多い時間帯なのだろう、人通りが少ない。

 そうして、下駄箱にたどり着いたところで

「皐さん!」

 廊下の十メートル向こうにいる、あの見慣れた影から声が聞こえてきた。これは、いつもと同じくらいの位置とタイミングだ。

「何」

 いつも同じように返している。何というか、条件反射だよね、もはや。あの声にはこう返す。

「一緒に、帰りましょう!」

「その言い方を改めるなら」

「共に帰ってくださいませんか?」

「私たち、どういう間柄だっけ」

「カレカノとか、俗世界では言われているらしいですよ」

「カレーは、狩るんじゃなくて作って食べるものだから」

「カレーは、ライス派ですか? ナン派ですか? それとも、ルゥのみ派ですか?」

「あんたはるルゥのみ派だってことはわかった」

「違いますよ、野菜と共に派です」

「さっきから新しいカレーの食べ方が開発されまくっているのは、私の気のせいだろうか、それとも事実だろうか」

「両方ですよ、レディ」

「懐かしいことを言うなよ」

「いけませんか?」

 幸せそうに目を細めて微笑むこの人の顔は、好きだ。屈託が見当たらない。ああ、ないのか。悩み事とか皆無だろうし、基本的には思ったことをそのまま言うタイプだし。それに、この世の汚さとか、知らなさそう。

「皐さん。あの約束、本当ですよね?」

 何の前触れもなく突如話を変えるのは、悪気がないから許すが、もう少しこう、何とかならないか?

「また聞く? 当たり前じゃん。私、嘘はついたことないよ」

「いや、それはあります。ついこの間だって、自分の意志は曲げないって言いながら、多数決で反対のほうに手を挙げていたの、知っていますよ」

「どうでもいいじゃん、そんなこと。とりあえず、それについては偽りなし」

「では、今から」

「前置き必要?」

「もちろんです」

 すると、彼は立ち止まった。自然と私の足も止まる。

「……どうしたら、いいのでしょうか」

 急に始まったなあ。でも、一生懸命に考えて、覚えてきた言葉なんだろうね、これ。

「この想い、伝えようとすればするほど、あなたが遠のいてゆくような気がして」

 ドラマ的な雰囲気。夕日がそれを引き立てている。おー、なかなかに素敵な感じ。

「でも、もう……こらえられないのですっ」

 腕にしがみついてきた。あー、びっくり。どうしましょう。

「本当に好きなんです。死にそうなほど。だから、結婚……」

「残念でした」

「えー? これも違うんですか?」

「うん。また明日以降ねー」

「ううー、どうしよう」

 この人と交わした約束。それは、〝私の理想どおりのプロポーズをしてくれたら、結婚してやる〟というもの。

 最近、文化祭の準備とか何やらで、こいつのことを見直したために約束した。すごく面倒な実行委員を率先してやったりと、結構いい奴だったりしたから。まあ、ほら、この人のことは嫌いではないし。いいかなって。

「でも、難しいですよー。一字一句間違えちゃダメなんでしょう? それに期限もあるし。ヒントくらいは……」

「別に教えてもいいんだけどねー」

「え? いいんですか?」

「まあその代わり、ハードルは上がるよ? プラスして私を感動させなきゃならない、とかいう条件がついて」

「ならいいです」

 素直な奴である。そこもかわいいというか。よし、ちょっと試してやろう。

「というか、やってくれるんでしょう?」

「もちろんですよ、何を言うんですか。私のあなたへの愛は、こんなものでは少しも変わりっこないですよ!」

「へえ?」

「いや、何ですかその目は」

「いや、何でも。たださ、一応期限は私の誕生日までって言ったけど、その前に私を飽きさせたら終わりだからねー。飽きっぽいから、どうでも良くなるかもしれないもんね」

「それはちょっと、きついですよー。誕生日までは待ってください」

「さあ、分かんないねー」

「えー?」

「文句を言うなら今すぐ約束破棄するけ……」

「やってやりますよ! 初めて会ったときから、あなたと結婚することは決定していましたから」

「あれだけ私に迷惑をかけておいて、勝手に決めていたのか」

「そうです!」

「元気に言うことかあ!」

「今日も調子がいいですねー……」

 お、今日は最高記録を更新するかもしれない。あー、一番星より小さくなっちゃった。記録更新だ、更新。

 さて、帰ろう。宿題がたくさんあるんだよ。うーんと、あれ。理科も出ていた気がする。ん? 先週のだったっけ? すでに提出している? 今日出され……んれ?

 まあ、いっか。あとで睦に確認しよう。メモしていないし。


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