ごめんなさいーっ
……ああ、悪かったんだな、この表情は。さっき返されたばかりの英語の試験の解答用紙から、ちらちらと顔を出してこっちを窺っている。まあ、終わったもの仕方ない。どうだっていいし。
「うわーん! 皐さん、ごめんなさーい!」
「ねえ、だからさ、何点だったのかって聞いてんの。謝罪の言葉はいらないから」
「えと、その。やっぱり……言えません!」
「強制だって言っているの。言いたいとか言いたくないとか、そういうのは関係ない。お前に選択権は一切ないの。早く言え」
「……八十九、です」
ぼそっと言ったのが聞こえた。ふーん、そんなものか。悪くないじゃん。がんばった、がんばった。
元々がどうだったのかは、確か前に聞いたな。うーんと、去年の終わりは驚くほど悪かった気がする。この前の中間テストは、八十五、だっけ。……ん?
「聞こえなかったんだけど?」
「聞こえていましたよね、今。多分絶対」
「聞き取れなかったって言っているんだから、もう一回。今度ははっきりと言ってよ。ほら、さっさと」
無理矢理言わせてみたが、やはり同じ点数を言いやがった。四点など、誤差の範囲だ。
「ありえない……」
「ごめんなさいっ」
「謝られても困る」
「ごめんなさいっ」
だから、困るって言ってんの。はあ。本当にびっくりした。結構何時間も教えたと思うよ。何でだろ。こいつがアホだからか。
「英語、苦手なの」
ため息混じりに聞いてみた。教えてもらおうと思った時点で苦手か。あ、いや、でも、一番苦手なのがこれじゃなかったら、結構困惑すると思う。私。
「まあ、はい」
「一番?」
「はい?」
「英語が一番苦手な教科ですか」
「いえ……。一番は国語で、その次が、理科? その次です」
ああ、どうしよう。理科はすでに返ってきているわけだし、点数を聞いてみようかな。
「皐! 聞いてる?」
「ああ、洸。何?」
「何、じゃないよ。英語、何点だった?」
「何で知りたいの。九十八」
「は?」
は、って何、はって。……そして、どうして私の隣に座る男子も驚いているの。何か変なこと言ったかな、私。
「えー。だって、あたしの点数知っているでしょ?」
「七十二点」
「え、さっき言ったの、聞いていたの?」
「当たり前じゃん」
「さっきは反応が悪かったから、聞いていないかと思った」
それなら、点数知っているでしょ、なんて聞かないでしょう、普通。そっちの方がおかしい。
「皐さん」
「何」
「反応してくれた。次回のテスト、頑張るので……」
「却下」
「何でですかっ」
「そうだよー、皐。あたしはいいと思うけどなあ」
「面倒くさいことはしないの。私のセオリーだから」
「そうだったの?」
そーだよ、洸。あなた、今まで一体何年私と付き合っているの。
「違うよ、洸、日向君。皐は面倒臭がりなだけだから。気にせず質問すればいいよ、日向君。ちゃんと答えるという保証はないけど、最終的には教えてくれるはず」
「睦、適当なこと言わないでよ」
「その適当は、妥当に近いほうの意味だよね」
違います。……まあ、間違ったことを吹き込むつもりはないけどさ。
と遠くを見たとき、
「あー! 睦は、何点だった? あたしより上だったら許さないぞ」
洸が突然叫んだ。うるさいなあ。
「え、何目をぱっちり開けたまま寝言言っているの。洸より下って、絶対に耐えられない。皐と一緒だけど」
『えーっ』
洸と、私の付き合っている相手の声が重なった。気にせず私と睦は、互いの解答用紙を照らし合わせている。
「あ、間違えたところも一緒だね、皐。……ん? どうしたの、二人とも」




