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596日目の告白  作者: ゆか
一学期は
7/30

ごめんなさいーっ


 ……ああ、悪かったんだな、この表情は。さっき返されたばかりの英語の試験の解答用紙から、ちらちらと顔を出してこっちを窺っている。まあ、終わったもの仕方ない。どうだっていいし。

「うわーん! 皐さん、ごめんなさーい!」

「ねえ、だからさ、何点だったのかって聞いてんの。謝罪の言葉はいらないから」

「えと、その。やっぱり……言えません!」

「強制だって言っているの。言いたいとか言いたくないとか、そういうのは関係ない。お前に選択権は一切ないの。早く言え」

「……八十九、です」

 ぼそっと言ったのが聞こえた。ふーん、そんなものか。悪くないじゃん。がんばった、がんばった。

元々がどうだったのかは、確か前に聞いたな。うーんと、去年の終わりは驚くほど悪かった気がする。この前の中間テストは、八十五、だっけ。……ん?

「聞こえなかったんだけど?」

「聞こえていましたよね、今。多分絶対」

「聞き取れなかったって言っているんだから、もう一回。今度ははっきりと言ってよ。ほら、さっさと」

 無理矢理言わせてみたが、やはり同じ点数を言いやがった。四点など、誤差の範囲だ。

「ありえない……」

「ごめんなさいっ」

「謝られても困る」

「ごめんなさいっ」

 だから、困るって言ってんの。はあ。本当にびっくりした。結構何時間も教えたと思うよ。何でだろ。こいつがアホだからか。

「英語、苦手なの」

 ため息混じりに聞いてみた。教えてもらおうと思った時点で苦手か。あ、いや、でも、一番苦手なのがこれじゃなかったら、結構困惑すると思う。私。

「まあ、はい」

「一番?」

「はい?」

「英語が一番苦手な教科ですか」

「いえ……。一番は国語で、その次が、理科? その次です」

 ああ、どうしよう。理科はすでに返ってきているわけだし、点数を聞いてみようかな。

「皐! 聞いてる?」

「ああ、洸。何?」

「何、じゃないよ。英語、何点だった?」

「何で知りたいの。九十八」

「は?」

 は、って何、はって。……そして、どうして私の隣に座る男子も驚いているの。何か変なこと言ったかな、私。

「えー。だって、あたしの点数知っているでしょ?」

「七十二点」

「え、さっき言ったの、聞いていたの?」

「当たり前じゃん」

「さっきは反応が悪かったから、聞いていないかと思った」

 それなら、点数知っているでしょ、なんて聞かないでしょう、普通。そっちの方がおかしい。

「皐さん」

「何」

「反応してくれた。次回のテスト、頑張るので……」

「却下」

「何でですかっ」

「そうだよー、皐。あたしはいいと思うけどなあ」

「面倒くさいことはしないの。私のセオリーだから」

「そうだったの?」

 そーだよ、洸。あなた、今まで一体何年私と付き合っているの。

「違うよ、洸、日向君。皐は面倒臭がりなだけだから。気にせず質問すればいいよ、日向君。ちゃんと答えるという保証はないけど、最終的には教えてくれるはず」

「睦、適当なこと言わないでよ」

「その適当は、妥当に近いほうの意味だよね」

 違います。……まあ、間違ったことを吹き込むつもりはないけどさ。

 と遠くを見たとき、

「あー! 睦は、何点だった? あたしより上だったら許さないぞ」

 洸が突然叫んだ。うるさいなあ。

「え、何目をぱっちり開けたまま寝言言っているの。洸より下って、絶対に耐えられない。皐と一緒だけど」

『えーっ』

 洸と、私の付き合っている相手の声が重なった。気にせず私と睦は、互いの解答用紙を照らし合わせている。

「あ、間違えたところも一緒だね、皐。……ん? どうしたの、二人とも」


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