表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
596日目の告白  作者: ゆか
一学期は
6/30

期末テストのあとの解放感


「キーンコーンカーンコーン。テスト終わりです」

「やったあ! 先生、ありがとうございます!」

「坂下さん、連絡事項があるので座ってください」

 一体何に礼を言っているのかは聞かないんだ。まあ、口でチャイムをまねている人には興味もないけど。どうせ洸の言うことだから、たいした意味はないのだろうし。

「連絡です。明日の英語の授業は、テストの返却です。問題用紙を持ってきましょう。それと……えーと。それでは終わりです。起立」

『えーっ?』

「みなさん、どうしましたか? ほら、早く立たないと、せっかくの自由な時間が短くなりますよ」

 そしてマッハなスピードでほとんどの人が立ち上がる中、三人は普通に立った。むしろ、何でこんなにも多くの人が自由を求めているのか、不思議だ。そんな、数秒くらい延びたところで何が変わるって言うの。

「明弥さん、間宮さんくん、早くしてください」

 もう立っています。というか、私たちをまとめて呼ばないでほしいよね。

「じゃあ、気をつけて帰ってください。さようなら」

 よし、期末テスト終わり。はあ、疲れた。

「皐? 早く帰ろうよ。録画したアニメ、見たいでしょ」

「あ、そうだった。よし、帰ろう。洸は、置いて帰る」

「うん、当然」

「ちょっとー、待ってよ。そんなに見たいアニメだったの?」

 洸が走って来た。多分私に体当たりしてくるので、避ける準備をしておく。

「たあっ! くーらえー! ・……く、なぬっ。よ、避けただと?」

 意味もなく悔しがる幼なじみの相手をしているほど暇ではない。背を向けて、一定のスピードを保ったまま歩く。アニメが見たい一心で。

「……あのさ、洸。そろそろ学習したらどうかな。皐が体当たりを避けるのは、もう十五回目だよ」

 睦が軽くフォローを入れる。

 そうだよ。いい加減諦めたほうがいい。疲れるだけでしょうに。よく飽きないよなー。

「いいのいいの。というか、毎回同じことをしているわけじゃないんだよ。知っていたか? ちょっとずつスピードが落ちているの。そして、何回目で皐は私を受け止めてくれるか、実験しているの。あ、これ、本人には内緒ね」

「あ、そう。へー」

「何それ。冷たいなあ、睦は」

「いつも通りだし」

 確かに。睦はいつもテンションが変わらないというか、淡々としているというか、な感じだよね。うん。

「……さっつき、さーん!」

 えーと、無視でいいよね。というか、考えるまでもなく無視だ。

「僕、この声、聞き覚えがある」

「あたしもあるよー」

「睦。余計なことは言わなくていいから。洸も」

 まったく。聞きたくないときに聞きたくないものが聞こえるなあ。

「お待たせいたしました、レディ」

「待ってねえし。女二人いるし」

「なんと、坂下さんもいらっしゃいましたか。これはどうも。さて、皐さ……あれ、いない。あっ、待ってくださいよ!」

 ちっ、もうバレたか。

「ねえ、睦。おとりになってくれない?」

「不可能です」

「何で」

「何でも」

「何で」

「嫌だから」

「じゃあ、一緒に逃げてくれる?」

「それはかまいません」

「よし、行こう。家まで全力疾走」

「あ、さすがにそれは無理かも」

「本心を言わないでよ、私も出来ないのだから」

「じゃあ、初めから言わないで」

「いや、それくらいのつもりで歩かないとさ、廊下を走っちゃいそうだもん。それでタイムロスしたくないもん」

「そうだねえ。……昇降口到着。ここからは最後まで走りきるよ」

「不可能なり」

「断定していないで。そのくらいの気持ちを持っていないと、彼、すぐ隣にいるよ」

「……今、いつ蹴るのが一番いいか考えていたんだから、そこは触れないでよ」

「あー、ごめん。知っていました。じゃあ、僕は先に帰ってアニメを見ているから。どうぞ、ごゆっくり」

 見捨てないでよ、睦。どうしてくれるの。

「皐さん、今日はどこに行きましょうか。テストだからってしばらく出かけていませんもんね」

「手を離せ」

「嫌です」

「はっきり言うな」

「嫌です」

「分かった、行ってやる」

「やったあ! 今日は、ゲームセンターに行きたいです」

「そう。じゃあ、着替えてからね」

「いいじゃないですか、このままで……って、ええっ? いない……」

「皐の逃げ足をなめちゃいけないのだ。ドンマイ、日向君。迎えに行きなよ、皐の家まで」

「お家……。坂下さん、教えてくださいませんか? お優しいあなたにしか頼めません」

「え、知らないの?」

「はい。いつも送っていこうとするたびに、彼女は私の視界から消えてしまうのです」

「あー、なるほど。かわいそうにねえ。いいよ、連れて行ったげる」


……なぜ。

「皐さん、行きましょう」

「何で、お前が、うちの、前に、いる」

「坂下さんに教えていただきました」

 洸……。明日、待っていろよ。

「いいじゃないですか。行きましょう?」

「……分かった」

 家の所在地は知られたくなかった。多分面倒だから。まあ、知られてしまった以上は仕方ない。記憶を抹消するしかなさそうだ。

「皐ー」

「睦?」

「危険なこと考えないでね。行ってらっしゃい」

 ちっ、バレたか。アスファルトに叩きつければ色々と、私の記憶のすべても忘れるかと思ったんだけど。しょうがないか。

「おーい? 今日一緒に出かけてやるから、明日返ってくる英語のテストは九十三点取ってよ。でなきゃあんたを抹消する」

「……ええっと、はい?」

「あー、やっぱり九十六点以上。私の家の場所を知られた腹いせとして」

「え、それは……」

「異論は一切認めない」

「でも、テストもう終わったし……」

「え、何。私があれだけ教えたんだから、満点取るのが当たり前でしょう? それを四点も下げてやったんだから、ありがたく思いなよ。ほら、嬉しいでしょう?」

「あ、はい。きっとそうです。それで、えっと、どこのゲームセンターがいいか、希望はございますか」

「ない」

「分かりました。では、僕のお勧めの場所へ」

 わくわくして歩くこの男子について行って、楽しい午後を過ごせるだろうか。それはまったくもって分からないが、悪くはならないと思うな。

 ……あれ。この人の背って、こんなに高かったっけ。うーん、もう少し低かった。まあ、成長期男子なら、三ヶ月もあれば、ぱっと見て分かるくらい伸びるか。

 でも、初めてかも。この人のことを考えたのは。うん。やっぱり面倒だからやめよう。

「皐、さん? どうかしましたか? ボーっとしていると転びますよ」

「ふっ、馬鹿か。お前に後ろからタックルでもされない限り、私が転ぶわけがないだろう」

「…………」

 何か、急に嬉しそうに笑い始めた。気持ち悪いんだけど。

「やっと、ですね」

「何が」

「ようやく、本当の笑顔を見せてくれた」

 どういう意味だ。

「いつも僕に見せてくれる笑顔は全部、人をいじめて喜んでいるときの、ちょっと歪んだような顔なんですよ。心から笑っているのって、初めて見ましたよ」

 そうか。こいつは私のことが好きなのだったか。それくらい私のことを見ているくらいが普通だ。……かわいいところもあるんだね。

「あ、そう。よかったね。でも、いつも見せている顔も、心から笑っている顔だけど?」

「え、そうなんですか?」

「当たり前じゃん。人をいじめて、楽しくないわけがない」

「あ……そうか」

 気付くのが遅い。修行が足りない。

 これが、ちょっとだけこ奴のことを認め始めた時だった。……かわいい奴だ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ