熱々のでーと
はー、だるい。暑い。眠い。
梅雨が明けて、じめじめとして暑い。どうしてこんな日に出かけなくてはならないのか、まったくもって分からない。理解できない。しかも、学校帰りに、制服のままで。
「皐さん、見てください! ほら、あれなんか、きれいですよ」
「あー、はいはい。きれいきれい。すごいねー」
「あの、どこか入りましょうか。暑いですもんね」
だったら早く。いいところ見つけてよ、隣の席の男子。本気で昇華する。蒸発じゃなく、昇華する。今すぐにでもできる。はーやーくー。
「あそこの喫茶店、飲み物が全部おいしいんで……」
そうか、なら行くよ。もたもたしているな。しょうがないから、引っ張って行ってやらない。自力でついて来い。
「待ってくださいよー! そこでいいんですか?」
「悪かったら入らないでしょうが。席取ったから、早く」
「はーい」
ふう。涼しい。
あ奴と付き合い始めて、何度か二人で出かけた。そのたびに思うのは、あいつの優しさだった。すごく、気持ち悪いほどに優しい。やめて欲しいとまで思う。だけどまあ、自分のことを好いてくれている者を邪険にするほど私も鬼ではない。それなりの対応はしているつもりだ。
適当にココアを二つ頼んでおく。何でもいいのだろう、この人は。それに、甘いものに目がないことは知っている。この間、ケーキ屋の前でよだれを垂らしそうな顔で立ち止まっているのを見て、赤の他人のフリをしたから。
「皐さんは部活、入っていましたっけ?」
そういえば、話したことなかったか。あれ、なかったっけ。
「一応」
「へえ、何部ですか」
「さあねえ」
「教えてくださいよー。僕はちなみに、卓き……」
「あーそう。テニス部の幽霊部員してる」
「そうなんですか? 部活には、何回出たんですか」
幽霊部員と聞いて、少しも驚かないのな。まあ、そういうリアクションされても困るからいいんだけど。
「五回」
「ご……。むしろ、何でその五回は出たんですか」
「どうしても来いって言われたから。初回と、夏の市内大会に出るから手伝えって言われて、その直前に二回ずつ。一年のときと二年のときね」
「私もテニス好きです。奇遇ですね!」
「別に好きじゃないし」
「実は私もです」
「どっちかというと嫌いよりも興味ないし」
「ですよねー」
どっちだよ。こいつは、まったく。
「まあ、嫌いじゃないですよ、テニス。女の人の正式ユニフォーム姿、最高ですよね。いつまでも見つめていられる」
変態。
「皐さんも、そこに惹かれたんですよね? ……何か、言いました?」
完全無視で、運ばれてきたココアを飲む。あー、おいしい。
「皐さん、頭いいですよね」
「あー、よく言われる。まん丸だねって」
「いえ、形の話ではなく。中身です」
「穿り出してみたことがないから、わからない。それに、脳の見た目に良いも悪いもあるの?」
「見た目の話ではなく、です」
「いや、おいしくないとも思う。人を食べる趣味、あるの? おいしいの? 人間の脳みそって」
「味でもないですよ」
「やわらかさのこと? だから、触ったことないよ。穿り出したら、死ぬんじゃない?」
「……脳みそそのもののことじゃないですって。勉強、出来ますよね」
「嫌だ。嫌い」
「わかりやすい感想ですね。確かに、好きな人って確実に少数派ですもんね」
「え、あんた好きなの?」
「いえ、好きでも嫌いでも」
「何それ。はっきりしないのって嫌だなあ」
「きっ、嫌いです」
「別にどうでもいいけどさ。それが何? 一応苦手ではないよ」
「……あー、えっと、今度機会があったら教えていただきたいなと」
テスト前の今じゃなくて、なんだね。はーあ、めんどくさ。
「何」
「へ? 何がですか?」
「何の教科?」
「え、いいんですか?」
「良いも何も、最初っからそのつもりなんじゃなかったの」
……いや、そんな感動したような目で見られても。
「じゃあ、じゃあっ。……英語、いいですか?」




