実は、私たち双子……
「あれ。皐、そこの席なの」
「あれ。睦、そこの席なの」
『…………』
また同時に、同じことを言っている。まったく同じやり取りを、一ヶ月前の席替えのときにもにもやった気がする。というかやった。
ところで、今日は五月の最終日。全国模試の結果を、帰りのホームルームだからちょうどいい、と返されているけれど、四十人に返すのは時間がかかると、席替えを同時に行っている次第。
時の過ぎるのは早いもので、もうすぐ一学期の中間テストだ。
『斜めの位置関係、変わらないじゃん』
「まあいいや。よろしくね、皐」
「特に話すこともないけどねえ」
「そうだけど。班とかは一緒でしょ」
そういえば、そうか。改めてよろしく、とか言い合うような関係じゃないけどね。もはや近くにいるのが当たり前というか。別に、側にいないと落ち着かないというわけでもないけれど。
「さ、皐さんっ」
……む、聞き慣れた声が。だけど、これは聞き流そう。
「また、隣の席なんですね」
あー、そう? 気のせいじゃない? 私の幻影が隣に見えているんじゃない?
「これは、もう……」
うーんと、あれ。くじ引きの紙、どこにやったっけ。回収するのに、なくしちゃった。
「運命を通り越して、定めですね!」
「そんな訳があるかあっ」
「今日もいいキックですぅ……」
おー、おー。そのまま星となってみんなを見守ってあげな。ああ、あの人に人様を見“守る”なんて高度なこと、出来ないか。
「皐? 最近は、いや、ここ一か月くらい、当たりがきついね。ついに告白された?」
「何で。一体どういう連想ゲームをしたら、そこにつながるの」
「いや、何となくだけど。とりあえず、前よりもその、蹴りが強いよね。もっと優しかったよね」
「あー、毎日蹴っていたら慣れたのかもねー。技の精度が上がったんだよ、きっと」
「そう? まあいいや、素晴らしいことだしね。それで? 了承したんでしょ」
「え、何、他人の恋愛事情が気になるの? ……まあそうだけど、私が恋愛とかに興味ないことは知っているでしょ」
「うん、もちろん。でもだからこそ、断ることを面倒に思ったんじゃないかなと。当たっているでしょ」
「その通り。ゴールデンウィーク明けだよ。ほら、覚えていない? 私が紙を外に投げて、あいつは授業中なのにもかかわらず取りに行ったとき」
「あー、あったねそんなことも。へえ、それで? 放課後呼び出されて? 告白されたと。何か、青春しているねえ」
「こら、受験生が人の恋愛事情に首を突っ込むでない。自分の勉強の心配をしていなさい」
もう。どうせ睦は、めずらしがって楽しんでいるだけなんだから。……あ、くじ引きの紙発見。ブレザーのポケットに入れていたのか、いつの間に。でも、見つかってよかった。
そのとき、洸が走ってこっちへ来るのが見えた。そのまま来ると私に激突する。教室内で事故を起こすつもりなのか。
「皐! 睦にそんな心配はいらないよ。確実に公立の高校に行けるって。ほら、今返されている一ヶ月前に受けた模試を見てみなさい。あの超難関校を、遊び半分で書かせてみたんだよ。そうしたらこの子、安全圏だって。偏差値、余裕で足りているよ」
「僕はまだ見ていないのだけれど、洸? 何で本人じゃないのに受け取ってしまったの」
受け取った方もそうだけど、渡した方も問題だよね。さすがだよ、戸田先生。
ほら、洸。返してあげなさい。……って、私のまで持っているじゃない。返せ。
「乱暴な言葉遣いはよくありません、皐。そして、あんたもあんたよ? なに、この結果。この天才めが!」
「何でみんな私は何も言っていないのに、いい感じに反応してくれるかなあ。そして、それは私をけなしているの、ほめているの」
「ほめているに決まっているでしょうが。お嬢様校を志望校として書いたのは、本命? 受けたら絶対受かるよ、この成績は。受けたらダメだよ。やめなさい」
受けないって。私に限ってそんなところに行くと思う? ないね。幼なじみが、訳のわからないことを心配しないでほしい。
半ば呆れつつ、模試の結果を受け取るのに手を出すと、洸は手渡しながら心配そうな声を出した。
「ねえ皐、受けるの? 本気で?」
「皐が受けるわけないでしょう、洸」
「まあ、そっか。当然だよね、睦。……あ、そうだ。今日の放課後、暇? 二人とも」
「あー、ごめん。ムリ。睦と行っておいで。新しい本屋さんでしょ」
「えー、皐ダメなの? まあいいや。睦は空いているよね」
「うん。……そうだ、洸。いいこと教えてあげるよ。耳貸して」




