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596日目の告白  作者: ゆか
新年、いよいよ
23/30

卒業後。 1

 春。

 それはすべての始まりの季節と言われることがあるらしいと聞いたことがあるけれど、一体何が始まったのだろう。分からない。分からないことは考えるだけ無駄だから放置する主義の、今日も元気な間宮皐です。

 濃いピンクの梅の木の下に広げられた、大きな青。端のほうに遠慮がちに座る、なんていうもったいないことはいたしません。双子の兄と一緒に、一メートル以上余裕を残して足を完全に伸ばしている。

 今日は卒業を迎えた私たちが、全員で花見に来ている。卒業を惜しむ会らしい。

「いやはや、おめでとうございますですな、皐さん」

「そちらこそ、おめでたくございますねえ、睦さん」

「……睦さんに、皐さん? 一体何をしているのですか? 棒読み、どちらが上手いか対決ですか?」

「日向君、見て分からない? 卒業を愛でているの」

「睦さん。何でそこ、愛でちゃっているのですか」

「まあ、無事に義務教育が終わったんだよ。すごいことじゃない? うん。頑張ったよ、自分たち。ね、皐」

「そうだねえ。義務教育の前の教育を、受けたはずなのに足りていない人が向こうに見えるけど、まあ、私の人生に関係はないから放っておこう」

「ああいうのは無視するに限るよねー」

「お二人とも、坂下さんとは幼馴染じゃありませんでしたか?」

『何、そのどっかの小説から取ってつけたような設定。やめてよ、ありえない』

「……分かりました。もう、そのことについては何も言いません。ところで。学年全体でお花見するのはいいですけど、ほとんど自由行動ですよね。レクとかするのかと思っていましたよ」

『は? 面倒な』

「そうですか? 絶対に楽しいですよ」

「あ、そうだ。皐と日向君は、結婚できることになったんだっけ?」

「睦ー」

「……あー、ごめん。からかうのが楽しくって。うん、本当にごめんね」

「いえ、大丈夫です。むしろ、完璧なまでの感情の隠しようで言われると、余計に傷つきますよ」

「心がこもっていなかったか。……悪いこと、しちゃったね。ごめん」

「それもそれで完璧な演技じゃないですかっ。大丈夫ですから。本当に」

 んあー、暇。トイレに行きたくなってきた。

「行ってくる」

「いってらっしゃい」

「え、どこに?」

「トイレでしょ?」

「うん」

「あー、そうでしたか」

「……それで? 日向君。皐がいなくなったから訊くけれど、三月二十一日にもプロポーズしたの」

「いえ。お誕生日のプレゼントは贈りましたが」

「ああ、宅急便で来たね。え、どうして」

「妙案がありまして」

「何それ」

「何でにやにやしているんですか」

「別にー?」



 一体何で、公衆トイレって臭いんだろうねー。息を止め続けるなんて出来ないから、困るんだけど。ふう、無事に出てこられて、本当に良かった。

「あ、皐さん。おかえりなさい」

「あんたに迎えられても」

「おかえり」

 いや、睦に迎えられても。

「今」

「え、間違ってはいないのかな、それ」

 お、めずらしく睦が困っている。いい気味だ。

「さあ?」

「あ、の。皐さん」

「ん、何」

「僕も行きたいんですけど、どこですか?」

「……あっち」

「……アバウトですね」

「それ以外にどう教えろと」

「いえ。向こうですね、分かりました」

「あ、日向君。ついでにたこ焼き買ってきてもらってもいい? お金は、まあ、うん」

「私も。お好み焼き」

「え、あ、はい。いいですよ。では、いってきます」

『いってらっしゃい』

「……!」

 何、あれ。あの人、急にスキップしだした。そこそこの歳の男子がそんなことをしても、たいていの奴がかわいくねえよ。そしてそのたいていの奴だから、あんた。キモチワルイ結果だから。

「……ねえ、睦」

「何?」

「もう一回トイレに行ってきてもいい?」

「我慢しましょう」

「嫌だよ。胸にこみ上げてくるこれを、どうやって吐き出せばいいの」

「我慢しましょう」

「吐き気がする」

「気のせいです」

「だって、見たでしょ? 何、あの喜び方」

「まあ、まさかスキップするとは僕も思ってはいなかったけど」

「言ってあげたら多少喜ぶかな、っていう程度だったよね」

「うん、そのつもりで言った」

『……はあ』

 梅でも見て、気を紛らわせましょう。ああ、きれいだなー。うん、きっとこれは綺麗なものだ。

「……ねえ、皐」

「ん、何?」

「彼氏だよね」

「そう思う人もいる」

「いや、お付き合いは続けているんでしょう?」

「いやまあ、そう言えるのかもしれないけど、そもそもの問題として、付き合うって、何? どういうことをすればいいの」

「根本的な問題じゃん、それ。……まあ、とにかくですよ。あなたが他人をいじめるのが好きなのは知っているし、かなり控えていることも知ってはいるけど、当たりが強すぎやしませんかねえ」

「今さら?」

「うん。僕も人がいじめられている姿を見るのは大好きだから、何も言わなかっただけで」

「うわ、性格悪っ」

「皐には言われたくないねー」

「私もだねー」



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