ひとまず、一休止
商店街を歩き回って、ネックレスを一つ買い与えられ、ようやく休憩できることに。はあ、喫茶店ほど落ち着く場所はないよ。あったかーい。
「ただいま帰りましたー。まだ、運ばれていませんか? よかった」
トイレに行っていたのか。どうりでいないと思った。まあ、いてもいなくてもまったく気に留めることはないんだけどねえ。
「あ。来たよ、皐。ココアでしょ?」
「言われなくてもわかります、洸」
「いいじゃん。優しさだよ、ありがたく受け取って」
「あーはい。ありがとねー」
「もうっ。心がこもっていないんだから」
まあいいじゃん。
さてと。大好きなココアがようやく味わえるからねー。この至福のときは、誰にも邪魔させませんよー。…………。
「皐? ずいぶん乱暴に混ぜたね。そんなにぐるぐるしなくても、ちゃんと混ざるよ?」
「え? ああ。うん、これでいいんだ、洸。これくらいがちょうどいい」
「ふーん? 分かった。こんどからあたしもそれくらい混ぜるね」
「僕は洸がどれだけココアをかき混ぜようと気にしないけど、皐、それはちょっとひどいよ。もう少し優しさを見せてあげたら? 店員さんも頑張ったわけだし、何より、目の前の彼がひどい顔になってしまっているよ」
「私の自由でしょ。それに、私がこんなプロポーズを望んでいるとはどう考えても思えないし。私にはその顔が見えていないし」
「明らかに見ないようにしているけどねえ。まあ、そうだけど。皐はそんなロマンチストじゃ……ぶふっ。まあ、そうだねえ」
「そこ、否定してくれて構わないよ」
「ごめん、ロマンチストじゃ……ふはっ、あははは、うん。まあいいや」
何で否定してくれないのか、まったく分からないんだけど。構わないけどね。
「皐、ココアに何かあったの? あたしにも見せてー」
「はい、いいよ。どう考えても、さっき混ぜたからもう見えないってことは分かっているよね。ただのココアでしょ」
「あー、ずるーい! 何が書いてあったの?」
「ハートマークが、二重になっていた」
「なるほど。そしたら、日向君はなんて言うつもりだったの」
「いや、私に聞かれても。多分、あれだよね。……」
「僕が思うに、結婚、してくれませんか? って寄り道せずに真っ直ぐ、こう、決め顔して言う予定だったんじゃないかな」
そう、それ。でも、私はそんなものは求めちゃいません。
と考えたところで、洸がニコニコ笑って口を開いた。
「あー、いいね。いい線いっているよ、おそらく」
「坂下さん。それ、本当ですかっ?」
食いつき、半端ないな、お前。
「ん? あー、えーと、どれのこと?」
「そんなに大して話していませんよね。いい線いっている、ということです」
「あれ、そんなこと言ったっけ」
「言いましたよ」
「ごめん、記憶になくって。でも、あたしが言っていたならそのはずだよ。聞き間違いじゃなければね。うん。きっとそう。何のことか分からないけど」
「ありがとうございますっ」
「いやどういたしましてっ」
「はい、そこ。手を握り合わない。そして皐。なぜココアじゃなくてお冷を一気飲みしているの」
「……今、この状態で甘いものを飲めるかって。あー、足りない。ねえ、そこの。まだ一口も飲んでないよね、お冷は」
「え、あ、はい」
「よし」
「皐、そんなに慌てなくても大丈夫だと僕は個人的に思うけど」
「ああ、ようやく流れていった」
「何が?」
「ここら辺のモヤモヤした気持ちの悪いもの」
「……あのさあ。せめて隠してあげたら? 彼、馬鹿ではないから気づいているんだよ、百パーセント」
構わない。私の気分を害すものは、すべて排除するのみ。……もう少し飲もう。




