あれ、もう? はい、そうです
「皐ー! さっさと降りて来ーい! 待ちくたびれたーっ」
二階の自分の部屋から、洸の元気な声が開きかけの玄関からと、直接窓を揺らして、聞こえてきた。うるさいし、勝手に人のことを待っていて催促するって、人間としてどうなの。ちょっとどうかな、と思うんだけど。
今日は高校の合格発表を見に行くらしい。一番近い、公立の高校だ。それはかまわないのだけど、別に朝早くから行く必要はないよね。せっかくゆっくり寝ていられる日なのに、わざわざ早起きするなんて、だるい。
「おーい? 皐、置いていくよ。……いってきます。洸、お待たせ。行こうか」
「あれ、睦だけ? おっかしいなあ。日向君が来てくれているって言うのに」
それは本当なのか。
「あー、洸。私急に気分が悪くなってきた。見てきてよ、私の分も。お願いねー」
「え、大丈夫? 分かった。横になっていたほうがいいよ」
「洸、何言ってんの、仮病に決まっているでしょ。ほらあ、皐。行くよー?」
「はいはい、待たせたねえ」
うー、寒い。だから外には出たくなかったんだよ。もう三月だよ? いい加減あったかくなってきてもいいじゃん。寒い、寒い。
「皐、さん? おはようございます」
「あー、はいはい。本当にお早くてございます」
「早くに起こしてしまって、すみませんね。まだ、眠いですか?」
「まあ、眠いけど。それに、こんなに早いのはあんたのせいじゃないでしょ。何で謝るの」
「あ、そっか。いやそれでも、八時前に来るとは思っていませんでしたから、僕も驚きましたよ」
「はあ? あの子、八時前に来たの? 信じられない。発表されるのいつだと思っているの。正午だよ? ありえないわー」
「ですよね。ちょっと早すぎだと、思いました」
「ちょっとじゃないよね」
「そうですねー。……あ、そういえば。皐さん、第一志望は受かったんですよね」
「何でそこ、受かったんですか? じゃないの」
「だって、受かったんでしょう?」
まあ、そうだけど。
「もし落ちていたら、どうフォローするつもりで聞いた?」
「そんなはずありませんから」
素敵な笑顔をありがとう。ちょっと前だったら即刻で気色悪いって言われているよ、その顔。うん、絶対言った。
「今八時半だから、学校に着くのって九時十分くらいですよね。どうするんだろう」
「日向君、いい事を聞いてくれたね!」
「あー、いえ。坂下さんに聞いた覚えはないのですが、教えてくださるなら嬉しいです」
「あれ、そうだったの。なんかごめんね。あのねえ、あたしの大好きなお店に行くの。それで、皐に似合う洋服を探してー、着せてー、街を歩いてー、喫茶店でおしゃれにランチ! 夢だったんだー、実は」
「素敵な夢ですね」
これからかなえてやる気ゼロのような返答だな。まあ、それだけこいつも迷惑を被ったということだ。
「日向君なら分かってくれると思ったんだけど、この子にかわいい服を着せたら、ものすごい輝くよね」
「そんなの、当たり前じゃないですか」
「そこの二人。人の妹を勝手に遊び道具にしないでよー?」
「え、睦は分からないのっ?」
『まったくもって理解不可能です』
「そこ、双子でハモるところ?」




