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596日目の告白  作者: ゆか
新年、いよいよ
18/30

睦月一日


 こんにちは、日向夏斗です。

 私の嘆きを聞いてください。この間、皐さんを一人私の家に置いて出かけたときに発覚したのですが……

「日向君? ちゃんとついて来てる?」

「あ、坂下さん。大丈夫です」

「ならよしです」

 そう。そのときに発覚したことが、なんと、皐さんは……

「日向君、前を歩いてもらってもいい? あのね、どこかに置いて来ていそうだから、視界に入るようにしてほしいんだ。初詣って、人がいっぱいいるでしょ」

「了解です、睦さん」

「よろしくねー」

 えーっと、何の話をしていたっけ。あ、そうそう。皐さんは、なんと、とてもショックなことに……

「さっさと歩け、変態」

「皐さん。人ごみでそのワードはタブーですよ。まだ何もしていませんから」

「は? 事実を言って何が悪いの。それに、あんたの言い方もかなり誤解を招くよ」

「あ……気付かなかった。そういうことはしませんから」

「…………」

「あのう、聞いていました?」

「何が?」

「もういいです」

 えっと、だから、ショックなことに、皐さんは今まで一度も……

「痛っ」

「わ、すみません。申し訳ないです。お怪我はありませんか?」

「いっ……。だ、大丈夫です……」

「顔が赤いですけど、風邪でも召されているので?」

「い、いえっ。大、丈夫ですからっ」

 ……それならいいのだが。

「どんくさー」

「のろまー」

「皐、睦、はっきり言いすぎ」

『だって、事実じゃん』

「そうだけどっ」

『あ、ほら。今、洸もかなり失礼なことを言ったよ』

「え、あ、うそ」

「坂下さん、お気になさらず。慣れていますから」

『あー、日々鍛えられているもんねー』

「誰のおかげですか」

『さあ、誰でしょう』

「いや、皐でしょ?」

「そうかもしれないけどさ、洸。もしかしたら違うかもしれないよ」

「じゃあ、誰だろう」

「皐さん、その可能性は皆無です。ご安心ください」

 ああ、もう。話が進まない。皐さんはまだ一度もですね……

「ねえ、日向君。お賽銭、いくら入れる?」

「はい? いくらでもいいんじゃないですか? 僕は、まあ、五十五円入れます」

『微妙だねー』

「いっ、いいでしょう、別に」

「うん。とってもどーでもいいことだけど」

「こら、睦。最近、皐に便乗して人のことをからかうのが増えているよ。やめなさい」

「何言ってんの、洸。睦はもともとこうだよ」

「あー、言われてみるとそうだったかもしれない」

「うん、そうだよー」

「正直者だね、睦」

「うん。僕がまだ一度も嘘をついたことないの、洸なら知っているでしょ」

「知るわけがないでしょー」

 この人たちといると、楽しくて。現実を忘れられる。すごく楽だなあ。

 ……っと。忘れていました。皐さんは、まだ一度も僕の名前を呼んだことがないんです。そういえば、という感じですが、僕がいないところでも聞いたことがないと、しかも「日向」と呼び捨てすらされていないと睦さんが言っていたので、本当でしょう。

 ああ、いつになったら呼んでもらえるかなあ。驚くような徹底ぶりだから、難しい。九ヶ月も前に出会って、一度もですよ? しかし、諦めは悪いので、頑張ります。

「……おい、変態。聞こえてる? 人様に迷惑かけて、なにガッツポーズしてんの。さっさと歩けっての」

「皐、一応言っておくと、迷惑がかかっている人様って、僕たちだけだから。特に問題にはならない範囲だから」

「いや、私の邪魔をしている時点で大問題でしょ」

 あー、なんか本当にものすごく遠い道のような気がしてきたので、やっぱりいつか呼んでくれるのを気長に待とうと思います。はい。


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