一人のときは、素直なんです。
…………
「……。……あー、寝てたか」
目の前に置いてある、小さな紙切れを見つめながら思った。つい眠ってしまっていたらしい。おはよう。
毛布が、かかっている。あったかいから、このままでいよう。
んーと、あれ。この紙、なにやら文字が書かれているな。うんと、とりあえず読んでみよう。
──皐さんへ
ちょっと出かけてきます。すぐに帰りますからね。
日向夏斗──
内容を理解するまで待ってね。えーっと、うーんと、うー、はい。分かった。
「客人を置いて家を留守にする奴がこの世にあったとは」
たった今知りましたよ。ところで何時だろ?
壁にかけてある時計を見ると、四時四十五分。そろそろ帰らなくてはならない時間帯じゃん。どうしようか。
……あ。時計が止まった。ぱったりと動くのをやめたよ。すごい。今までは正常に動いていたのだろうか。止まりかけていたら心配だから、携帯電話で確認。……ちょうどだ。これはもはや奇跡だよ。そしてその瞬間を目撃した私ね。すごい確率だよ。
それにしても、どうしよう。勝手に家を出て、鍵が開けっ放しだと防犯上よくないしねえ。まあ、しばらくはお留守番していよう。仕方ないから。
でも、もう勉強する気もないし、何しようかな。あー、暇。
……あの人、何をしに出かけたんだろう。散歩かな。こんなに寒いのに。元気だねえ。散歩をしているとは限らないけど。変人だからありうる。
だけど時々思うのは、あれは変態なのに、私は何でずっと一緒にいるのだろうってことだよね。まあ、顔も悪くはないし、バカでもないし、それなりに空気読めるし、自分の意見を持ってはいるけど。だから別に毛嫌いするタイプじゃないのは分かるんだけど。でも、変態だよ? 不思議だよなあ。しかも、結婚してもいいという約束までしちゃっているし。
はあ……分かってはいるんだよ、素直じゃないのは。確かに惚れていると思うもん、あの人に。それは間違いないと思う。優しいからねえ。でも、それだったらもっと別の人に惚れこんでいてもおかしくない。あんな変態じゃなくて、もっと普通な人もいるし。何でよりによって変態を好きになったのか、だよ。分からないなあ。
あー、まだ帰ってこないのかな。そろそろ来てもらわないと困る。帰れない。どうしよう。
「ただいま、帰りましたあ……」
小さな声。これは、聞き間違えようもない、奴のものだ。
「皐さん、起きているかな……あ。おはようございます。すみません、勝手に留守にして。よく眠れましたか?」
「当たり前のような顔で謝られても嬉しくも何ともないのだけれど」
「いえ、だからごめんなさいって……」
「いっぺん、深ーい眠りにつきますか? 一瞬にして意識がなくなりますけど」
「ぜひとも、やめてください」




