日向夏斗がお届けする、冬休み
「あのー、皐さん。これって、このやり方でもいいですよね? 何で答えが合わないんだろう。分かりますか、皐さん。さつ……あれ、寝てる?」
うん、寝ていますね。完全に。
寝顔、初めて見る。かわいい。すごくかわいい。これはいくらなんでもずるいですよー、皐さん。鼻血ものじゃないですかー。
じゃあ、ノートを見せてください。どこまで進みましたか? あ、同じところ。しかも、これって……同じやり方でやっていますね。ちょっと見せてもらいましょう。そうっと、そうっと。起こさないように。大丈夫、かな。
さて、写しましょうか。えーっと、あ。ここ、計算を間違えている。のに答えは合っている。何ででしょうねえ。まあいいや。そうっと皐さんの手元に戻して。
「皐、さん?」
……よかった、起きていない。
ああ、やっぱりかわいいです。初めて会ったときは、こんなに相手するのが難しい人だとは思っていなかったから、最初のうちは戸惑っていたことを今、思い出しました。それに、僕のあの変態キャラが通じないのは初めてだったし、困りましたよ。だけど、慣れるものなんですね。
むしろ、皐さんといると素の自分が出せるというか、あれ。素の自分って、変態キャラじゃなかったのですね。こっちが本物の僕だったんだ。見つけてくれたんですね、皐さん。ありがとうございます。
……と夏休みに初めて思ってから、僕は他の女性は目に入らないようになったんですよ、皐さん。自分も知らない己の一面を見つけ、気付かせてくれたあなただけを、ただひたすらに見続けているのです。まあ、伝えていないわけですから、知らないでしょうけれど。
いえ、知らなくていいのです。僕はあなたを振り向かせたいから。完全に自力のみで。だから、もう少しだけ待っていてくださいね。
「絶対に……あなたの望むプロポーズをしてみせますから」
約束の締め切りは、三月二十一日。何とかして見せます。
はあ。それにしても、どうして人は恋をするのでしょうねえ。苦しいことも多いというのに、止められないんですよね。
……坂下さんと睦さんに会いたくなってきた。あーでも。どうしよう。
えっと、紙に書いていけばいいだろうか。そうしたら、暖房を……でも、消してしまうと寒いですよね。一応毛布をかけて、設定温度を下げよう。ストーブじゃないし、大丈夫でしょう。
ごめんなさい、皐さん。




