受験生の冬休み
ふあー、あったかい。
寒い日は、暖房の良く効いた部屋にこもるに限るよ。とっても気分がいいからねえ。
「皐さん、寒くありませんか?」
「まったくもって問題なし」
今日は、こ奴の家にてお勉強会。受験直前の冬休みですから。なぜ自宅でやらせてくれないのか、ものすごく不満に思うけれど、まあいいや。教えてほしいって、ものすごい形相で言われたから。
「ココア、ここに置きますね」
「あ、どうもねー」
「さて、何をしましょうか」
「そうだね、英語じゃない?」
「え、いきなり勉強ですか」
「緊張感ねえな、お前」
「はい。やる気もありません」
「じゃあ、何のために私を呼び出したりした?」
「もちろん気分で……ぐはっ。い、痛いじゃないですか、急に殴ったりしたら!」
しかもぐ、グーでなんて、とか言っている阿呆は放っておいて、ノートを開いてみる。どこをやろうかな。あー、関係代名詞がちょっと危ういな。
「きれい、ですね」
「……ん、何が」
「ノートです。字もきれいだし、まとめ方も上手です」
「きちんと見てもいないのに、まとめ方とか分かるの」
「ぱっと見ですよ。見やすいじゃないですか」
「別に、普通だけど」
問題集を開きながら返す。あれ、判別法のところってどこだっけ。確かこの辺だったと思うんだけど。
「うわあ、それもすごい」
「……どーゆう意味ですか」
「分厚い」
「一センチもないけど」
「薄くない」
「比較的薄いけど」
「全部、解いたんですか?」
「まあ、二回は」
「えー? すごい」
「だから何で。……あー、分かった。あんたのやる量が少なすぎだ。はい、これを貸してやるから、今すぐやれ。全部」
「え、これですか? そんなに多くはないですけど、一日で終わる量じゃないんじゃ……」
「出来るから。私が三日で一通り終わらせたんだから」
「なおさら不可能ですよ」
「あー、無理ならいいけどねえ。中学校の勉強くらいは出来ないと嫌だなあ、私」
「やりますっ」
「それでよろしい。男に二言はないからね」
「そう言われると、ちょっと……」
「何?」
「いえ……」
静かなときが流れた。ほう、意外と真面目な顔もするんだな、こいつ。よかった、集中してできそうだ。
「分からない……。皐さん、これ、何ですか?」
安心したのもつかの間、声をかけられた。開始から一分と経っていないと思うけど。十秒かそこらだよね、まだ。
「答え、見たの」
「はい」
「解説は」
「見ました」
「分からないの」
「まったく」
「バーカ」
「真っ直ぐな言葉ですね」
「カーブをかけたほうが良かったか」
「いえ、ストレートで構いません」
「それで? どこ」
「これ、です」
どれどれ? えーと、うーんと。
「……ありえない」
「え?」
「これも知らないで今まで生きていたのか」
「そんなにまずいですか?」
「だって、It is didn’tって。一年生に帰れ」
「それはちょっと、ご勘弁ください」
「せめて今の一年生に土下座しろ」
「それも、辞退させてください」
「できるでしょ、あんたなら」
「あ、いや……」
「それとも何。先輩としての威厳とか、気にする? ないでしょ、そんなもの。あるわけないね。冬休みが開けたら、全校の前でやって」
「えー?」
「もういいから、どーでも。それで。過去の否定文の書き方、記憶にないの、皆無?」
「……覚えてます。ちゃんと。ごめんなさい」
「どういう意味ですか」
「皐さんにかまってほしかっただけです」
「あーそう」
「ごめんなさい」
「いいよ、別に。じゃあ、オセロしようか」
「えっ……?」
「その問題集、三分の一まで終わったらね」
「……鬼畜」
「はい? 何? よく聞き取れなかった」
「いえ。やる気、出ました」




