れっつ、ぶんかさい Ⅰ
「皐、お疲れ。上手くいってよかったね」
「何その棒読みのお手本」
「素直に受け取ってよ。本番だからって特に緊張することもなくできたのは、すごいことなんだよ、一応」
「そうなの? いや別に、緊張するほどのことでもないでしょ。教室に入る観客の数なんて、たかが知れているわけだし。それに、いちいち緊張していたらこれからまだ何回もやるのに、もたないでしょ」
「まあ、そうだけどねえ。みんなはすごく緊張しているじゃん」
「それが異常だよって思うけどねえ。……あ、睦は明弥ちゃんと回るの? じゃあ暇じゃないよね」
「もちろん。皐も彼と回るんじゃないの?」
いやいや、そんなことはしないよ。だって、嫌だもん。周りに変な誤解されたりしたら、困るもん。絶対、嫌。
「ありえない、って顔しているけどさ、皐。日向君なら、迎えに上がるんじゃないかなって思うんだけど。違う?」
「その可能性をね、確実に確率は百パーセントだけどね、懸命に抹消しようとしているのだから。口にしないでよ。分かっているって」
「あとさ、勝手に心の声を聞いておいて悪いんだけど、変な誤解って、付き合っている以外にないでしょ。それも事実だし」
「事実を伏せたいの。というか、前にも言ったと思うけど、事実って言うのは伏せておくために存在するんだよ」
「あー、聞いたことあるねえ。皐と彼の出会いの日じゃん」
「あー、あー。聞いてない。まったくもって何も聞こえなかったぞー?」
「そこまで否定する? 最近見直したんじゃないの? だから約束もしたんじゃないの? ただの遊びじゃないってことは、僕は知っているし」
もう、睦は思ったことをそのまま言うから。まったく。悪気がないから許せるんだけどさ、こう、真っ直ぐに体のどこかの部位に突き刺さってくるよね。……ん、あれ? どこの部位だっけ。腿の辺りだったか。いや、頭ということにしておこう。うん。大事な場所だしね。
「人の心配はいいから、睦。ほら、彼女が来たよ」
「えっ、うそ。どこ?」
「いないけど。言っただけ」
「あのね、皐。言っていいこととそうでないことと、分かってよ。大分傷つくんだよ、彼女を先に見つけられなかったって……あ」
「ほら、来たでしょ。私の予知能力だ」
「違うし。じゃあ、次の劇の時間に遅れないでね」
遅れるわけがないでしょ。もう。
「……あのー」
遠慮がちな声に振り返ってみると、そこには背の低い女の子がいた。一年生だろうか。
「何、どうかした?」
「もし良かったら、その、来てください」
渡されたのは、チラシ。内容は、えっと、二人組みでいくつかゲームをやって、点数に応じて景品がもらえるというもの。へえ、面白そう。
「分かった、ありがとう」
……ん、ちょっと待てよ。これって。
「あ、やっと見つけましたよ、皐さん!」
「嫌な予感はしていたが、タイミングが良すぎだよね。なぜここにいる」
「さっき、後輩からこんなチラシをもらって。いい機会だと思って探し回っていたんですよ? 行きましょう、一緒に」
「何でお前も持っているんだ、それを」
「え、皐さんも持っているんですか? うわあ、嬉しいなあ、おそろいだなんて……って、えーっ? ちょ、投げ捨てちゃダメですよ! 床に〝てしっ〟てしたら、メンコじゃないですか、それ!」
「他の人ももらっているのは許せるが、お前と一緒なのは嫌だ。絶対に嫌だ」
「ちょっと、皐さん。ここ、その教室前ですけど」
知るか、そんなこと。関係ないもん。
「と、とりあえず。入りましょうよ。後ろ、つっかえていますし、ね? いいでしょう?」
しょうがないから、いいか。どうせ暇だし。
「あ、いらっしゃいませー。ようこそ。こちらがスタンプカードです。ここからは、ペアで手をつないだまま最後まで行ってもらいます」
「いきなり説明を始めるな」
「皐さん、後輩に当たらないでください。かわいそうですよ」
「あー、分かった。その分、何十……いや、何百倍かになってあんたに行くけど」
「えーっ? それはちょっと……」
「かわいい後輩の為でしょ? たいしたことない」
「うう、いいです。その条件をのみます。……あ、中断させてごめんね。説明、お願いします」
「あ、はい。えっと、五つのゲームが終わったら、手をつないだままの状態でゴールの場所へ行ってください。そこで、点数に応じて景品をゲットできます。それでは、行ってらっしゃいませ。頑張ってください、先輩。……ご愁傷様です」
聞こえていないつもり? 私に聞かれたら、こいつがもっとかわいそうなことになるって言うのに。




