猿大名
その日、新しい領主がその国の名主の子弟を集めていた。年の頃は物心ついて間もない者から十代半ばの次男、三男たちである。
一つの部屋に集められたのだが遊び盛りである、騒がしくて仕方がない。ワイワイガヤガヤ……。
寅の刻を告げる鐘がなった頃その部屋に凛々しい若者が入ってきた。
「殿のお目通りである。静まれ」
軍場を統率し、殿をこの地位に押し上げた随一の武将の一喝に皆が静まり返り、遊びをしていたものはその手を止め縮まるように正座をする。
スッスッスッ……
布の擦れる音がかすかに聞こえてきて、やがて部屋の隅にも届くほどとなり止まる。
障子を開くと小姓が二人入りその間を一人の男が入ってきた。
「猿じゃ……」
誰かがひっそりと声を漏らした。
凛々しい武将の殿とはいかなるものかと勇壮な出で立ちを期待していたものの期待は裏切られた。
小男で顔は猿にそっくり、衣装は派手ではあるが袖がえらく長い。猿回しの猿が衣装を整えたものをそのまま大きくしたような男である。
「誰じゃ。猿といったのは?」
殿は笑顔で言った。人懐っこく安心を与える笑顔でその場の空気が緩んだ。
「……はい。私です」
前から二列目のいかにもいたずら好きそうな赤い頬をした少年が名乗りでる。
「そうかそうか。お主か」
数秒後その子供の首がはねられた。
「言葉には気をつけないとイカンぞ」
唐突のことで理解をできないもの、恐怖に泣き出すもの、正座がさらに縮こまったもの……
反応は千差万別であった。
「わしは猿と言われるのが嫌いでのう。二度はいわんからな」
皆、無理にでも正座になおり表情はこわばらせ一心に殿を見る。
「どうじゃ、タカモト」
殿が若い武将に尋ねた。
「使えるものは七人と思われます」
かしこまり答える。
「うむ。みなはもうかえって良い。使者が来たものだけ。また会うとしよう」
殿は踵を返し部屋を出て行った。
「帰るが良い」
小姓を残しタカモトも部屋を去る。
「どうしたお前たち、もうかえって良いぞ」
嫌味な目をした小姓が偉そうに言う。
その言葉を聞いて五歳くらいの目付きの鋭い坊主頭が立ち上がり弟の手を引いてさっと歩いて部屋から帰っていった。それからバラバラに皆立ち上がりそれぞれの家路につく。
翌日、昨日の言葉通り七人の子どもたちが同じ部屋に集められた。畳はすべて新しいものと入れ替わっており青い匂いが部屋を潤す。
殿が入ってくると皆、凛とする。
「名を与える」
一列に並んでいる殿から見て左の子供から名前を与え始めた。
「ヨシアキ」「キヨマサ」「ミツナリ」「マサシゲ」「ヨシツグ」「ムネトラ」「ノブカツ」
「これよりこの塾で学んでもらう。立派な侍となることを望む。わしの名はヒデツグまだ新米の大名じゃ。お前たちの働きにわしの将来がかかっておる。ははは」
笑顔は本当に人懐こい。女性なら心を開きたくなる笑顔だ。男なら信頼を寄せたくなる。
かくして七人の子たちは武将としての振る舞いや礼儀作法、学問を学び始めた。
そして二年が経ったころ……
少しずつ書いてみようと思います。評価していただけると嬉しいです。知識不足で違和感があると思いますがお許し下さい。