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アピール

作者: 山口ゆり

その写真を見つめると、自然に溜め息が零れる。

ちょうど後ろからつむじを押されて、そのまま鎖骨に顎を刺すように項垂れた。


「なーに分かりやすく落ち込んでるんだ?」

「だってぇ……」


つむじを押さえて振り向くと、1人だけ営業先から来たせいで今になってしまった同期の彼が後ろに立っていた。

見たこれ、とさっきもらった写真を彼に見えるように持ち上げると、その骨ばったキレイな親指と人差し指が私の手の中からそれをつまみ上げた。


「あ、お酒。ビールでいい?」

「サンキュ。っていうかこれの何が気になるんだ?この間の社員旅行の写真だろ」

「まあね。枝豆も要る?」

「いや、食いもんはいいや」


ビールを手渡すと、彼は隣の座布団に座って長い脚を片方だけ立ててそこに肘を乗せ、ジョッキに口を付ける。

で?と促されて、しぶしぶながらショックを受けていた原因を話し出す。


「あんたさ、結構なイケメンなのに私より女子力高いなって思って」

「は?」

「いや、だからね、この笑顔でこんなにダブルピースが似合うとか、女子の端くれとして悔しいことこの上ないけど、負けた!って思って」

「……」

「私笑顔ヘタなんだよね。口が小っちゃ過ぎるのか頬肉がたるんでるのか、口角がうまく上がらないのよ。だから写真はいつもヘンな顔してて」


両手の人差し指で口角をイーッと引っ張る。

コンプレックスだらけの顔の造りの中で、この口の小ささはトップクラスのコンプレックス。

だからこんなとろけるような笑顔で、ダブルピースとかアイドル並みに羨ましいって言うか……。


「ねえねえ、その極意を教えてよ。もしくは可愛いピースの作り方とか」


来週高校の同窓会あるから、実りはなくともせめて記念写真くらいより良く写りたいと思って。

わずかばかり彼の方に向き直って、お願いする。胸の前で両手まで合わせてみた。


「お前酔ってんの?」

「え、全然」

「オレをバカにしてるだろ」

「してないし!いたって本気」


ふっとそれまで合っていた目線を外されて、溜め息をつかれる。


「え?何―――」

「30過ぎた男が、笑顔とかピースが可愛いとか言われて『嬉しい』ってなるわけないだろ」

「え、そうなの?だってその指とかピースするとすごいキレイだしさぁ」


私なんてこうだよ。

短い指でピースをすると、まるで小さい子の手みたいでがっくりする。

こいつの手みたいに骨ばってるのは女子としては微妙かもしれないけど、せめてもうちょっとすらっとした指だったらなぁ。


「ぎゃっ」


そんなことを考えていたら、不意に右手が取られる。


「ふはっ、『ぎゃ』ってお前色気なさすぎ」

「だ、だってビックリした……」


彼が私の手と合わさるように手のひらを重ねた。

何事かと見つめると、ニヤリと不敵に笑う。


「考えてもみろ、こんなに大きさ違う手してる野郎に『可愛い』はないだろ」

「うるさいな、そういうことじゃないの!」

「そういうことだって」


そう言うといきなりぎゅっと手を握りこまれて手を繋がれた。

驚いて、驚き過ぎて固まってしまった。


「まぁ、『女子力が高い』とか訳の分からんこと言い張るなら、そうじゃないところをアピールするしかないな」


そしてその手は指と指を絡められてまるで恋人繋ぎのようにされ、そのままこいつは普通に飲み会を楽しみ始めた。

そのせいで課長や他の人たちに囃し立てられるハメになり、私がそうじゃないと弁解すればするほど泥沼にはまった。

一体どこで間違えた? 何でこんなことになった!?

酔っぱらってるのかあいつは何言っても全く通じないし!

つ、疲れた……!!


そんなこんなで、全く楽しめない飲み会の夜は更けていきました。

周りはみんな彼の気持ちを知って面白おかしく見守っているパターンと思われ。

仕事は出来るのに鈍感だったり天然だったりする女の子が好きです。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  とても読みやすくて良かったです。女の子が自分のコンプレックスを、男にぶつけてるのが面白いと思いました。 [一言]  二人の関係はこれからどうなるのでしょうか?  これからも頑張って下さ…
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