初戦闘!
目の前に川が流れている。墨汁でも流したんだろうか。と思うほどその川は黒かった。そう考えていると黒い和服を着た少女が木の船に乗ってこちらに手招きをしている。乗れというのか。その船に俺が近づいた途端、
「だめー!」
という聞きなれた声によって、俺の意識は目覚めていった。
「うぅ・・・・」
もう朝か。と思っているとすぐそばに陽子がいた。
「おはよっ!和也」
「おぉ・・・陽子・・・・。おはよう。」
「ったく軟弱にもほどがあるわよ。軍の訓練普通の人より多少ハードだけどそんなんで三途の川寝ている間にわたりかけないでよ。まったく。」
ここは戦艦ヘリオス、俺が配属された艦だ。戦艦といっても居住区が結構広いため空飛ぶマンションとでも言ったほうがいいだろうか。
「にしてもお前、なんで俺が三途の川わたりかけたことがわかったんだ?」
「あんたバカね~。あたしの超能力忘れた?」
「ああそういえばそうだったな。」
こいつの超能力ってたしか他人を夢を見るだったけな。夢の中までプライバシーがこいつに掌握されているのはいやなもんだ。
「はいっ!ボケッとしてないで早く朝食食べてね。」
「へいへい。」
俺は艦の食堂へ向かった。ていうか食堂ついてるとかこの艦どんだけ金つかってんだか。
食堂でとある人物と鉢合わせしてしまった。
「おはよう。天児和也少尉。昨日はよく眠れたか?」
瑛明蘭だ。階級は俺と同じ少尉。この人とはちょっと一悶着あったので少々苦手だ。その一悶着があったのは俺がこの艦に配属された初日にさかのぼる。
「ようこそ、戦艦ヘリオスへ。私が艦長のメイリス・セーヌよ。よろしくね。早速で悪いけれど、君はあの機体をどうやって入手したのか教えてもらえないかしら?」
いきなりそうきたか。
「夢の中でバルキリーと名乗る女性が言ったんです。この世界を救えるのは俺しかいないって。それが何日も続いたある日、俺の学校が・・・・・・・・。」
俺の説明は少々続いた。
「なるほど。確かにあの予言書のとおりね。」
「予言・・・・・・・?」
「約12000年ほど前に書かれたと思われているもので、軍が保管してるものなんだけど、それにはこう書いてあったわ。時間軸を破りし悪魔がこの地におりたとき、それを阻止する英雄が現れる。そして、その英雄というのがあなたよ。天児和也君。」
「でも、俺はただの民間じ」
民間人じゃないですか、といおうとしたところを陽子にさえぎられた。
「あんたバカね~。ただの民間人だったらあんないきなり敵と戦って、しかも全滅させられるはずがないでしょうが。」
「まぁそれに、優秀な戦士に必要なのは、圧倒的な力や技術じゃなくてどんなときも折れない鋼の心と不屈の魂よ。」
「それにぃ~和君もぉ~こうゆうシチュエーション嫌いじゃぁないでしょぉ~。」
どうやら俺は逆らうすべを失ったらしい。Devilより怖いやつらだ。
「さて、長い前置きはさておき、この艦のクルーを紹介するわ。あ、そうそう。この艦のクルーは約1名を除いてすべて女性なのよ。」
「約1名って誰です?」
「あんたツッコむところそこぉ?」
「その1名はあなたのメカにしようと思ってるの。まぁそれはさておき、香奈枝、陽子、和也隊長を案内してあげなさい。」
「了解!」
「りょうかぁい。」
そんなこんなでわけもわからぬままに2人に連れて行かれた。
一通り案内が終わったところであの人物に出会った。そう、瑛明蘭である。
「おい、陽子軍曹と香奈枝曹長。そいつは確かこの前噂になった一般人だろ。一般人をこんな重要施設に入れるな。」
ちなみに今俺らがいるのは格納庫っぽかった。
「いいえ、瑛少尉。この人はもう軍がこの艦に配属を決定しています。階級は少尉で私たちの隊長ですよ。」
「そうなんですよぉ~。」
あぁ。話がややこしくなりそうだ。こんな展開何かのオンラインゲームであった気がする・・・・。
「なに、こいつが私と同じ少尉でしかも私と同じ小隊長だとぉ!おい貴様!名前は何だ。」
「天児・・・和也だ。」
「おい天児和也!私と勝負しろ!貴様がどの程度の力量か見てやる。」
「悪いが今は忙しいんだあとにしてくれ。」
「ほう、怖気づいたか。噂の小隊長とやらもたいしたことなさそうだな。」
ムカッ
「なんだとっ!俺が一怖気づいたって言うんだ!」
「ならその力を見せてみろ。ただし、その勇気があるのならな!」
かくして瑛少尉との一騎打ちになってしまった。
「大丈夫かな・・・和也・・・・」
陽子は心配そうにしながら見ていた。一見互角に見えなくもないが、押しているのは明らかに瑛少尉だ。戦闘経験がほとんどない和也は苦戦を強いられていた。
「大丈夫よ。」
いつの間にかすぐ横に艦長がいた。
「確かに苦戦は強いられているけど、目はまだ死んでない。もしかしたら、彼にも勝機があるかもね。」
うふっと不敵な笑みを浮かべて艦長は立ち去っていった。
(そうよね、大丈夫よね。和也ならきっと・・・・・)
今はそう願うしかなかった。
(クッ・・・・・・・・・・!)
今この場で戦っている俺は、軍人の強さをいやというほど覚えた。しかもそれがエースパイロットとなればなおさらだ。しかも、相手の防御を見切ったとしても簡単にはじかれてしまうのだ。
「よくやるな。」
戦っているいる最中だというのに瑛少尉から通信が入ってきた。
「私の攻撃にここまで耐えたやつはそう何人もいない。せいぜい耐えられるのは最強12隊の隊長クラスのみだと思っていたんだがな。」
たしか最強12隊って言うのはエクスカリバーを操る部隊の中で、特に強い12の部隊で、月の正座の名前になってるんだっけな。カリブさんも確かその中のひとつの隊長だったんだっけ。
「それともうひとつ教えてやろう。私の指揮する小隊名はバルゴ小隊。その最強12隊のひとつだ!」
ああそうか。だが、
「それが・・・・それがどうしたぁぁぁぁぁ!」
「なにっ!」
今までとは比べ物にならないくらいの闘志だった。なんなんだこの男は!?
「あんたがすごいのはよくわかった。だがそれだけだ。俺は相手が誰だろうと関係ない。挑んでくるなら全力で迎え撃つだけだ!」
次の瞬間。世界が暗転した。言うまでもなく和也が勝ったのだった。
瑛少尉が目覚めたとき、彼女は母艦の医務室のベッドの上だった。そばには艦長が座っている。
「目が覚めた?」
「はい・・・・。」
「にしてもあなたの超能力で見破れない人がいたなんて、私もびっくりしちゃったわ。」
そう、瑛少尉の超能力は未来予知。数秒先の未来を読み取ることによって、敵の攻撃を受け、あるいは流し、攻撃していくのが彼女の得意戦法であった。
「はい。私も驚きました。彼は・・・天児和也少尉の動きはとてつもなかったです。予知したときにはありえない距離を移動していました。それだけなら対処ができたのですが、最後の一撃、あの攻撃を予知したときはなぜか自分が敗北してることしか予知できませんでした。」
「予測不可能の英雄ね。いいんじゃない?」
瑛明蘭は黙ったままだった。
このやり取りは、当然和也は知らない。
時間は現在に戻る。
私は、最近どうもおかしい。天児少尉と目があうと、なぜか訳もなく顔が赤くなり、ドキドキしてしまうのだ。(私はどうかしてしまったのだろうか。)
ついさっきもあんなことしかいえなかった。
などと考えをめぐらせている中、敵襲の警報が鳴った。
「敵発見、敵発見。総員戦闘配置。繰り返す・・・・・・。」
こんなことをしている場合ではない。そうして頭の中を切り替えると瑛はダッシュで格納庫へ向かった。
戦闘空域は戦艦ヘリオスからわりと近い場所であった。今回は和也が軍に入ってから初めての実戦であるため、基本は彼の配下のセレネ小隊2番機3番機画サポートに回るが、必要があれば瑛もサポートに回れ、というのが艦長の指示であった。
「よっしゃぁ!いっちょ派手に暴れてやるぜ!」
「そんなこと言って、私に泣きつかないでね。」
「さぁ2人とも、無駄話は終わりよ!いくわよっ!」
香奈枝はエクスカリバーに搭乗すると今のように性格が変わる。このことを和也が知るのはこの戦闘の終了した後である。
「じゃあ和也、指示お願い。ちなみに私は近接向き、お姉ちゃんは、バリバリのスナイパーよ。」
「わかった。2番機は俺と一緒に敵陣へ突入、3番機は援護だ。」
「了解!」
「了解!結構さまになってるわよ和くん!」
さぁ、戦闘開始だ!
戦闘に出た瑛は、セレネ小隊に続いて出てきた。どうやらサポートは必要なさそうだ、と思った瞬間なにかの衝撃が瑛を襲った。
「何だ!?」
瑛は衝撃があったほうに機体を向けた。そこで初めて、敵の姿を確認した。
「まさかっ!こいつは・・・・。」
かつて、瑛がまだ隊員だったころに瑛たちを幾度も苦しめ、1年ほど前に瑛がかなりの重症を負わせたはずであった機体がそこにあった。
「敵エース級、カスタムエッジだとっ!」
(馬鹿な、あと1年は出てこられないぐらいの重傷をあたえたのに・・・・)
しかし、出てきたからには倒さなければならない。すかさず瑛は2人の隊員に指示を出した。
「2、3はセレネ小隊のところへ向かえ!こいつは私がやる!」
「「了解!」」
(よし、今度こそは撃破してみせる!)
「フフフッ地球人どもが逃げ回っているわ。ハッハッハッハッハ!」
敵エース級カスタムエッジ、正式名称「ブラックデーモン」に乗る敵将、レガードは罵るようにして笑った。不意にレーダに3機の機影がある。そのうちの一機に攻撃をしかけた。相手が自分のほうを向いたとき、レガードの怒りが沸騰寸前までいたった。忘れるはずもない。1年前、自分に重傷を負わせたあの白い機体を。
「帝王カイザー様からいただいたこの体!試してみるのにはちょうどいい相手だな。そして1年前の恨み!今こそ晴らしてやるわ!」
2機の近接武器が激しい金属音を立て、ぶつかり合った。
「くっ!強いっ!」
1年前とは比べ物にならないくらいの強さだった。未来予知による防御でどうにか耐えてはいるがいつまで持つかわからない。そうこうしている間に押されてきた。
「ぐわっ!!」
耐え切れなくなった左腕が根元から取れた。その影響で体勢が崩れる。
「ハハハハハハ!死ねえぇぇぇぇぇい!」
敵機の斬撃が目前まで迫ってくる。
(やられるっ)
ギンッ!
しかしその斬撃はこなかった。何が起こったかわからぬまま顔を上げたするとそこには・・・・・。
「天児少尉!」
そこには、和也がいた。その後姿はなぜだかとても頼もしく見えた。
「大丈夫か!?瑛少尉!」
いつもはなんだかムカつく声も、今に限っては頼もしく聞こえる。
「あぁ大丈夫だ。損傷しているが問題はない。気をつけろ、あいつはとてつもなく強い。」
「わかってるさ。」
「おのれぇ!何者だお前!?」
「天児和也だ!仲間を傷つけたことを、後悔させてやるぜ!」
「ぬぅ~こしゃくなぁ!」
2機の剣が交錯すると、戦いの速度が上がった。エクスカリバーの視認モニターでなければ何がおきているのかわからないほど、速かった。
「必殺!」
和也が叫んだ。するとメサイアが黄金に輝いた。
「超神速!斬撃剣!」
もはや視認モニターでも何がおきているのかわからないほどであった。敵の周りが黄金に輝いているのしか見えない。
「おのれぇ~!地球人どもめ!おぼえていろ!この屈辱いつかはらしてやる~!」
「斬!」
敵機が爆発した。だが、搭乗者は直前にテレポートシステムで脱出したようだ。
和也が親指をビシッ!と立てた。瑛も笑顔で親指を立てた。と同時に瑛はあることに気づいた。
(あぁ。私はこの男の惚れたんだな)
和也に補助をしてもらい、そのまま艦へ帰還した。
「おかえりなさい。みんな。よくやったわね。特に天児少尉。まさか敵のエースを1人で倒してしまうなんてね。」
「いやぁたまたまですよ。」
「あ、そうそう。隊長の義務としてあとで戦闘報告をお願いね。レポート用紙10枚程度でいいわ。」
「じ・・10枚・・・・・・・・・・。わかりました・・・・・・・・・・。」
「じゃ、よろしくね。」
そのまま艦長は立ち去っていった。
「がんばってね~和也!」
「がんばってぇ~。」
陽子と香奈枝さんも立ち去っていった。
「おい。」
瑛が話しかけてきた。
「わ・・・私がてつだってやってもいいぞ。」
「本当か!」
「ただし、私のことをこれから明と呼べ。それと、お前のことをこれから和也と呼ばせてもらう。いいな?」
「あぁ。いいぜ。そんじゃ、お手伝いよろしくな。明。」
「あぁ、和也。」
明がはじめて恋をした日だった。
3話だけやたらと長くなりました。スイマセン。この話は悩むに悩んだ結果の展開となりました。次回の話はまだ考えていませんがそのうち更新したいと思います。