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第二話 その一

[16]

 鋭く肉を割き、貫き…喰らう。千明は思う…やっぱり肉は、火が通っている方が美味しいと…。

 ここはとある鉄板焼きレストラン。まだ営業時間よりも二時間は早いはずだが…店内ではすでに、上品そうなショートヘアの女子高生が、その容姿とは裏腹に、旺盛な食欲を示していた。

 シェフが黙々と肉を焼くカウンターから、少し離れた席に陣取って…延々と、運ばれてくる肉を頬張り、咀嚼し、飲み込む作業を続ける、千明。

 追加の肉が盛られた皿を運んで来ては、今度は空っぽになった皿を下げる。その作業の繰り返す女性店員は、千明の傍に来ては、飽くことなく眼を丸くして見せた。それでも、特に不信の色を覗かせないのは…まぁ、最近は大食いタレントなんていう人種もいる事だから…せいぜい、大風呂敷見たいな胃袋の、良いとこのお嬢さんくらいにしか思っていないのだろう。

 この、フォークを使う千明の左腕が千切れ掛けたなどは…加えて、この可憐な容貌の持ち主が人ならぬ鬼人(おに)とは…まさか、まさか…思いもよらない事…。

 食事をするという行為が日常である以上は、それを行う事に大した気力もいらない。それに特別な心構えを必要とする事ではない。…例えばそれが、糧を得た事を神に感謝する『前置き』であったとしても…それは多くの場合、習慣に他ならないだろう。

 だが、読者諸兄にもこういう経験が御有りではなかろうか…。

 無感動に肉を臓腑に押し込み続ける、千明。そんな間断無いはずの手順の隙間に、ふと考えてしまう。

 (生き肝を食べると言うのは…どんな感覚だろう…。)

と…。そして、追い掛ける様に脳裏を(よぎ)るグロテスクなイメージ。

 肉をシッカリと噛み締めていた千明の口の中に広がる違和感…まるで、自分が今、口に含んでいるものが何やら気色の悪い…禁食域に属する生き物の一部に感じられてくる…。

 それから…千明はすぐに思い直すと、また、健啖家(けんたんか)ぶりを発揮し始めた。…この店に千明が入ってからおよそ一時間半…こんな事の繰り返しである…。

 と、ここで一休み。千明の食べるペースが、シェフの調理する速度を圧倒したようだ。

 千明は片時も離さなかったナイフとフォークを静かに下ろして、この時間を利用し、正面に座る人物に声を掛ける。

 「児玉さんもよければ、何か頼んで下さい。私も、そうしてただ待って頂いているだけというのは、申し訳ないですし…ただ見られているのは、やっぱり…何となく恥ずかしいですから。」

 千明の食べ終わるのを待っていたのは、児玉警部だった。…とすれば、こうして待機している様と言うのは…。

 児玉警部は中身の(ぬる)くなったコーヒーカップを持ち上げて、

「いいえ、お構いなく。私にはこれで十分ですから。…それに、千明さんの食べてる姿を見ているだけで、こっちはもう腹いっぱいに…あっ、これは…失礼しました。」

「…いえ、こちらこそお待たせしてしまってすいません。」

 茶目っ気を発揮しようとした児玉警部の言葉が、少しムスっとした表情に成った千明に気付いて、尻切れになった。…児玉警部も…人前だと気を使って千明に対する敬称を改める気配りが出来るのに、どうして一言多いだろうか…まっ、男だからなのかも知れないな…。

 「あの、これ以上お待たせするのも何ですから…私が食べ終わるのを待たなくても、もし良ければ今、お話しして頂いても大丈夫ですよ。えっと…私が食事を続けながらでもよろしければですけど…。」

と、千明にはよっぽど、ひたすら食べている所を見られているだけという構図が耐え難かったのだろう。千明の方から児玉警部を促がした。…ここで、児玉警部の為に食事を切り上げるという発想に至らない辺りが…やっぱりお嬢様だ…。

 「構いませんか…では…。」

と、児玉警部が了承すると同時に、店員が分厚い肉の盛られた平皿を三枚、いそいそとテーブルへと運んで来た。

 児玉警部はその女性店員と、カウンターのシェフに、

「とりあえず今のところは、調理は一端止めてくれて構わないので…悪いんだけど、しばらく、二人は奥に下がって居てもらえますか。また、私が帰る時に声を掛けますから。」

 児玉警部にそう頼まれ…訳知り顔のシェフは黙って頷くと、不思議そうにキョトキョトこの場の人物の顔を見まわしていた女性店員を促がして、調理場の奥へと引っ込んで行った。

 後に残されたのは、カウンターに設置された長い鉄板に残る熱気と、二人の人間…そして、ミディアムレアの焼き加減で調理された肉が三枚…。果たしてこれで、千明には何分持つのだろうか…。

 実に高そうな肉だ。そして食器も、内装も高級感を醸し出している…だが、客だけが残っている状況では、それがどこか重苦しい。

 苦笑い気味の児玉警部が、雰囲気など委細構わぬという風情の千明に語り掛ける。

 「それじゃあ、お食事中に失礼とは思いますが…逃げた大野洋平(おおのようへい)の事を…。」

 当然だ。児玉警部がわざわざ、やりたくも無い他人の食事の邪魔をしてまで、頑張っていた理由が有るとすればこれしか無い。

 千明だって、『そうなるぞ。』と肝に銘じていたことだろうが…どうしても奥歯に、嫌な感触が残ってしまうのだ…。

 児玉警部は涼しげな目で千明の様子を窺いながら、続ける。

 「現在も、内の捜査員と、それに千明さまに紹介して頂いた、『塊堂(かいどう)』と、(かさね)から派遣してもらった人員で捜索を続けていますが、未だ大野洋平の発見には至っていません。現状では、千明さまとの闘いから逃げ出したと言うのが、最後の目撃情報と成っています。…それにしても、これだけの人員を割いても見つからないとなると…もしかして大野は…。」

「強くなったのかもしれませんね。私と闘ったことで…。」

 千明の苦悶を滲ませた言葉。それに対して、児玉警部は気休めを言う様な事はしない。

 「そう考えるのが妥当でしょうね。千明さまとの闘いを経て…塊堂(かいどう)鬼眼(きがん)や、他の鬼人(おに)鬼膜(きまく)を使った感知能力を避ける。あるいは謀る術を会得したのかも知れません。…千明さまは、大野洋平との戦闘中そのような兆候は…何かお気づきに成られませんでしたか。」

「いいえ、私が感じた範囲ではそういう事は…。そもそも私自身、そういった類の器用さは…。」

と、ここで千明の頭に浮かんだのは…そう、あの黒い鬼人(おに)。確かに、あの黒い鬼人(おに)から何かを学び取ったと言う事も…そう言えばペチャクチャと、よくよくお喋りに花を咲かせていたと言う事もある。

 そう思いながらも…千明はなぜかそのことを児玉警部には伝えないのだ。

 「兎に角…その手の()の使い方を学習していたとしても…それは逃げ回っている内に、本能的に出来る様になったということでしょう。私が中途半端に痛めつけた事が引き金になったのかもしれません。」

 千明は変に悪びれる事も無く、自分の失敗を論った。…食事の手はすでに止まっている…。

 児玉警部はふと…心配そうに目を細めたが…差し迫った事態が、その先を許してはくれない。

 「おそらくは要因の一つでしょうね。…そう言う事ですから、現状、我々は後手に回る可能性が高い…大野洋平が死返(まかるがえ)しを執り行うために、人を…あるいは、千明さまが指摘して下さったとおり鬼人(おに)を襲うのを待って、それに出来るだけ早く対処する。そういう順序に成りそうです。」

 千明が、手にしたナイフとフォークの柄を硬く握りしめる。…児玉警部の言葉の後に続く文句。それが…『お前が、大野洋平を取り逃がしたからだ。』と…児玉警部の方にはそんな事を言う気は無い事は解っていても…それでも、千明にはどうしても、そんな風に罵られている様に感じられてしまうのだ。

 千明がナイフとフォークを置いて、汗ばむ掌をナプキンで拭いながら、

「大野洋平の消息が知れないのだとして…その足取りも全く解ってはいないんですか。」

 「えぇ、皆目…そうそう、足取りと言えば…。塊堂の方が…昨日、千明さまと大野洋平が闘っていた…あの一帯に鬼膜(きまく)を張り巡らせていた彼ですけどね。千明さまに対して申し訳無かったと、(しき)りに恐縮していましたよ。」

「えっ、その方が…私にですか。」

 児玉警部によって伝えられた意外な反応に、驚いた千明が顔を上げる。

 児玉警部はやにわに表情を探るかのように凝視してくる千明に、多少、不気味そうに口許を引きつらせながら、

「え、えぇ、そうですよ。千明さまもお気付きの通りあの時、唐突に、その塊堂(かいどう)の方の鬼膜(きまく)が消えたそうですね。彼はその事をとても気に病んでいて…それで申し訳ないと…。」

 「あぁ、その事…。」

と、千明のリアクションは素気ない。…まぁ、千明にとっては種の明かされた手品の様なものだ。第一、あの黒い鬼人(おに)の手柄話など…別段、興味が湧くはずも無い。

 「実は、こうして千明さまに時間を作って頂いたのには、かかる事態になった事情を説明申し上げ様と言う理由も有りまして…それから、塊堂(かいどう)の方に代わってまずは謝罪を…彼も後日には必ず、改めて千明さまの元に謝罪に覗うと言っておりました。ですが差し当たっては私にも、千明さまに会った折には、『頂いた仕事を全う出来ませんでした事、誠に申し訳ありませんでした。』と伝えてくれるように、くれぐれも頼むと…。」

 千明はそう言われて、どうか困った様に苦笑いを浮かべると、

「そんな申し訳ないだなんて…こちらこそ、危険な極まりない仕事をお願いしておいて、満足な結果が残せませんでした事は汗顔の至りですから…。児玉さん、もし、次にその方にお会いしたならば、『謝罪すべきなのはむしろこちらの方。もし、こちらの不調法をお許し頂けるのならば、御足労の必要はありません。』と、お伝えいただけますか。…それと、お見舞いの…。」

 「あぁ、それは…警察(うち)から、(かさね)の方からも有る筈ですから…。それに、彼も鬼人(おに)ですからね。蒐祖(しゅうそ)本家のお嬢様からのご厚情とは言え、それは受け取れないでしょう。」

 そう児玉警部に意見されて、千明はこれには恥じ入った様に、済まなそうに頷いた。

 「そうですか…すいません、浅い考えで押しつけがましい、見っとも無い事を申し上げました。」

 児玉警部は千明の思い遣りに暖かく微笑み返して、

「いいえ、千明さまは何も謝る必要はありませんよ。…お任せ下さい。千明さまからの言伝と、お気持ちは、間違い無く、私が彼に伝えておきますから…。」

 「よろしくお願いします。ところで、その方の具合は…お体の方は大丈夫なんでしょうか。」

と、初めは多少の拗ねた気持ちの入っていた千明だった…今は普段通りの気遣いを取り戻している。女心と何とやらと言うやつか…。

 しかし、今日は何となく二人の間で会話が食い違い気味になる。

 それは、温められた平皿の上で、よく火の通った肉の()が香ばしいからだろうか。それとも…千明に、児玉警部に対して隠し事が有るからだろうか…。

 千明の憂いの原因が、洋平以外の所にも有るなどとは露知らず。児玉警部が場を和ませようと、無自覚に…千明の周りに埋まっている地雷を踏んで回ろうとしているようだ…。

 「御存知でしたか、彼が襲撃された事を。えぇ、彼の方には大した怪我も有りませんでしたよ。と言うのも、彼が言うには、襲撃者が随分と手心を加えたようでして…当時、彼が鬼鎧(きがい)を纏っていたこともあって、肉体の方は軽傷で済んだらしいんです。…それにしても、彼の変事にもお気付きだったとは流石ですね。それに、大野洋平との交戦中にそんな事態が持ちあがって、千明さまもさぞやお困りに成られたでしょうに…。鬼膜(きまく)無しでは周りへの影響も心配ですし…遣り辛かったことでしょうね。」

 無論、児玉警部は底意など無しに千明を労わって見せただけだ…彼としても、少しでも千明の能力を褒める事の出来た今が、この手の言葉を掛ける好機と思ったのだろう。…信管に、これでもかと圧力を掛けているとも知らずに…。

 千明は善意と言う、この世で最も重く、そして捨て置くことが難しい感情を…歯を食いしばって堪えながら…それでも今晩の約束の事もある。少しでも多くの情報を集めておきたいのはやまやまだ。

 千明は自分にそう言い聞かせながら、

「いえ、私が気付いて居たのは、鬼膜(きまく)が消えた事くらいで…。」

と児玉警部の言葉に相槌を打っておいて、

「その後は、場を繕うのに私が鬼膜(きまく)を張って置いたのですが、それには…塊堂(かいどう)の方はお気付きには…。」

と、作り笑顔の裏に暗澹たる心境を隠して、千明が嘘を付いた。…まぁ、塊堂(かいどう)から派遣された鬼人(おに)にとっても、意識を奪われた上に、鬼膜(きまく)を張り巡らす仕事まで奪われたと知るよりは、こちらの方がかろうじてマシかも知れないが…千明にとっても、義理と人情の板挟みと言うところか…ますます、あの黒い鬼人(おに)への小言が楽しみだ…としておこうか…。

 児玉警部は神妙な顔つきで答える。

 「それは無理だったでしょうね。と言うのも、うちの捜査員たちが異変に気付いて、彼が張り付いていた、ビルの屋上に駆け付けるまでの間、彼は何者かの襲撃で昏倒され意識を失っていましたから。」

「では、その、駆けつけた捜査員の方たちは…その人たちは、鬼膜(きまく)に…私の張った鬼膜(きまく)に気付いたでしょうか。」

 「いえ、そういう報告は受けていませんでした。もし、その事を耳にしておく必要がお有りでしたら、彼らに尋ねてみましょうか。」

 そう言って、児玉警部が背広のポケットから携帯電話を持ち出すのを、千明がすかさず、

「その必要はありません、有り難うございました。」

 これには児玉警部も、携帯電話をしまいながらも、なお怪訝そうな顔付きで、

「…しかし、その事が…千明さまの鬼膜(きまく)にうちの者が気付いたどうかに、どの様な意味があるのですか。」

と、もっともな疑問を投げかける。…これには、千明も大人しく答えざるを得ない。…ただし、黒い鬼人(おに)が自分と洋平の間に割り込んできたことは…勿論、伏せたままに…。

 千明が自ら脚色した当時のストーリーを、児玉警部に話して聞かそうと…だが、これから嘘を伝えると言う実感に、言葉に詰まる。

 千明だって一度も嘘をついた事の無い聖女さまなどでは無い。それでも彼女なりに、嘘の意味や、嘘を吐く場合を弁えて…彼女なりの線引きをしっかりと考えて、嘘を利用してきたのだ。

 千明にとって、黒い鬼人(おに)とのことは…そして、洋平を逃がすと決めてしまった事をひた隠しにするのは…己の心の内に引かれた白線を踏みにじるに等しい行為なのだろう。

 しかし…千明は思い直すのだ…、

 (黙っていては始まらない…それに…鬼人(おに)として他人を傷つけ、辱め…その命を糧にすることも無く…ただ無下に奪ってきた私に、今更…正当化すべきことも、守るべき健全さも…ある訳は無い。)

 決意を新たにした、それからの千明の弁舌はさわやかだった。

 「えぇ、実は…。」

 千明は黒い鬼人(おに)が洋平を、捜査員と鉢合わせになら無い様に誘導した事を…とりあえず、自分が誘導した様に伝えた。…まさか、黒い鬼人(おに)がこれに不平を述べることは無かろう。感謝されても良い位だ。

 児玉警部も…訳は解らなくとも…同意見だろう。

 「それは部下たちにお心を砕いて頂きまして…署員に成り替わり、お礼申し上げます。」

と、こうなる訳だ。

 そして千明は淡々と話を続ける。

 「向こうが万全な状況で無いとは言え、大野洋平が鬼鎧(きがい)を纏っているところに、生身の状態の捜査員の皆さんが出くわすのは不味いだろうと判断しましたので…。それにしても、私の方では捜査員の方の存在を捕らえていたのに…皆さんの方では私の鬼膜(きまく)に気付かなかったというのは…。」

「なるほど、それで私にも、千明さまの仰りたい事が解りました。」

と、合点が言った様に首を縦に振る、千明と、児玉警部。

 どうやら二人は…少なくとも千明は…黒い鬼人(おに)が張り巡らせていた鬼膜(きまく)に、捜査員たちが気が付かなかった理由…それが、黒い鬼人(おに)()の制御能力が高い水準である…以外の所に原因があると考えている。

 そしてそれは、児玉警部にも容易に納得しえた所から、鬼人(おに)にとって常識的な範囲の事なのかも知れない。

 児玉警部が千明に成り替わり、恰も解説するかのように話だす。

 「詰まり千明さまは、大野洋平を捜査員たちとは別のルートへと誘導しようとなさった。その時には、大野洋平を鬼膜(きまく)内の限定的な範囲に隔離し、その区域内だけを移動させようとなさったのでしょうね。…少なくとも、鬼膜(きまく)の内側に、鬼人(おに)が御自分を含めて五人。しかも、うち一人は意識が無く()の流動が鈍く、一人は手酷く打ちのめされて、鬼が乱れ切っていたであろう状況で…あの規模の、あの範囲に張り巡らせた鬼膜(きまく)をそこまで巧みに使いこなすとは…まったくもって流石です。とてもじゃないですが、私には真似できそうも有りませんね。」

 それには千明も、逐一、同意見だ。…ただし、自分では無く、黒い鬼人(おに)へ向けられた言葉としてならであるが…。

 我が事の様に誇らしげな笑顔を向けてくれる児玉警部に、千明は成すすべなく強張った笑みを返す。

 「いえ、そんな事は…。」

と、千明は上品に閉じた唇の端を引き上げて微笑むと…再び、ナイフと、そしてフォークを取り上げた。

お門違いな称賛ほど、胃に来る者は無いのだ。…というか、この食欲はやはり、自棄食いの類だったようだ…。

 『何で自分が、他人の褒められているのに対して謙遜しないといけないのか。』…千明の頭はそれ一色。いや、一食だろうか…。

 何はともあれ、またパクパクと肉を口の中に放り込みだした千明に、女子高生の取り扱いの困難さを痛感する児玉警部であった…。

 児玉警部がおっかなびっくり、咳払いをして言葉を次ぐ。

 「あーっ、うん…ですから、そんな風に鬼膜(きまく)内に力の偏りが出来ていたにもかかわらず、その内側に居た鬼人(おに)がそれに…いえ、それどころか鬼膜(きまく)の存在にすら気付かなかった理由があるとすれば…やはり、『刻騙(ときだま)し』でしょうか…。」

 千明はゆったりと、口の中の咬み解した肉を飲み下す。

 「だと思います。」

 児玉警部は…そう千明が答えるのにも、まだ話の筋道が見えなくなった様に…、

「しかし、それは千明さまの()の安定性が高く。その下地があった為に、鬼膜(きまく)の中に内包した別の存在…()の鈍い動きや、乱れが生んだ現象と言うだけで…それが…。」

 「いいえ、そうでは無いのかも知れません。」

と言下に児玉警部の言葉を打ち消した、千明。

 そして、千明は真剣な眼差しで、児玉警部に…いや、自分に諭す様にか…唇を動かす。

 「私は…もしかしたら、鬼膜(きまく)の安定性は、『刻騙(ときだま)し』とは関係の無かったのではと思うんです。」

と、千明が最初に述べたのは、あの黒い鬼人(おに)へのかすかな対抗意識だったのかもしれない。…が、どうせそんな事を気にする様な手合いでも無いと、短く気を取り直して、

「まぁ、確かに彼の…いえ、私の鬼膜(きまく)が幸か不幸か安定していたことも手伝って、『刻騙(ときだま)し』はその効果を、鬼膜(きまく)の隅々にまで伝える事が出来たんでしょうね。ですが、偶然が重なっての『刻騙し』の発言であれば、捜査員の方々だけでなく、私の方でも皆さんには気付けなかったはずです。」

 千明の怒りのボルテージと同期するかのように、彼女の両腕がテーブルまで下降していく。

 「『刻騙(ときだま)し』とは、故意にか、偶然にか、鬼膜(きまく)の中で時間的、空間的な錯誤が生まみだされ、同じ鬼膜の中に存在する者同士が感覚の接点を失う事ですから…複数の要因が重なった、不安定なものだとしたら、そもそも私や、捜査員の皆さんに…そうとは解らなくとも…何らかの違和感として『刻騙(ときだま)し』は実感できたはずです。でも、それが無かったとすると…。」

「それは、大野洋平が故意に起こした『刻騙(ときだま)し』だったと…。」

 結論を急ぐ児玉警部に、千明は柔らかく微笑んで、

「故意かどうかまでは、はっきりとは言い切れません…でも、大野洋平という『刻騙(ときだま)し』の発生源だとすると説明は付きますよね。大野洋平は鬼膜(きまく)何の自分を含めた全ての鬼人(おに)の感覚的リンクを歪める。そのため、大野洋平自身にも、捜査員の方にも、私の鬼膜(きまく)の存在、それに内部の状況は読み取れなくなる。でも、私には…鬼膜(きまく)事態は安定しているのだから、皆さんの存在が…あれっ。」

 「ど、どうしました。…何か問題でも。」

と、児玉警部は慌てて、素っ頓狂な声を上げて固まった千明に問い掛けた。

 しかしながら…心配かけて申し訳ない所ではあるが…千明は今、その問いかけに答えていられるような場合ではないのだ。…千明は一心に、自分の気付きに対して、頭の中を整理する…。

(あの黒い鬼人(おに)の事だからきっと、几帳面に、塊堂(かいどう)の縁者の方が張り巡らせていたのと、かっきり同じ範囲を鬼膜(きまく)で覆っていたはず。…それも、極端まで鬼膜(きまく)の織り上がりを(ゆるが)せにせずに…間違いなく彼の鬼膜には、綻びや、網目の大きな部分は無かっただろうに…。つまり…大野洋平が『刻騙(ときだま)し』を発現させていたとしたら…そして、自分の鬼膜の布地の上に欠落があったとしたら…他ならぬ、あの鬼人なら…大野洋平が『刻騙し』を使っていたのを知っていた。)

 考えがまとまった途端に、千明は笑みを浮かべた…。

 白い歯を食いしばって、眉間に青筋を立てて、眉を細かく動かす。そして、腕が震えるほどに、ナイフとフォークを強く握りしめ、焦点の定まらない瞳には白銀の眼光が宿る。

 が…それでも、笑顔は笑顔だ…千明の様な強者には、軽薄な威嚇などは似合わないしな…。

 千明は、慄然としてその場に凍りつく児玉警部の視線を気にする様に…腹筋を、細いウエストを締め上げる様な怒りの感情を笑みで噛み殺した。

 児玉警部は、大きく一息付いた千明に、

「千明さま…私には、貴女の感情の激白の、深いところまでは解りかねます。しかし…貴女の()から、その憤りの程は感じました。…今度の事を深く恥じ入る気持ちも解ります。それは、貴女の力と使命感に、相応しい理想だと思います。しかし…あまり、御自分を責めるのは良くない。行き場を見失った感情が矛先を向ける場所が、事態の解決への道筋には成りえないでしょうから…。」

 千明には児玉警部の助言の言葉が、自分自身の理解よりも深く、己の内心を物語っている様に感じた…。

 千明は小さく息を漏らして、遣り切れなさなそうに、ナイフとフォークをテーブルの上に投げ出した。

 「その通りだと思います。申し訳…いえ…。有り難うございました。」

 児玉警部は、柄の部分に千明の指の型がクッキリと刻まれた、ナイフと、フォークを拾い上げると、

「これは、このまま店に返却する訳には行きませんね。」

と、千明に微笑み返した。

 千明はその怪力の証がありありと残るナイフとフォークを、児玉警部が背広の懐に仕舞うのを見つめながら、

「話を戻しましょう。…現在に至るまで大野洋平の存在が捕まらないのは、やはり『刻騙(ときだま)し』の所為では無いでしょうか。」

 児玉警部は籐編みの小さな籠に入った、別のナイフとフォークを千明へと勧めながら、

「それならば、広範囲に渡る鬼膜(きまく)を利用した捜索でも、彼の居場所を特定できなかった理由も頷けます。…しかし、そうなると…大野洋平が『刻騙(ときだま)し』を使っているのならば…彼自身にも他の鬼人(おに)の存在は感得できないのではないでしょうか。」

 「えぇ、ですから…。」

と、千明は片手で無造作にナイフとフォークを一組掴み上げて…、

「大野洋平が意識的にか、それとも、無意識で『刻騙(ときだま)し』を行っているのかは…私には、解りません…。」

 千明は深く後悔していた…。

 鬼膜(きまく)をあの黒い鬼人(おに)に任せきりにして居た事を…。そして、まさか大野洋平を仕留め損なうなどとは、夢にも思っていなかった事を…。

 せめてあの時に、鬼膜(きまく)だけでも自分で張り巡らせておけば…大野洋平の『刻騙(ときだま)し』に気付けていたかもしれない。…それに、彼の『刻騙(ときだま)し』が故意か、それとも偶然の産物なのかも…。

 千明の手の中から、ナイフとフォークの擦れる渇いた音が零れ落ちる。その音色はまるで…憶測で過ぎた事を悔やむのは…無意味な感傷はもう止めろと…千明に言い聞かせる様な…。

 千明は、ほんのわずかな時間、籐編みの籠の上で固まっていた手を引き寄せると、何事も無かったかのように話を続ける。

 「…ですが、『刻騙(ときだま)し』が発動している以上は、探る側にも、探られる側にも、お互いの存在は解らないはず…それは、大野洋平を探す我々にも、そして、獲物となる鬼人(おに)を物色している彼にも共通する事。そうなると…大野洋平を見つけることが出来るのは、()の流動を視覚的に認識し、事象の本質を見抜くことのできる…鬼眼(きがん)を持つ者だけ…言いかえれば…。」

 千明の言わんとすることを察して、驚きに児玉警部の口から息が漏れる。

 「それでは…。」

「はい…。鬼眼(きがん)で執拗に凝視されれば、その感覚は大野洋平にも伝わる。だから、彼が鬼人(おに)を獲物として狙っているとしたら…危険なのは塊堂(かいどう)に連なる能力を持つ方です。」

 千明の結論が唇から出終わるや否や、児玉警部は短く千明に謝罪の言葉を述べると、座を外した。おそらくは、携帯電話で何らかの指示を送っているのだろう。

 千明はその後ろ姿から、視線を肉の塊に落とすと…感慨深か気な顔で、肉にナイフを入れた…。

 千明が切り分けた肉を三切れ口に運んでいる内に、児玉警部は席に戻って来た。

 「失礼しました。ですがお陰さまで、少なくとも捜査にあたっている者たちの安全は確保できそうです。」

 戻る成り、意気込んで千明にそう伝えた、児玉警部。

 それに千明は、どこか悩ましげに、不安げな表情で、

「いえ、それよりも…差し出がましい様ですが、警察署に戻られた方がよろしいのではないでしょうか。ここでは、その、満足に皆さんの指揮をとることは出来ないと思います。それに…。」

と、言い淀んだ千明に、児玉警部は優しく声を掛ける。

 「織田の事ならば御心配には及びませんよ。何と言っても、あいつはまだ落着きを取り戻しているとは言い難い。捜査に支障をきたす前に、署に帰還するように伝える様、今も特に申し渡しましたからね。」

「そうですか。」

 千明はそう、胸を撫でおろして、

「もともとは私の不始末から招いてしまった事態ですけど…出来れば…土屋加奈子さんに続く犠牲者だけは、出したくは無いですから…。」

と、ようやく、変に悲観的に成らずに、素直な気持ちを吐露することが出来た。…胸のつかえがとれたと同時に…テーブルの上の肉は全て、付け合わせも含めて、いつの間にか千明によって平らげられていた。

 児玉警部はすっきりとした目の前の光景に、安心したように、信頼感を示す様に言葉を投げ掛ける。

 「その通りですね…そして、捜査員の身を案じるのならば、私がすべきことはまず、署に戻り体勢を立てなおすこと…。私としてもなかなか言い出す踏ん切りを付けることが出来ませんでしたが、ことここに及んでは…それに今の千明さまなら心配無い…むしろ是非とも尋ねておくべきことかもしれません。」

「私に、もう一度大野洋平と闘う気があるかどうか…。こうして時間を割いて下さっていた理由は、それを私に尋ねるためだったんですよね…。」

 児玉警部は首を縦に振って、千明の考えを肯定した。

 千明には…自分の置かれている状況が良く解っていたようだ…。そして児玉警部も、そのことに虚を突かれた様な素振りを見せ無い。

 これは、そう…千明にとっても、児玉警部にとっても当り前の…だが、見え据えていたからとも違う…期待も、楽観も無い…恥を忍んでも、仲間を危険に晒すことになったとしても…どんな犠牲を払おうとも収束させなければならない事態。つまり…大野洋平の死という未来を目前の事として導き出された…不回避の回答だったのだろう。

 そうだ…千明にとって…不回避の…。千明は苦く、切なげに微笑んで、

「きっと、そう私に尋ねる様に父から…蒐祖(しゅうそ)から要請されたんでしょうね…。」

 完全に抑えているはずが…また千明の()が…錆びの浮いた様な鈍く、重苦しい気配が流れ出す。

 それでも、児玉警部は取り済ました顔貌を崩さない。そして、

「そうです。そして、大野洋平が貴女から逃げ果せる程の実力の持ち主である以上…蒐祖の方からそう申し出て頂けるのであれば…千明さまに再戦の意思がお有りなら…私たちに、それを拒む理由は有りません。」

 千明は児玉警部の言い様に、

『拒む権利が無かったと、はっきりと言ってくれて構わない。』

と言い掛けて…やっぱり止めた。

 (こんなの…いったい誰に対しての皮肉なのか、解らないじゃない…。)

 千明は賢明にも、その思いに従ったのだ。

 千明はナイフとフォークを空いた皿の一枚の上に、手はテーブルから下ろし両ひざへ、

「これは私のやり掛けた仕事…投げ出す訳にも、他人に押し付けることも出来ない責務です…。」

 誰にともなく言い聞かせる様に…そして、深々と児玉警部に頭を下げて…、

「このお話、慎んでお請けさせて頂きます。そして、有耶無耶に成っていた、先の失敗も…皆様のお力をお借りしておきながら無様な失態を演じことの謝罪も、この場をお借りして申し上げます。謝意は…かならず、この件のけりを私の手で付けることで示させて頂きます。」

 千明の並々ならぬ決意が児玉警部の胸に迫る…。

 それは歳に相応しくない言葉使いからでも、驚嘆すべき使命感からでも、ましてや誇り高さからでも無い…。

 それは、今度こそ鬼人(おに)を…相手が人喰いであったとしても…人間を殺めてしまうかもしれないという根源的な恐怖。そして、昨夜の様に怒りにまかせる訳ではなく、自分が冷静にそれを選択したことに対する…悪酔いでもしているかのような、奇妙に傾く平衡感覚。

 それと…彼女であっても無い訳が無い…自分が死ぬかも知れない事へ対する…仄暗く、狭苦しい場所でもがく様な…息詰まる焦り。

 それらの感情がない交ぜになった千明の思考の、なんと人間的な事か…。だからこそ児玉警部の胸を締め付け得たのだろう。

 …もし、この場にあの黒い鬼人(おに)が居たとしたらこう言った様な気がしてならない。

 『僕は死の恐怖にも、自分の感情にも耐えられない。だから鬼人(おに)となった時から、内心の不必要な部分を麻痺させて、なんとか心の平衡を…安定を得て来ました。対して、鬼姫さまは()の源となる内心を、感情を、思うさま楽しみ…そして存分に苦しむ。まるで、自らの鬼人(おに)を弄ぶかのように…。』

 …そして、こう付けくわえるだろう。

 『だから、鬼姫さまは強いのだ。』

と…。

 そう言えば、あの黒い鬼人(おに)が言っていた『最後に生き残っているものが、つまり、長生きした鬼人こそが勝者。』という理屈…それが、千明を見ていると、何となく感じ取れるような気がしてくる…。

 「殺せますか、大野洋平を…。」

 真剣味と一抹の冷笑の混在する顔付きで、児玉警部が千明に問うた。

 それは憂慮とは違う。千明にとって足りないのは力では無い…それが誰の目にも明白だからだ。

 千明は面を上げると、児玉警部の視線を真っ向から受け止めて、

「必要とあれば、必ず。」

 児玉警部は千明の答えに満足そうに、相貌の笑みの比重を大きくする。

 「そうですか。ならばもう一度、千明さまに全面的にお任せしましよう。それには勿論のこと、私たちも全力でお手伝いさせて頂きます。それに…出来るのであれば、大野洋平も生け捕りにして…せめて自分の犯した罪なりとも…悔い改めさせるのは無理でも、振り返る機会を彼自身に作って欲しいと…すいません、千明さまの覚悟の強さを知っていながら、私はまた、その思いに水を指す様な事を口走って…。」

「気にしないで下さい。それに、私には覚悟が足りなかった…それは、私自身が一番よく知っている…事実ですから…。」

 …千明の言葉に追従して内心をかすめた、忸怩(じくじ)たる思念…。

 実際、千明が一番よく解っていたのだ…覚悟が足りなかった…それどころか…それは児玉警部が思った様に、大野洋平を殺す事を躊躇した事…それも幾ばくかは在ったかも知れない。だが、本質としては、千明に足りなかったのは、己の未来に訪れる不自由を受け入れる心。…しかも、仮に腕が切断していたとしても…鬼人(おに)である千明ならば、時間さえ掛ければ何れは元通りに回復していたろうに…。

 (あの黒い鬼人(おに)の甘言に踊らされた…ううん…。)

 千明は一瞬頭を過ぎった逃げ口上を追い出して…未だ満たされない腹の底を手で宥めながら…真摯に、苦み走った現実を飲み下したのだ。

 明確な理由の問題では無い…それ以前に、ただ…覚悟が足りなかったのだと…。次の展開へと挑む者には、それで良いのだ…。

 カランカランと呑気な音色が店内に鳴り響く。入り口と成っている内開きのドア、その上に取りつけられた金属製のベルが振り子の様に揺れている。

 千明と児玉警部の視線は、自然と、ドアの方へ…。そこには…開店はまだだと言うのに、二十歳くらいの女性が一人。

 女性は…なにしろ他に客もいない事だから…すぐに目的の人物を目に止めて、ニッコリと微笑んだ。…急き立てる様な外気が、音を立てて閉める…。

 「それじゃあ、千明お嬢様。私はこの辺でお暇いたします。…何か有り次第、そちらにご連絡いたしますので…いつでも動けるように用意しておいて下さい。」

「解りました。児玉さんも、それに捜査員の皆さんにも、くれぐれもお気を付けて…。」

 「えぇ、千明さまが控えていて下さるんです。我々一同も命は惜しいですから…進んで無茶はしませんよ。…では、失礼いたします。」

と、児玉警部は衣擦れの音を立てて、二人掛けの長椅子から立ち上がる。そしてきちんと畳んであったコートを取り上げると、今しがた入店した女性の前に、準備万端立ちふさがった。

 入店したての上…どうやらまだ、状況を飲み込めていない風な『女性』は、

 「あ、あの、私、そこにいる蒐祖(しゅうそ)さんに呼ばれて来た者で…。」

と、出し抜けに如何にもな『大人の男』が正面に来たので、思いっきり気後れしたように早口で何かを捲し立てる。

 そんな『女性』に、児玉警部は有効的な笑顔でまず、落着く様に促がしてから…、

「失礼ですが貴女は、もしかして刈谷愛美(かりやまなみ)さんでは有りませんか。」

 「えっ、はい。そうですけど…。」

と、視界のほとんどを長身の児玉警部に塞がれた『女性』…否、愛美は、恰も逃げ場を求める様に目線を千明の方へ…が、千明は意味あり気に微笑んでいるだけ…。

 愛美は児玉警部のオフィシャルな雰囲気に、どこか居心地の悪そうに彼の言葉を待つ。…見ると確かに、愛美の格好は言うなればカジュアル…社会人というよりは、大学生の出で立ちだろうか…。まっ、服装を吟味するまでも無く、店内がこのような状況にあるのは…千明以外に人が…いや、鬼人(おに)が居ることは予期していなかったのは見てとれる…。

 児玉警部は、そんな社会人未満丸出しの愛美に対して、丁寧にも名刺を取り出すと、

「私はこう言うものです。貴女のお噂は、そこにおいでの千明さまから…それに、織田健(おだたける)くんからもよく伺っていますよ。」

 愛美は児玉警部の言葉を小耳に挟みつつ、受け取った名刺に目を通すや…弾かれたように、顔を上げて、

「あっ、それじゃあ貴方が、健の上司の、警部さんの…。」

 「えぇ、何かと不鮮明な事の多い仕事ですが、織田君にはいつも助けられ、有り難く思っています。」

 児玉警部がそうスマートに言ってのけるのに、愛美は恐縮したように、上げた顔をまた振り下ろしてお辞儀を二、三度しながら、

「それは、ご丁寧に、有り難うございます。こちらこそ、うちの…じゃなく、婚約者が…とにかく、織田がいつもお世話になっております。」

と、言葉に詰まりながらも必死で…多分、少しでも健に恥を掻かさないでおこうとする、その姿は…いつの間にか外の空気よりも渇いて、殺伐としていたこの店の中に…わずかな暖かさを灯したようにも感じられた。

 「あの、織田は常々、貴方の事を立派な方だと申しております。ですから、あの…お会いできて、とても光栄です。」

 …おそらく、愛美自身、自分が何を言っているのか、よく解っていないのだろうな…。まぁ、それもしょうがない事かも知れない。この若さで、婚約者の上司と面と向かうなど、そうそう無い事だろうから…。

 児玉警部は心得たもので、(ほが)らかに頷いた。

 「こちらこそ、『萩の会』に名高い『二本角(にほんづの)』の鬼人(おに)とお会いできて、光栄の至りです。」

「い、いえ、そんな…私なんて大層なものじゃ…。」

と、口籠る愛美を見かねたのか、児玉警部は笑顔の続きを満面に浮かべて、

「おっと、これは失礼。千明さまに御用がお有りのところを、ずいぶんと引きとめて立ち話させてしまいました。さっ、こちらにどうぞ。」

 児玉警部は愛美の肩を抱く様にして、千明の正面へ…つまり、先程まで自分が座っていた席へと誘った。

 その様子は見ようによっては優雅。…なかなか格の高そうな内装も手伝って…。

 しかし…そして当然に、愛美にその趣を堪能する余裕などは無い。

 愛美は誘導に従って、せかせかと千明の前の席に飛び込んだ。

 「私はこれで失礼させて頂きますが、刈谷さんはどうぞごゆっくり。それから…。」

と、児玉警部は真剣というよりは…柔和に、そして心配そうな表情で、

「お気付きの事とは思いますが…ここのところ織田君は不安定になっていますから、よく気遣ってあげて下さい。もし、何かお困りの事がありましたら、名刺に有る番号にいつでも連絡してください。」

 「は、はぁ…。」

と、まだまだ緊張している愛美の生返事に、児玉警部はほのかに苦笑いを浮かべながら、

「何、私もこれで、既婚者としてお二人の先を行っていますから…何かと、アドバイス出来ることもあると思います。それに私よりもよっぽどキレ者の妻が、後ろに控えていますし…でもまぁ、我ながら気の回し過ぎだとは、思わなくもなんですがね。」

 そう言いながら、背筋を伸ばした児玉警部に、愛美は打ち砕けた様に微笑み返す。

 「いいえ、そんなことは…本当にありがとうございます。」

 愛美はそう深々と頭を下げると、大事そうに名刺を、携えていたチョコレートブラウンのショルダーバグに仕舞い込んだ。…願わくは、この名刺を使う日が訪れませんように…そう、小さく祈りを込めながら…。

 児玉警部はコートを腕に掛けて、もう一方の腕でカウンターに寄り掛かる。そして、カウンターの上に、小ぢんまりと置かれたステンレス製の呼び鈴を鋭く叩いた。

 濁りの無い音色を響かせた後…程無くしてカウンターの奥から、さっきまで千明の肉を調理していたコックコートの男が歩み出てくる。

 児玉警部がコックコートの男に何かを話しかける。そして、コートから何かを取りだそうとしている姿を認めるとすぐに、千明が珍しく声を上げる。

 「児玉さん、支払いは私がしますからね。」

 ギョッとして振り向くコックコートの男。そして、児玉警部は破顔して軽く手を上げると、

「えぇ、解っていますよ。」

 そう言って、児玉警部はコートに向かっていた手を引っ込める。それから、代わりに背広から名刺を出して、コックコートの男に差し出すと…何やら二言、三言言葉を交わしたのちに、頭を下げて、店を後にした。

 再び乾いたベルの音の鳴り響く店内。愛美は席から慌てて立ち上がると、その背中に頭を下げた。

 そんな状況を不思議そうに見守っていたコックコートの男に…、

「すいません、料理の追加をお願いします。さっきまでと同じペースで持って来てください。」

と、突然、千明に注文させて、コックコートの男は唖然とした顔で、

『あんたまだ、食べる積りなのか。』

と言う言葉を何とか飲み込むと、

「は、はい、承知しました。」

と、何故か逃げる様に、カウンターの奥へと掛け込んでいった。

 しばらく立ち尽くしていた愛美が、気の抜けた様に席にへたり込む。

 「はぁ、緊張したわぁ…。ていうか、千明…警部さんが居るんなら先に連絡して置いてくれなきゃ。私、びっくりして…あぁ、もう、自分が何口走ったのかほとんど覚えてないよ。」

 そう言うと、落ち込んだ様に両手で顔を覆ったまま、テーブルに突っ伏した愛美に、

「ごめんなさい。児玉さんの方から、急に時間を作って欲しいと頼まれたものですから…つい…。あっ、でも、愛美さんの受け答えはバッチリでしたよ。」

と、千明が困った様に、可笑しそうに応じた。

 愛美はそれでもなお顔を伏せたままに、くぐもった声をぼそぼそと漏らす。

 「それ、本当…。」

「えぇ、本当に…。」

 流石に嘘臭いと思ったのか、千明の返事も何となく後ろめたそうだ。

 愛美は一頻り、

「はぁ、健に要らない恥かかせちゃったよ…。」

などとしこたま、苦しげに漏らしてから…踏ん切りを付ける様に顔を上げると、

「まっ、警部さんは良い人そうだったから、私のことで健をからかったりはしないか。」

 そう言って、あっけらかんと千明に微笑み掛けた。…どうやら彼女も、千明のことを心配している人物の一人…千明は本当に良い仲間に恵まれているようだ…。

 タイミングを見計らった様に、カウンターの奥から女性店員が現れて、テーブルの上の皿を片づけ始める。…立ち去るときに、女性店員がチラリと千明のお腹の様子を盗み見る…多少は膨れているが、あれだけ食べた事を思えば何の変化も無いに等しい…。

 何か恐ろしいものを見た様に、恐々と、いそいそとカウンターの奥へ戻るその後ろ姿に…可笑しそうに、千明と、愛美は、小さく笑い声を重ねた。

 「それで、お願いしていた件に関してはどうでしたか。」

「うん、それがね…。」

と、千明の質問に愛美が応え掛けたその時に、熱せられた鉄板の上で肉の焼ける小気味の良い音が広がる。

 愛美は辺りの憚る様に、テーブルに乗り出して千明の耳元に顔を近づけると、

「やっぱり、千明が思っていた通り、(かさね)に所属している鬼人(おに)の中にも、それに『札付(ふだつ)き』の中にも…千明の言う、黒い鬼人(おに)に該当する人は居なかったよ。」

 「そうですか…。」

「うん、でもまぁ…もし、黒い鬼鎧(きがい)を紡げる鬼人(おに)が、私達と同じ世代に居たとしたら…きっと話題に上ってただろうからねぇ…それにしても、そう言う鬼人(おに)が居るとして…本当に、私達と同じ世代で間違いないの。」

 身体を背もたれへ戻した愛美に、千明は頷いて見せる。

 「私の勘違いで無ければですけどね。」

「そっか…でもそうなると、きっとその男の子は『野良』だよね。流石に、(かさね)に『鬼籍(きせき)』が存在しないようだと、私じゃあ調べようが無いからなぁ。…そう言えば、警部さんには聞いたの。」

 「いいえ。別に、その鬼人(おに)の素性を知りたかったのではなくて…ただ、その鬼人(おに)の記録が(かさね)にあるかどうかが知りたかっただけですから。…あっ、それより、愛美さんも何か食べませんか。さっきから一人で食べてると、なんだか味気無くって。」

 愛美は千明のはぐらかす様な言い回しにも、別段、気にした風ではなく、

「よく言うよね、こんな高そうなお店を開店前から貸し切り状態にしておいて…どうせまた、いつもみたいに無茶食いしたんでしょ。幾ら鬼人(おに)とは言え、身体に良くないよ、そういう食べ方は…。」

 千明は楽しそうに口の端を引っ張り上げて、

「解ってはいるんですけど…止められないんですよね、これだけは…まぁ後、牛の一頭も食べる頃には、今回の失敗の余韻も断ちきれると思うから、もう少しだけ多めに見て下さい。それと、開店を早めて貰ったのは、営業時間中にこんな大喰らいが店の中に居座っていたら迷惑かなと思ったものだからで…私が、一杯食べてる姿を人に見られるのが恥ずかしいからとか…そういう理由では無いので、勘違いしない様に。」

 愛美ももう、声を潜めて話す気も無いようで…身体を反らすように、椅子の背もたれに背中をグイッと押し付けて、

「はいはい、心得てますよ。…じゃあ、お言葉に甘えて、私も何か頂いちゃおう…ちょうど今晩は健も帰ってこないし、ここで豪華なディナーと洒落こんでおくのも悪くないかな。」

 千明はすかさず、愛美の方にメニューの冊子を押し遣る。

 「どうぞ、調べ事をお願いした手数料だと思って、好きなもの食べて下さいね。」

「本当に…情報料ってことだと、安くは済まないわよ。」

 …っと、そこで不意に、黒い鬼人(おに)と洋平が似た様なやり取りをしていたのを思い出して…千明の笑顔が少々引き攣ったようだが…愛美はメニューの冊子に齧り付きに成っている…一安心と言ったところか。

 そうそう、一安心と言えば…千明も、それに健本人も…愛美に、は健を昏倒させたのがその…愛美に調査させた黒い鬼人(おに)であるとは伝えていな様だ。

 仮に愛美が真相を聞かされていたとしたら…児玉警部との、あの、のろけ交じりの会話から考えても…とてもじゃないが、スムーズに事が運びはしなかっただろう。

 千明としてもここは穏便に…その方が何かと都合良いのだから…。そう、少し所在無げにフォークを切っ先を唇に咥えて…多少行儀が悪いが…千明はすこぶる可愛らしく、自分の腹積もりと相談を始める。

 昨日からこっち、千明はこんな具合が続いているので…度々相談を持ちかけられる彼女の『お腹』も、懸命に応えようと、次から次に空腹だと燃料を要求するのだ。

 …そうこう言っている間にも…ほら、千明のスリムなウエストから、腹の虫が申し訳なさそう、か細い声で『おかわり。」と次の『肉』を、そして次の悩みを要求し始めた。

 愛美は冊子を持ち上げて…しかし、言うまでも無く聞えよがしに…クスクスと笑い声を漏らす。

 おっと今度はタイミング良く、注文していた千明のお肉が運ばれて来た。愛美は天の助けとばかりに、笑いを噛み殺しながら、配膳しにきた女性店員に自分の注文を言う。

 それはまるで…普通の女子学生が過ごす様な時間。千明は一瞬、鬼人(おに)としての日常から置き去りにされた様な、空腹感を忘れる様な…それはそれは怠惰で、陶酔感に溢れた錯覚を覚えた。

 だからと言って…現実は彼女に、そんな満足そうな、寂しそうな顔で、ナイフとフォークを置く事を許してはくれない…。

 コックコートの男に新たな注文を告げるべく、女性店員が二人の傍を離れた…愛美はまさにその刹那に思い出したかのように、何気なく口を開く。

 「そうだった、言い忘れてたよ。千明に調べてくれって頼まれていたもう一つの事…土屋加奈子さんの家族がどうして、ああもあっさりと『五つ()』の指示に従ったかってこと…その理由が解ったの。」

 そして、愛美は少し躊躇いながら…、

「でも、正直言って食欲の無くなりそうな話だから…どうする。やっぱり食事の後にしようか…。」

 そのしかめっ面から、前置きが無くとも千明には、愛美の持ってきた情報が嫌気の差す類の物であることは、明瞭に思いやられた。

 こうなる事を予期していたかのように、またぞろ、千明の鼻孔をくすぐる芳しい焼けた肉の香…。

 千明は諦めた様に、名残惜しそうに小さく口を開くと…切り分けた肉を、そこへと運ぶ作業を再開するのだった。…今宵の晩餐は、長くなりそうだ…。

[17]

 しとしとと辺りに降り注ぐ静かな霧雨。

 周りの音を吸い込むかのような空を覆う雲と、雨の色に染まった風景。

 …聞こえるのは、傘を優しく、だが、間断なく叩き続ける雨音だけ…。

 小太郎は、膝が濡れるのも気にせずに墓石の前にしゃがみ込む夏芽に…黙って、傘をさし掛けてやっている。

 ひたすらに泣きじゃくる夏芽…そんな彼女の背中を見下ろしながら、小太郎は幼かった頃に漠然と感じた心細さを思い起こしていた…そして、考えるのだ…。

 自分には、こんな風に夏芽の涙をさらけ出させる権利があるのだろうかと…いっその事、彼女の涙も、この時間と一緒に…雨が洗い流してしまった方が良いのではなかろうかと…。

 自分の手には…雨を夏芽に近寄らせないための傘は有っても…彼女の涙を拭ってやるハンカチも…何よりそんな度胸も…持ってはいないのだから…。

 雨に瞼を塞がれながら、ふと仰ぎ見る空。長く伸びる黒い線…あるいは、連なる銀の糸か…。

 無表情で黙している小太郎も、今や、霧雨に濡れそぼる風景の一部となっている。…多分、夏芽にとっても…。それでも、小太郎は一本しかない無いか傘で、一途に、夏芽をこの冷たさから守っていた。

 どうして二人がこの様な状況になっているのか。…それを語るにはまず、この日より二日前に戻って話を進めてくるしかないだろう…そう、織田健の亡くなった、その日話を…。

[18]

 「貴方は…いったい、どういう料簡なの。」

 (くだん)の路地裏に現れるなり、先着していた黒い鬼人(おに)を怒鳴りつけたのは千明であった。

 発掘作業でもしているかのように、何やら思慮深げな態度の黒い鬼人(おに)は、相変わらず…といか当り前に…鬼鎧(きがい)を纏っているので表情は解らない。しかし、まぁ…大抵は何てことなさそうに…掴んでいたコンクリートの瓦礫を放り捨てると、

「どうもこうも…僕の何が鬼姫さまの御不興を買ったのか…皆目、解りかねますね。」

と、黒い鬼人(おに)は気の無い風に応じて…それでもどういうわけか、まだ、気に成る事が有りそうな様子で、辺りを見回している。

 この様な黒い鬼人(おに)のつれない…もとい、無礼な態度に、千明には余計に物申したい事が増えたのだろう。…が、そこはグッと堪えて、

「貴方ねぇ…大野洋平(おおのようへい)が『刻騙(ときだま)し』の能力を発現させているのに気付いてて、そのことを私に伏せていたでしょう。それ、どういう積りだったのか、説明してもらいたんだけど…。」

 まっ、千明が律儀に、黒い鬼人(おに)の素性を警察が調べ始めることの無い様に、どれほどの腐心をしたかを考えれば…こうして青筋立ててる姿も可愛いものだ。…その程度のことが解らぬ黒い鬼人(おに)でも無かろうに…よっぽど興味をそそられる事があるらしく…、

「あぁ、そのことですか…。」

と、無関心そうに応えると…今いる角の方から…音も無く、一足飛びに路地裏の中央に移動した。

 黒い鬼人(おに)にとっては何気なく、そして楽々と飛び移ったのだろう。しかし、その速さ、そのしなやかさは…千明を言葉に詰まらせるのには十分すぎるインパクトがあった様で…流石はお嬢様、ここでまたむくむくと、黒い鬼人(おに)への対抗意識が持ち上がって来ている御様子。

 その事を知ってか知らずか…まっ、今度ばかりはそれどころでは無さそうという意味で、わざとには見えないが…黒い鬼人(おに)は我関せずと、鬼鎧(きがい)の透明な指先の表面で、血に染まった地面を撫でている。

 黒い鬼人(おに)は親指の腹に付いた紅い砂礫を、人差し指とで挟み込む様に、シャリシャリと音を立てて擦りつける。

 しばらくそうしていて、やっと満足したようだ。…指の砂粒を払い落してから、のんびりとした調子で千明の方を向く黒い鬼人(おに)

 そして、彼が酷く有り触れた様に千明に投げ掛けた言葉は、彼女を意表を突き、なおかつ、腹立たしい思いをさせることに成る。…千明はようやくディナーから解放されて、ここに来たと言うのに…。

 黒い鬼人(おに)が硬いマスクの奥で口を開く。

 「でも、丁度良かった。その事は…それから後も一つのことも、鬼姫さまには謝らなければ行けないと思っていたんですよ。」

と、『皆目、解りかねる。』などとのたまっていた口から発せられたとは思い難い事を、いけしゃあしゃあと言い切った黒い鬼人(おに)

 はぐらかす様な口調なのは知っていたが…言うに事かいて『謝りたいと思っていた。』などとほざかれた日にはもう…器量が服を着て歩いている様な千明でも…それは…。

 「へぇ…謝りたいねぇ。それじゃあ謝って貰おうかしら。まずは、大野洋平の『刻騙(ときだま)し』の件だけど…誠意を込めて釈明してごらんなさい。」

 おそらく、千明としては目いっぱい厭味ったらしく喋っているつもりだろう。でも、まぁ…黒い鬼人(おに)の様なドライなタイプにはあまり効果が無い…というより、むしろ喜ばせることに近い様な…。

 あぁ、やっぱり…黒い鬼人(おに)は飄々と、そしてどこか乗り気そうに、黒い『舌』のような尻尾をよろめかせる。

 「慎んで、鬼姫の御意のままにいたしましょう。と、意気込んで言ってはみたものの…その問いの答えは、児戯に類かと思う程に明快なんですよねぇ。まぁ、有体に言ってしまえば、彼の『刻騙(ときだま)し』は能力と呼べるような代物じゃなかった…っと、それだけの事なんですよね。」

「それは、大野洋平には『刻騙(ときだま)し』は制御出来ていないってことなの…。」

 「えぇ、あれは、貴女に追い詰められて急遽、本能的に発現させた『能力』だったんでしょうね。元々が自分の『能力』で無かっただけに、ずいぶんとお粗末なものでしたよ…あれなら、鬼眼(きがん)で簡単に捕捉できるはず…だから、ことさらに言う事はしなかったんですが…考えてみれば、不親切だったかもしれませんね。すいません。」

 黒い鬼人(おに)はそれで良いかもしれないが…千明にとっては当然に、『すいません。』では済まない問題であった。それに、話の決着を付ける前に、尋ねるべき事が他にもあるのだ。

 「要するに、どういうことなの…。大野洋平は『二本角(にほんづの)』だったってことで、良いのかな。」

「先天的な『二本角』だったかと言われれば、それは違うともいます。鬼姫さまには敢えて言うまでも無い事ですが…『二本角(にほんづの)』、それに稀に出現する『三本角(さんぼんづの)』や、『四本角(よんほんづの)』と呼ばれる鬼人(おに)。それはすなわち、『五つ()』を五つの血族…そして、各々の血縁を示す五つの『能力』。その力を複数受けつぐ鬼人を、発現した『能力』の数によって『二本角』なり、『三本角』と呼び習わしている。そして、これも千明さまは良く御存じの事かと思いますが…複数の血縁を発現させたものは、皆一様に人間的な感情をほとんど損なわず…それ故に、鬼人(おに)としての本能の働きは弱いとされています。ですからもし…大野洋平が生まれながらの…いや、人から鬼人へ生まれ変わった時点ですでに、あらかじめから『二本角』だったとしたら…彼には、独力で人を喰らい、死返(まかるがえ)しを執り行う事は出来なかったのではないでしょうか…例え、彼の身に、人を喰らわなければいけない様な…身の毛もよだつ様な危機が這い寄って来ていたとしても…。」

 千明は知っていることも少なからずあったろうが、黒い鬼人(おに)の言う事に一つ一つ頷いて聞いていた。…さぞや、おモテになるだろうなぁ、彼女は…。

 …と、そんな雑念の張り込む余地など無く、千明は黒い鬼人(おに)を問いただす様に、

「貴方の言う通りだとしたら…予めから大野洋平が、蒐祖の『異能』と、『刻騙(ときだま)し』の二つの『能力』を兼ね備えていた訳ではないのだとしたら…それじゃあ、彼の二つ目の『能力』の出所は、まさか…。」

 千明は胸苦しそうに、結論を言い出せずにいた。

 黒い鬼人(おに)は話の要所要所でうねっていた尻尾を黙らせた。そうしてから…逃げるかのように、視線を抉れた地面の間を彷徨わせている千明を…見かねた様に、急かす様に、彼女に変わってこの議論を締めくくりに掛る。

 「ずばり、貴女の考えている通りだと思います。…元を正せば、彼の『刻騙(ときだま)し』は、彼に食べられた土屋加奈子さんの発現するはずだった『能力』だったんでしょうね。僕が見たところ彼女は、亡くなる時点まで鬼人(おに)に生まれ変わってはいなかったようですが…(かさね)や、『萩の会』では、彼女の事は…。」

 千明はするすると進み始めたけ結論への筋道に、少し戸惑いを覚えながら、

「え、えぇ。…鬼人(おに)として転生を遂げていた訳ではないから、結局、彼女の名前は『鬼籍(きせき

)』には登録されなかったけれど…高校入学当初から、鬼人と成る可能性のある生徒としてチェックはされていたの。彼女が無くなって、改めて資料を調べてみたのだけど…一番最近の健康診断でも、内在する()(くす)ぶり方が末期の状態にあると…生まれ変わるのも秒読みという段階にまで来ていたみたいなの。」

 「なるほどなるほど…もし検査のときに、それまで膨らんでいた()が一転して、平静を取り戻していたとしたら…それは、彼女が()を制御化に置いている事の証。その時は、彼女は鬼人(おに)へと生まれ変わっていたと見て良い訳何ですが…しかし、今度の場合はそうでは無かった…。それならば何故、大野洋平は…彼は彼女を喰らう事を実行したのか…仮初めにも、二人は交際していたはずなのに…。」

 楽しそうに舌を転がしながら、物思いにふける黒い鬼人(おに)。千明には、彼が妙に事情に精通している事を上げて、詰問し様と言う気は無い様だ。じっと、黒い鬼人が思考し、話を終るのを待っている。

 そして、それは案外に早く訪れる。

 「おっと、これはいけない。もう一つの重要な話をしないといけない事を、危うく忘れてしまう所でした。」

と、自らご機嫌な思索の時間を断ちきった、黒い鬼人(おに)

 そう言えばさっきも、千明の沈思黙考する僅かな時間を待てずに、自分から先に立って話を継いでいたが…黒い鬼人(おに)の言う『もう一つの話』とは、それほどに重大な事なのだろうか。

 黒い鬼人(おに)は話の決着を付けるように、あるいは、先延ばしにするかの様に、

「兎に角、大野洋平は鬼人(おに)となって、本能的に、自分に死をもたらすであろう何かの存在を感じ取った。それが、何なのかは解りません。…生まれ変わったばかりの彼に、そんなに早い段階で、寿命がネックになったとも思えませんし…。しかしながら、直面する状況から逃れるために、それとも、それを打破するために…彼は、鬼人へと生まれ変わろうとしていた土屋加奈子さんを食べて…死返(まかるがえ)しを執り行った事は間違いないでしょう。」

 黒い鬼人が千明の前を横切って、昨晩のように鉄骨の山の上に腰掛ける。

 「まっ、思った通りと言いましょうか…彼の『刻騙(ときだま)し』が制御の出来ない代物なのは、土屋加奈子さんをまだ、鬼人(おに)へと完全に生まれ変わっていなかった状態で食べてしまった事が原因。詰まりは、大野洋平は自分の内面の底から、未完成な『刻騙し』の『能力』しか引き出し得なかったってことですね。」

 そう上向き加減に、大儀そうに話す黒い鬼人(おに)

 千明は眉を吊り上げて、射抜く様な視線を黒い鬼人(おに)に向ける。

 「貴方は…そこまでのことに気付いていながら、それを黙っていたの。」

 千明のその低く、憤怒の弾けそうな声に…黒い鬼人(おに)はやや、驚いた様に、困った様に、

「えぇ…まぁ…あの時はまだ、確証を持てるほどではありませんでしたから…それよりも、こっちの話に結論が出た所で、僕は…出来れば早めに、もう一つの件を謝ってしまいたいんですが…。」

 「話を逸らさないで、まだ、何も結論はでていないわ。」

と、千明が鋭く、黒い鬼人(おに)を叱り付けた。…そう言われても…鬼鎧(きがい)の存在が、黒い鬼人(おに)の感情の動きを覆い隠していた…。

 千明はツカツカと黒い鬼人(おに)の方へ歩み寄ると、鉄骨の上に座る彼の正面に立ちふさがった。

 「貴方がちゃんとその事を私に教えて置いてくれれば、私たちの大野洋平の捜索はもっと効果的に行えていたはずだわ。それだけ、要らぬ犠牲を出す危険を回避出来るのに…。貴方が、大野洋平が死返(まかるがえ)しを執り行うまでの猶予を短縮した様なものなのに…知っていて、彼の『能力』が私たちの捜索の網を抜けるのを見逃していたのと同じじゃない。…それとも何、私にそんなことを教える義理は、貴方にはないって言う事。私たちが徒労に走り回るのも、命の危機に瀕するのも知ったこっちゃないとでも言うの。あの時ははぐらかされたけど…もう一度聞くわよ。答えなさい。貴方は私の敵なの、それとも味方なの。」

 どうしようもない憤りが、白い肌を掻き毟りたくなる様な苛立ちが…千明をかくも感情的に、そして生身でもなお好戦的に駆り立てる。…それは、巣を、仲間を守る為の本能…否、理屈など不要なこと…。

 黒い鬼人(おに)は目の前で勇ましく咆哮する千明を、黒く、静謐に輝く瞳で…じっと眺めている。

 こんなにも強く感情を表現する…表現することの出来る千明。黒い鬼人(おに)の瞳の輝きと、ほのかな陽炎の暗さは…恰も、失ったものを見つめる様な羨望と、郷愁を移す様に…。それでもなお淀みなく燃える続ける漆黒の瞳が…どこか切ない…。

 千明もそのあるかなしかの憂いに気付いて…一言の反論もされていないのに、自ずと口が重くなった様だ。

 黒い鬼人(おに)はそんな自分の心境と、千明の信念を労わる様に、

「味方ですよ、僕は…。」

 口調はいつも通り、だが…普段なら皮肉か、冗談に聞こえそうな言葉、そして、そんなタイミングのはずが…千明はどうしてか、突っ掛かっていけない重厚さを、この短く、尻切れな言葉から感じ取っていた。

 黒い鬼人(おに)がいつも通りの…はずの…すがれた声で続ける。

 「とは言え、昨日の…こうして今の様に話している時点で、彼がまごうことなく『二本角』だと、僕が感知していたとして…僕はまず、貴女にそのことを伝える様な事はしなかったでしょう。確かに、この辺り一帯に鬼膜(きまく)を張り巡らせて居たのは僕ですから、僕がその事に気付く…違和感を覚えるのは当然の事ですけどね…それは、貴女にとっても同じ事…。何しろ、貴女は彼と戦闘状態にあった。そして、あれ程の損傷を彼に与えるほどに殴りつけていた。貴女は彼の鬼鎧(きがい)に直接触れたんですよ。…その時に、『刻騙(ときだま)し』の『能力』に通じる何らかの違和感があって良かったはずですよね。」

 黒い鬼人(おに)のそんな指摘に耳を傾けながら…千明は図々しく踏み込み切れずにいる。まぁ、黒い鬼人の方にこうも毒気が無いとすると、無理からぬことかもしれない。

 千明はおっかなびっくり、足場を選びながら、

「私が…私の意識が足りなかったと言いたいの。」

 その問いに、黒い鬼人(おに)は短く感慨深気な声を漏らして、

「貴女があの人喰い鬼人(おに)に興味が無かったのは解ります。どうも貴女は、始めから彼を殺すなり、叩きのめして行動不能にしようと考えていたようですから…それも、力技であっさりと黙らせてやろうと言う気概で…ですから、貴女の注意力が彼の方に向かい切らなかったのは、ある意味では当然の事なんでしょうが…。それでも、集中力が足りなかった。相手を舐めて掛っていた。それに、たるんでいたという誹りは免れ得ぬでしょうね。」

 黒い鬼人(おに)は淡々と叱責とも、擁護とも付かない文言を並べた。

 千明は頭ごなしにそう言われて、多少は拗ねたように、

「悪かったわね。どうせ私は、貴方みたいに上手には()を制御出来ませんよ。」

 「それは違います。」

と、二つ返事で、黒い鬼人(おに)の声が千明に返される。千明は不思議そうに、そして何を言うのかと、頬の膨らみを和らげながら…小さな期待を持って…黒い鬼人(おに)の次の言葉を待った。…が、

「それ以前の問題ですよ。」

 …いともあっさりと、千明の期待は風船の様に破裂した。…あっ、彼女の頬っぺたは弾けてないので、ご心配なく…。

 千明は恥じ入る様な、皮肉めいた笑みをうかべた。

 「そうかもね。確かに、『それ以前の問題』かもしれない…例えば、あいつに毒針を打ちこまれた件。」

「あれは、まさしくそうでしょうね。貴女は、彼を半死半生の状態に追い詰めたことで、彼に対して注意を払うのを怠ってしまった。それ故、彼に自らの鬼鎧(きがい)を浅く砕き、瞬間的に力を増す機会を与えてしまったんでしたね。」

 「へぇ、あれにはそんな意味が在ったのか…。非活性状態にある鬼鎧(きがい)表面の透明な部分を、意図的に壊すことで()に還元する。それで一時的に活性状態にある…攻撃するのに使える()の量を増やしたって訳ね…今から考えると、どうしてそんなことに気付かなかったのかって思うわ。でもこれで、あいつの『(ながれ)』の勢いが…()の流動の規模が思ったよりもずっと大きかった事にも納得が言ったわ…。」

「あぁ、やっぱり御存じなかったんですね。」

 この言い方に…黒い鬼人(おに)に悪意は無い。しかしながら、こうも屈託なく言われると…悪意が有ろうと無かろうと、やっぱり腹が立つのだ。むしろ、黒い鬼人(おに)は全て解った上で敢えて、悪戯心を押させえているのではあるまいかと…千明にはそう思えて…苦々しそうな笑顔がじわじわ上っ面を広がっていく…。

 「そうじゃないのかなとは思いました。…あれは『野良』どうしのじゃれ合いなんかでは良く見られるんですよ。決め手としてね。ああして抱え込む()の量を増やしておいて、『(ながれ)』に移行する…そこまでで一連の技として使用します。大概の鬼人(おに)は誰に教え込まれるのでもなく、本能的に、追い込まれるとああやって精神の安定と、防御力を犠牲にして…一時しのぎで自己の力量を超えた力を発揮する。…まっ、まんま火事場の馬鹿力ってことですね。そういう類の底力の発揮の仕方だけに、かえって、鬼姫さまは思い付きもしなかったんでしょう。」

 黒い鬼人(おに)がおどけた様に、はやし立てる様に…、

「だって、鬼姫さまは、敵に追い詰められたことなんてないんでしょ。」

 面と向かってそう言われると…手放しの称賛では無いにしろ…千明は青い静脈の浮く耳を微かに赤らめ、照れたようにそっぽを向いた。…要領の良い奴とは、黒い鬼人(おに)のような手合いの事を差すのだろう…。

 黒い鬼人(おに)は小さく笑い声を漏らしてから、

「でも、貴女の鬼鎧(きがい)を彼の毒針が貫けたのは…相手の力技のせいではありませんけどね。」

と、狙い澄ましたようにチクリと、千明に不意打ちの一刺しを忘れない。…ひねくれ者とは、まさにこいつの事だろう…さっきよりもしっくりと来る…。

 千明は顔をしかめたり、柔らかくしたりと…表情筋を弄ばれるのはもう沢山だと言いたげに…呆れかえった様な無表情で、

「何、今度は私の鬼鎧(きがい)の強度が低いって言いたいの。ていうか、貴方は結局、私に何を言いたいのよ。」

 「ですから、貴女はもっと集中して闘うべきだと…だいたい、僕は貴女の鬼鎧(きがい)の強度が足りないなどとは言う積りは有りません。そんなものは、迫りくる相手の攻撃をちゃんと意識して、接触する箇所に()を集中、そして制御すれば…強度だろうと、硬度だろうと自由自在ですから…。それは、生成した鬼鎧(きがい)の色が『白銀』だからとか、『黒』だったから潜在的に密度が高いとかは、関係ない事ですよ。」

 千明にとってもそれは『言われてみればその通り』なことのようだ。勢い反論した事への軽い後悔の念からか、千明はばつの悪そうな顔で…漆黒の瞳とは目線を交わらせ無い…。

 黒い鬼人(おに)はもう一度、だが少しからかうように笑うと、

「まっ、黒い鬼鎧(きがい)()の密度が高い分、結晶化してしまった後の制御がずば抜けて容易いって言うのは…本当ですけどね…。これは、僕の実体験としての意見ですがね。」

 そして後に続く、わざとらしい含み笑い。それで千明もやっと、憎ったらしいそうに黒い鬼人(おに)の『顔』を見る事が出来た。

 …本当に漠然として、掴みどころの無い多様な『面』を見せるものだ…面倒見の良い黒い鬼人(おに)と言い…自尊心の強い千明と言い。だが、我々は皆知っているのでは無かったか…鬼人(おに)は…人とはそういうものだと言う事を…。

 「要するに、『命懸けの闘いでは、如何に相手が格下でも集中して臨みなさい』と言う事です。『獅子は兎を狩るのにも死力を尽くす』という格言も有りますし。他にも、まるで貴女の為に誂えたかのような『他山の石を以て玉を攻むべし』という…。」

「あぁ、はいはい、解りました。『慢心は最大の敵』とことよね。貴方の有り難い忠告は、しっかりと肝に命じて置きますわ。…で、もう一つ私に謝りたい事があるって言ってたけど、良ければそちらの話をして頂きたいのだけど…よろしいですかしら。」

 どうやら千明は、黒い鬼人(おに)をあしらう方法を体得したらしい。曰く…言う事は話半分に聞いておく。それでも長引きそうな場合は、こっちから結論を出してやる…と。

 更に、かくも優雅に水を向けられては…さしもの黒い鬼人(おに)も話題を変えざるを得ない。

 しかしながら、敵もさる者引っ掻くもの…黒い鬼人(おに)はいささか残念そうに、

「そうですか…まぁ、それでしたら…この話の続きは、また、『次の機会』の為に控えておく事にしましょう。」

と、去り際の香水の余情のような皮肉を一匙。…確か、話を勧めたがっていたのはむしろ、お前の方じゃなかったのかと…。

 まぁ、千明がそう突っ込みたいのを我慢しているのだから、著者もそれに習うとしよう。

 小気味好い会話にすっかり気を良くした黒い鬼人(おに)が、竪琴を掻き鳴らす様に、舞台に居並ぶ役者たちを紹介するかのように…砕き、苛まれた路地裏の地面を…手を真っ直ぐに伸ばして披露した。

 「これを見て、何か気が付きませんか…。」

と、黒い鬼人(おに)に言われても…千明にはそもそも、『これ』が何かすらも判然としない様子。

 しかし、問題無い。こういう場合は黒い鬼人(おに)の様な性格も結構便利なもので…、

「どうですか、昨晩の貴方達の闘いの後から見て…地面の破砕がかなり進んでいる様に感じませんか。」

と、千明の腑に落ちなさそうな顔を見ると、あっさりと自ら話を進めてしまった。

 千明は黒い鬼人(おに)の話を受けて、注意深く路地裏を見渡す。言われてみると、昨晩よりも全体的に破損部分が増えている様な…それに、血痕の箇所も心なしか多くなって感じる…。

 千明は…敵意の無い事が手に取る様に解るからか…黒い鬼人(おに)に躊躇なく背中を見せると、路地裏の中央へと歩み出た。…今晩はまだまだ、歓楽街の街灯が(やかま)しい。夜空も濁り、星は数える程しか見えない…。

 深呼吸を一つ。それから、千明は一円に鬼膜(きまく)を広げ始める。

 …黒い鬼人(おに)の驚嘆の吐息に彩られるかのように、軽々と拡がっていく千明の鬼膜(きまく)

 辺りは、鬼人(おに)の他には気にも留めないであろう、『白銀』の薄明かりに照らし出された。

 千明は鬼膜(きまく)内の強い()を順にはぐり始める。

 まずは…鉄骨の上の()の塊。鬼鎧(きがい)を纏った黒い鬼人(おに)が際立つ。

 (こうして…改めて鬼膜(きまく)越しに『触って』みると、すごい()の密度…剃刀を入れる隙間も無いというイメージね…当り前だけど…。何だか…こいつの事を知覚してると…つるつるしていると言うか…きめ細かすぎて気持ち悪くなるから…これ位にして置こうかな。)

と、千明の注意が離れるのと同時に、しんとして動かずにいた黒い鬼人(おに)が、腕組みを解いた。…千明の鬼膜(きまく)越しに『触れられて』いた事に、彼は気付いて居たのだろうか…。

 気にせず、千明は次に強い()鬼膜(きまく)という手を翳す。…その揺らめく炎の様な、あわやかな()は…、

(これは…私の()…。昨日のあの戦いの最中に、あいつを叩きのめしながら地面に擦り付けた()がまだ残ってたのね…。)

 千明はそんな、自らの『白銀』を感じさせる()をかき分ける様に…一段階弱い()を探り当てる…。

 (少し纏まりを欠いている様なだけど…心なしか、私の()の残滓よりも鮮明な鬼が…二つ。)

 雲に反射した街灯の、仄かな光が集まる地面。千明はくるりと黒い鬼人(おに)の方へ向き直ると、ファッションモデルの様に地面を踏みならしながら、二、三歩前へ。

 「私と大野洋平の闘いから今までの間に、誰かがここで闘ったのね。…一人はおそらく、手負いの大野洋平…。」

と、腰に手を当てて告げる立ち姿も、なかなか様に成っている。

 黒い鬼人(おに)は口で返事をする前にまず、起き上がる前の動作として両手を鉄骨の上に…そして瞬時に、音も無く、もう千明の隣に居る…。

 流石に黒い鬼人(おに)の快速にも慣れたのか、千明は彼の動きにゆったりと遅れて、その長身を見上げた。

 黒い鬼人(おに)は自分の顔面に向けられた千明の視線を、すかさず地面の方へ誘導する。

 「見て下さい、これを。」

と、黒い鬼人(おに)が太い指で差す先は…砕けた地面の一か所の様だ。しかし…他の破損した箇所とは、どうも形跡が違うようなのだ。

 それは強い力が衝突して、潰れ、砕けたと言うよりも…内側から引っ張り上げたかのように、盛り上がり、後に砕け散ったかに見える。

 そしてその部分を丸く囲む様に出来た『縁』には…急速に冷え固まった火山岩の様に、気泡の弾けた形そのままのコンクリートが、奇妙な光沢を放っていた。

 「彼の毒針はどうやら、無生物を溶かす事をも出来る様ですね。」

 ここまで言えば、改めて肯定の言葉を返すまでも無い。

 さて、こうなってくると気になるのは大野洋平と闘っていたのが誰かと言う事…そして、

「それで、貴方が私に謝りたかったもう一つの事と言うのは…。」

 「はぁ、それはですねぇ。」

 黒い鬼人(おに)は幾分か言い難そうに、

「鬼姫さまはもう御承知の事かとは思いますが…昨日、カラオケで、鬼眼(きがん)を持つ警察の方に不意打ちを掛けたのは…僕です。」

 千明は斜に構えて腕を組み、見下ろす黒い鬼人(おに)に寄り掛かりそうな近さで、

「貴方の言う通り解ってはいたけれど…でも、『やっぱりね。」とは、言わせて貰っておくわ。」

 黒い鬼人(おに)は一切たじろがずに、だが…やっぱりね…心苦しそうに鬼鎧(きがい)の首筋をピシャリと叩いて、

「はぁ、本当に申し訳ありません。…彼が鬼眼(きがん)を持つ鬼人(おに)だと知ったのも、彼を昏倒させてから気付いた次第で…しかし、考えてみればあれがいけませんでしたね。やるならやるで、もっとこう…それに少なくとも、あそこに単独で配置されていたのですから、それなりの感知能力はあると思ってはいました。それなら、彼が塊堂の縁者であろうと察せられても良かったようなものなんですけどね。」

と、黒い鬼人(おに)は要点をぼかすかの様に、取りとめも無く話し続けた。

 確かに、あまりに簡潔にずばり言い切ってしまうと、どうしてもとうが立つ類の『会話』の流れも有る。例えば…言い訳とか…。

 「つまり、不意打ちを喰らわしたことを謝りたいって事よね。まぁ、いいわ。その事に関しては不問に付してあげます。…貴方には一応は借りが、それに…。」

と、千明は会得したばかりの極意、『長くなりそうな場合は、こっちから結論を出してやる。』を如何なく発揮してやる。…当然、話し辛そうにしていた黒い鬼人(おに)も、有り難がることはあっても、異論を唱える様な事は…無いかに思われたのだが…、

「いいえぇ、そう言う事ではなく。」

 やんわりと否定されて、意外そうな千明の瞳が、黒い瞳の方へ吸い込まれていく…。

 「確かに、襲撃を掛けて、気絶させた事は申し訳ない…ですが、それは鬼姫さまにではなく、塊堂の縁者の彼に直接謝るべき事で…貴女に謝るべきでは無いはず。僕が貴女に謝らなければ、そうではなくて…つまりは、彼をすぐ回復する程度のダメージで昏倒させた事…こうなる事が解っていれば、むしろ、病院送りにする程度の力をお見舞いして上げるんでした。そうしていれば…まさか、こんな…。」

「ちょっと、貴方まさか…大野洋平と闘ったのが、健さんだって言いたいの…。」

 千明の襟足から背中に掛けて、嫌な汗が流れる。そしてようやく…本当に、ようやく…千明も黒い鬼人(おに)の言わんとする事を了解した。

 これほど見え透いて居たのに、理解するのに時間が掛った…それはそうかも知れない。しかしながら、それが人間らしさでは無かろうか。

 千明の心の奥では、その『面影』に何らかの引っ掛かりはあっただろう…。だが、最悪の状況とは得てして…もしくは、人の心が上手く出来ているからこそ…意識の表面にまで浮上してこないものだ。…こうして、『しっかりと目を開けて、周りを見よ。』と揺す振られる様な、後味の悪そうに話す声でも利かない限り。

 実際、千明自身にも…恰も、自分が寝惚けていたように感じられた。…それとも満腹感からくる疲労なのかと、当てども無い事を考えながら…彼女は、人間の感性とはどうしてこうも都合良く、どうしてこうも脆弱なのかと…我がことながら強く思い知らされていた。

 「彼は、『健さん』と言うのですか…。もしあの時に、彼が貴方の親しい方だと解っていれば…って、何言ってるんだろうな僕は…鬼人(おに)のくせにね…。」

 …『鬼人(おに)のクセに』…その言葉には、何かを求める様な、何かを保とうとするような響きが有った。

 それは…野蛮な人間性とか、心弱い事への許し…多分、そんな甘ったれたものじゃない。

 その言葉には、自らが理想に向かいたいと…強くあれと望む辛辣さが有ったからこそ…忘我の淵を彷徨う千明を、引き戻す力強さが備わったのだ。

 千明はハッとして、ポケットから携帯電話を取りだすと、

「少しの間、失礼するわね。」

 「どうぞ、ごゆっくり。」

と、黒い鬼人(おに)のいつも通りの所まで軽くなった声を背中に受けながら、千明は落着か無い様子で脚を動かす。

 耳に当てた携帯電話から聞こえる、長い呼び出し音。…電話は、千明が黒い鬼人(おに)から随分離れた所で繋がった。

 「はい、それがちょっと気に成る事があって…昨晩に、私が大野洋平を取り逃がした場所なんですが…えぇ、大野洋平当人を見た訳ではないんです。…それがどうやら…あれからここで、誰かが大野洋平と闘った様な痕跡が…。」

 通話中の千明が、チラリと壊れた地面を、そしてその先に座する黒い鬼人(おに)を見やる。

 「はい、おそらく、健さんで間違いないかと…ですから、児玉さんには確認をお願いしたいんです。」

と、電話の相手はどうも児玉警部らしい。

 千明が今度は、黒い鬼人(おに)の方へ歩み寄りながら、

「えっ、私ですか。私は大丈夫ですよ…はい、現場には居ますけど一人じゃありませんから。」

 そして、黒い鬼人(おに)の目の前で、

「『萩の会』のメンバーと一緒に来ているんです。…心配ありませんよ。彼、すごく感知能力が高いし、それに逃げ足もずば抜けてますから…いざとなったら抱き上げてもらって、そのまま逃げちゃいますよ。…って、そんなに笑わないでくださいよ。はい、それじゃあ…。」

と、軽快な音を立てて携帯電話を閉じる、千明。黒い鬼人(おに)を見上げた顔は、無感動な夢から覚めた様にさばさばと…涼しげな笑みがそこには在った。

 黒い鬼人(おに)はやわやわと情緒を煮とかした様な声で、戻ってきた千明を迎える。

 「てっきりまた、お叱りを受けるかと思っていました…。」

「まさか…健さんは私にとって、友人でもありますから…正直、貴方が彼に乱暴を働いた事は頭に来ました。でも、もしもその事が引き金に成っていたとしても…彼が大野洋平と闘った事は…健さんが自ら決めた事だから、そのことで貴方を非難するのはお門違い。…それ位は、解ります。」

 「『非難するのはお門違い。』ですか。まぁ、そう言って貰えると有り難いんですが…しかしこの状況で、この距離だと…十分に非難の対象内に入りそうな親密さにも思えますね。特に、噂に成っている、鬼姫さまの人間の彼氏には申し訳ない…。」

「心配しなくても、相手が鎧を着用してのデートなら、圏外よ。」

と、千明は黒い鬼人(おに)鬼鎧(きがい)の胸元をノックして、

「あらまっ、本当にすごい密度…。」

 そう笑いを一頻り(ひとしきり)…さっぱりした顔で千明が、

「だからもし、貴方が彼に妬かせたいと言うのなら、貴方が鬼鎧(きがい)を脱いでくれる事が一番なんだけどな。」

 黒い鬼人(おに)は苦笑を漏らして、

「自分の彼氏の純情を盾にして正体を明かせと迫るのは、少々、卑怯では無いですか。…確かに、あの美形に、紅潮した顔で睨まれるのかと思うと…鬼姫さまの目論みに喜んで協力したくも成るんですが…半面、お二人の交際は学生らしい、健全なものだと思っていたものですから…残念でもあるような…。これは、ぜひとも鬼姫さまのお父様にチクッて…もとい、御忠言申し上げて…。」

 コツンと、黒い鬼人(おに)の言葉の前方を貫いた、透明感のある、硬質の響き…。黒い鬼人(おに)は二度目のノックにせっつかれて、

「あぁ、いいえ、それですから…『萩の会』のメンバーを危険にさらさない様に、進んで、単身危険が伴うような仕事もこなしていると…そう言う、もっぱらの評判だとお伝えしようと思いましてね。」

 シーソーゲームの様に、学校生活の事から、一気に『萩の会』の事情へと話をすり替える黒い鬼人(おに)。今がこんな状況だけに、これはなかなか効果的…千明もしけったように大きな瞳を伏せる。

 「評判か…それで、スタンドプレーが過ぎるって、仲間の反感を勝ってたらしょうがないよね。」

 それから、何故か、ニヤリと黒い鬼人(おに)の顔を見つめながら、

「でも、貴方みたいな強力そうな(おに)が入会してくれたら、少なくともスタンドプレイは解消されるかも…それに大所帯での活動でも、私の負担が軽くなるかもしれないし…どうかね、君。我が会に入会する積りはないかな。」

 「なんだ、僕の素性に探りを入れさせなかった理由は…てっきり、僕の願いを聞き入れてくれたのかとばかり思っていたんですけどね。なるほど、そういう色気も含まれていた訳ですか。」

と、黒い鬼人(おに)はおどけたように溜息を一つ。…満更でも無さそうだ…。

 千明もそれを好感触と受け止めた。

 「そう落胆しなくても、この件の片が付くまでは、貴方の素性を調べる様な事はしないと約束します。今も警察には、『カラオケ店に現れた黒い鬼人(おに)の素性については、私に心当たりが有る。』とか、『デリケートな問題なので、しばらく時間が欲しい。』、『まずは、大野洋平の捜索を優先すべきです。』って、結構、無理言って貴方の事を調べるのを待って貰っているような状況だから。…貴方が『黒い鬼鎧(きがい)』を纏う鬼人(おに)だったのも、実際、私の言葉に信憑性を持たせるのに一役買ってくれたのは間違いないけれどね。」

 「はぁ…そこまで入れ込んで貰えたとなると、僕として光栄だと申し上げましょうか…痛み入ると申しましょうか…。ですが…。」

「駄目、です。」

と、千明は黒い鬼人(おに)の二の句を、技あり一本と、見事に遮って、

「黒い鬼人(おに)が昨日、あのカラオケ店に現れた事は確定的なの。そこを私が力技でひん曲げて、貴方が行動しやすいようにして上げたんですよ。解って貰えると思いますけど、私としてもかなり無理して危険な橋を渡っているんです…だから、貴方の言いたい事は想像付きますけど…なし崩し的で申し訳ありませんが、貴方には『野良』を止めてもらって、(かさね)に『鬼籍(きせき)』を登録して貰わない訳にいかない。知っての通り、私にも立場ってものが有るものですから…。」

 千明にはっきりと言い切られて、今度の黒い鬼人(おに)の溜息は、窮した様な、白けた様な、それ本来の意味合いに溢れていた。

 そして、黒い鬼人(おに)がまた、一度目とも、二度目とも違う、溜息を漏らす。

 「まぁ、(かさね)に所属する事に関しましては、僕も先が短い身の上ですし…しゃあねぇな…っとは思っています。」

 そして一拍置いて、

「ですが、『萩の会』に入るのはちょっと…。縛りがきつそうですし、何より…老い先短い僕の残りの人生を…もろ他人事の為に使うのには、やはり、抵抗が…。」

と、黒い鬼人(おに)が言い渋るのも…まぁ、もっともな事だろう。 

 千明も渋い顔に成って、黒い鬼人(おに)の瞳の奥を覗き込む。

 「うーんっ、私としてはぜひにと思うんだけど…でも、貴方にその気が無いのなら、無理強いはしたくないし…。まぁ、とりあえず(かさね)に登録する事を承知してくれただけでも、充分としておきましょうか。…貴方には、借りもあるしね。」

 そう言って、千明は左腕を軽やかに持ち上げて見せた。

 「さっき携帯電話を操作しているときにも見ていましたが、指も問題無く動いている様ですね。」

「お陰さまでね。…だけど、『萩の会』に入いる気になったら、いつでも言ってよね。私は大歓迎だし…きっと、貴方が健さんを失神させた事を私が伏せておけば…会の皆も、貴方を歓迎するはずだよ。彼、会のOBなの。」

 「そうでしたか、それで貴方と親しい間柄に在ったと…。でも、それを聞くと尚更、僕には場違いそうだな…だけど、まぁ、考えては置きます。」

「うん、そうして下さい。」

と、千明は屈託なく笑顔を雲間に咲かせた。

 「にしても、貴方が穂塚高校での私の事…それに『萩の会』での私にも詳しいのは…まぁ、良いけど…。貴方自身の事が解る様な発現は控えた方が良いのでない。」

 「前にも言いましたが、調べれば解る事ですから。」

と、黒い鬼人(おに)は相も変らぬ事も無げな態度。

 それから黒い鬼人(おに)はヒョイッと鉄骨から飛び降りると、

「それより、ずいぶんとお時間を取らせてしまいました。今日は、この辺にしておきましょうか。」

 そう黒い鬼人(おに)の方から切り出されて、千明は言うまでも無く意外そうに、

「えっ、いいの。確か、貴方の方から私に、聞きたい事が有るって…。」

と、またゆっくりと黒い鬼人(おに)の佇まいを目で追う。 

 黒い鬼人(おに)はその立ち姿を、か弱い月明かりに浮かべながら答える。

 「僕の知りたい事は、おそらくは、今日明日にでも問題に成る類では無さそうなので…ですから貴女は、お気遣い無くお帰り下さい。『健さん』の安否が確認されてからでも、こちらとしては遅くないはずですから…。」

 千明は少し躊躇う様に、黙考する様に目を閉ざす。そして、黒い鬼人(おに)に向かって一度だけ頷くと、

「有り難う、そうさせて貰います。この続きはまた、必ず…日にちや、時間は…。」

 「それはこちらから、貴女の御都合の良さそうな時を見計らって参上しますよ。」

と、心得たものの黒い鬼人(おに)の文言に、千明は白い歯を見せて、

「それは、怖いわね…もし夜に来る時は、月明かりが有るときにしてよね。」

 これには黒い鬼人(おに)も、月光に白く淀んだ瞳を細めて一笑。尻尾もそれに釣られている。

 「どうです、お急ぎなら僕がそこまでお送りしましょうか。なに、しばらくの間、大人しく小脇に抱えられて下さりさえすれば…青森だろと、鹿児島だろうと、ものの二、三十分もあれば楽々とたどり着けますよ。ただまぁ…地続きでない場所に行くとなると…流石の僕でも快適な旅に成るとは保証しかねますがね。」

「へぇ、そういうこと言われると私、俄然、好奇心をくすぐられるんだけど。でも、残念今日はこの近くに車を待たせているから…御誘いはまたの機会にお受けすることにいたしますわ。…それに今夜まだ、私と貴方…噂の黒い鬼人(おに)が一緒に居るのを見られるのは、よろしくないでしょ。」

 そう言って、千明は足取りも軽く街灯の灯りを踏み踏み、あちらとこちらの境である路地へと向かう。

 後ろ手にしてスキップでもしそうな…モノクロ映画のワンシーンにはめ込まれた様な背中に、黒い鬼人(おに)が祝福を送る。

 「お気を付けて。」

「あなたもせいぜいね。…あっ、そうだ。」

 路地裏に残る青白い月明かりのスポットライトを惜しむかの様に、ヒロインは…千明は舞台袖からくるりと翻った。そして…暗がりで相好の判別は付かないが…猫の様に爛々と輝く瞳でこう言った…、

「別に、貴方が何者かは調べる積りも無い…今はね。それに、貴方と土屋加奈子がどういう関係だったかと言う事にも…今夜のところは興味なし…ってしておいて上げる積りだから、私の方から尋ね返す様なことはしないと約束しておきます。一応、貴方に話して聞かせる前に。」

 黒い鬼人(おに)はそんな何が飛び出すか解ったもんじゃない舞台袖を…全ての運命を受け入れる、シェイクスピア劇の登場人物の様に…忠誠心すら感じさせる瞳で、まんじりともせずに、見た…。

 「で、そのお話とは…。」

「うん…土屋加奈子さんの家族の…彼女の両親についての事…。(かさね)が…主に、『五つ()』が…今度の事でどんな風に…その…いろいろと協力をお願いしたのかって話…。私としても、身内の恥を晒すみたいで気が咎めるから…上手く口が動いてくれるかは解らないんだけれど…どう、それでも貴方は聞いて置きたい。大丈夫、こっちの心配は必要無いわ。どうせ、すぐ済む話だから…。」

 千明の声の向こうで…黒い鬼人(おに)の耳元に…予感が…雨の音が重なる。

 悲しくて、悲しくてどうしようもない…夏芽の啜り泣く声が…。

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