9/10
爪先に鉄
今日こそ奴を蹴ってやる
この靴で この爪先で
命がなくなるすれすれまで
丁寧な言葉で謝るまで
酷い辱しめを受けた
ぼくを人とも認めない
ぼくは肌色のサンドバッグだ
奴専用の
ぼくは奴よりも役立たずなんだそうだ
ぼくは奴よりも醜いそうだ
ぼくは奴よりも馬鹿なんだそうだ
奴の態度がそれを物語っている
でもそれは真実じゃない
ぼく自身さっきまでそう思い込んでいたけれど そうじゃない
ぼくと奴とは変わらない
どう見たって二人とも普通の平凡な人間だ
順番をつけるのも馬鹿馬鹿しいほどに
けれど奴は自分で決めている
自分はぼくよりも優れていると決めている
ぼくはそれが我慢ならない
ぼくは心を持っている
怒る心を持っている
悲しむ心も持っている
けれど許す心も持っている
早く蹴らなければ 許してしまう前に
ぼくは爪先に鉄をイメージする
蹴りあげてやる この鉄で
《了》




