第5話 ドキドキ
そんなことがあった、次の日。
俺は中島への対応を頭のなかでシミュレーションしつつ、重い足取りで学校へと向かった。
俺は朝には強いので、いつも早めに家を出る。
遅刻の心配は、ない。
――え〜と…もし会ったら、普通に話して…それから…
ぐるぐる頭の中で考えていた、その時。
「川岸!」
「!?」
――この声は、まさか…
「おはよ!」
「…あ、中島…おはよう」
――やっぱり、中島だった。
朝から爽やかな笑顔で、相変わらず…可愛い。
「何でそんな驚いてんの?ってかいつもこの時間?」
そうやって話を進める中島の態度は、至って普通。
「え…あ、ああ、そうだよ」
おれはドギマギしているのをなるべく気付かれないように返事を返す。
「マジ?私もそうだよ!何で一か月も会ったことなかったんだろうね」
「あ〜、そういえば」
――さっきからあ〜とかう〜しか言ってねぇじゃん、俺…
「…あ!借りたCDやっぱりめっちゃよかったよ!ありがと!」
中島はそんな俺に構わずにこっと満面の笑みを俺に向けた。
「え?あ〜うん、そっか!よかった、またなんか貸すよ」
――あ〜もう…好きって認めたらダメだなぁ…可愛すぎ…
そんなヘロヘロの俺をよそに、中島はどんどん話を進めた。
俺も何とか気の利いた返事をしようと試行錯誤していると、学校に着いた。
「じゃあ私クラス行くね!」
「あ、うん、じゃあまたな!」
中島は手を振る代わりににこっと一瞬笑って、教室に入って行った。
――ヤバイな、俺。
そんな中島の何気ない行動が、俺をどんどん動揺させた。
――俺の気持ち知らないのか?
一瞬そんなことも考えたけど、朝海のあの顔を思い出すと、有り得ないなって思った。
中島を見送って、俺も教室に入った。
何とかドキドキした心を落ち着かせるのに必死だった。