第11話 痛み
中里先輩と別れてから、部室へと向かった。
急いで着替えを済ませようとするのだが、こんな時に限っていろんなところにひっかかる部活着が憎い。
そんなやっとのことで着替えを終え、ボールとシューズ・タオルを引っ掴むと部室のドアを荒々しく閉めた。
「遅れて…すみません!!」
体育館に入ると同時に息も絶え絶えに叫んだ。
みんなの視線がこっちに集まる。
「おぅ、川岸!!大変だったな〜先生の手伝い」
斉藤キャプテンが話しかけて来た。
「へ………?」
俺は“先生の手伝い”という言葉にぽかんと呆気にとられていた。
不思議に思って、ちらっと豪を見ると、にこっと笑っていた。
それを見て、俺は豪が言ってくれたのだと確信した。
(……ありがと、豪)
そう、心の中で呟いた。
無事に部活を終え、いつものように豪と後片付けをした。
いろんなことで気疲れしていたのか、いつもよりすごく体がだるかった。
のろのろとリングを戻しながら今日の出来事を豪に話した。
「…それでさぁ、亮にはほんとやられたよ〜」
「ははっ。あいつバカだもんなぁ。健太が遅刻したのもこれで納得」
豪も亮の頭の悪さをよく知っている。
亮を思い浮かべたように笑っていた。
「それにしても豪が良い言い訳言っといてくれてほんと助かったよ」
「健太が遅れるなんて、な〜んか理由があるかなって思ってさ」
「まぁそんな理由だったわけだよ」
わざとらしく溜め息を漏らす俺を見て、豪はまた笑っていた。
体育館を消灯・施錠して、部室へと歩き出した。
女子に比べて、今日は特に練習が長引いたため、回りには男子しかいなかった。
部室のドアに手を掛けたとき、中から先輩の話し声が聞こえた。
「……それでさぁ……なんだよ」
「まじで!!!!??」
「それキツいな〜」
「ってか!中島さん可愛くね?」
(……え)
そう言ったのは、斉藤キャプテン。
ドアを開けようとした手がふいに止まる。
悪いとは思いつつ、話の続きが気になった俺は、ドアのそばでそっと耳を傾けた。
「はぁ!!??中島!!??お前趣味変わってるなぁ〜」
「変わってねぇよ〜笑った所とかまじで可愛いじゃん。」
―――ズキ
俺は胸が痛むのを感じた。
豪はそんな俺を不安げに見つめている。
(……確かに……そうだよ)
「しかも最近やたらと目が合うんだよな…ちょっと気になって来て」
「お〜?両思いかよ!」
他の先輩がふざけて冷やかした。
でも、そんな冷やかしさえも、今の俺にとって痛かった。
(よりによって、斉藤キャプテンだなんて)
「健太……」
うなだれる俺の肩に、豪がそっと手を載せた。