『下』 頑張るあなたへ
きっとあなたに出会っていなかったら、
今の私はいなかったのかも知れない。
何故か漠然とそう思う。
ひとりでは気付かなかった事、気付けなかった事、
互いに気付けた事。頑張り屋のあなたから、
「この問題少し教えて貰える?」
「経済かぁ~いいよ!私で解る範囲ね~!」
そんな他愛もない会話から、二人の関係が
ここまで続くとは思わずにいた。
気が付けば私達はいつも一緒にいた。
楽しい時も辛い時も。その時間を共有して・・・。
そんな彼女と出会ってまだ周囲に友達もいなく
て新しい生活を始めたばかりの私も、何処
か心救われていたんだと思う。
しばらくして彼女から宣告された。
「しばらく会えないと思うけど絶対戻って来るからね」
「何処へ行くの?」
「入院しなくちゃならないから・・・」
「どこか悪いの?」
「ええっ」
彼女の笑顔の裏には悲しみが潜んでいた。
彼女は重い病と闘っていた。
「ずっと言ってなかったけど、これが初めて
じゃないんだよ。もう3回目、去年も一昨年も
何度も転移してるから、そのうち
色んな所に転移して、私死んじゃうのかなぁ・・・
本当はちょっと怖いよ。だけど弱音吐きたくないからねぇ」
「・・・・・・・。」
そう言って見せられた身体の至る所の痛々しい傷跡。
私は言葉を失った。
「大丈夫だよ!信じてるからね!」
私はそんな言葉しか言えずにいた。
それから数か月、
「また転移しちゃったよ・・・。」
「ええっ?・・・。そんなっ」
「大丈夫又頑張るから!
私の事信じて待っていてくれる?」
「勿論だよ。友達だもん。信じて待ってるよ」
再び、私は彼女にそんな励ましの言葉しか掛けら
れない虚しさの中でもがいていた。そんな時、
「あっそうだ!」
そう言って突然閃いた私はホームセンターで
淡いピンクのミニバラの鉢植えを買った。
彼女の家の庭にそのミニバラを植えた。
そして彼女に言った。
「今はまだ小さいけれど、このミニバラが大きく
なる頃にはきっとあなたは元気になってるはずだから!
このミニバラを私だと思って、絶対にこの場所へ
戻って来てね。私はいつもこの庭であなたの
帰りを待っているからね!」
「解った。痛くて眠れなくて辛いけど絶対に負けないよ!」
「うん!」
そして4度目を終えまた5度目の手術。
彼女は元気で無事戻って来た。だがしばらくして、
彼女から悲痛のメール。
「きっともう私は死んじゃうんだよ」
そんな彼女からの絶叫の様なメールに
私は居た堪れなくなった。
「そっち行くわ待ってて!」
「ダメだよ。今日は独りでいたいの」
「大丈夫?」
「うん・・・だけどもうどうしていいか解んなくて、
何で私ばかりこんな目にあうんだろうって気持辛くなって
苦しくてもうこのままさっさと死んじゃいたいよ」
「眠れない?」
「うん」
「じゃこのまま朝までずっと付き合ってるから
メールでいいから話そうよ!」
「うん」
そう言って私は朝まで彼女を出来るだけ励ました。
そして新しい朝を迎えて彼女からのメール。
「もう大丈夫!負けない人生が私の人生だから、
私には耐える強さしかないからね!
病気になって何より忍耐だけは人
一倍養えた気がするもん。もうこれからの
人生どんな苦難が起こっても闘病の事考えると
なんでもない気がして来た!」
「そっかぁ元気そうで良かったよ!
そうだよっ気軽に考えよう!」
「気軽に?」
「そうだよ~。生きるか死ぬかなんて誰だって
毎日解らないでいるんだし、元気な私だって
突然どうなっちゃうかなんて解んないそれが
人生だから、今を明るく乗り切らない?」
「そうだねぇ」
私にはこの時、これが彼女に掛けれる精一杯の
言葉だった。そしてあれから数年の月日が流れた。
彼女は庭のミニバラを見て私に言った。
「もうこんなに大きくなったね!どんどん大きく
なるミニバラの生命力を見ていると、私の病気がど
んどん小さくなってく気がするよ」
「そうだねぇ」
「ねぇ、私には解るよ。きゆちゃんが
何故この花を選んでくれたのか」
「うん」
「ミニバラは入院して私がいない間も、例えず
っと水を殆ど与えられなくても、自然の雨で
こんなに元気に育ってるんだよね
きゆちゃんは私にミニバラの様に強く気高く
生きる様にって教えてくれたんだよねぇ」
私ははにかみながら。
「そっかなぁ?多分(笑)」
と答えた。そして元気になった彼女が私の庭へ
と届けてくれたものそれは、太陽の様に明るい
色したオレンジ色のミニバラ。
「きゆちゃんにはこれが似合うよ。
きゆちゃんの頑張りにも勇気を!」
もう随分大きくなったオレンジ色のミニバラは、
一昨年もそして去年も美しい花をたくさん
咲かせ私を楽しませてくれてる。
そして今年も蕾がたくさん育ち始めた。
もう少し暖かくなるとオレンジ色の
花が咲くんだね。私はその様子を想像し
ながら今日も庭のミニバラに水を与えた。
これからどうなるか解らない。だけれど
考えたってしょうがない。二人でそう結論
付けた時、彼女と私の間には涙ではなく気
が付けば笑顔だけが溢れていた。
私が彼女から貰ったものそれは、屈しない、
負けない根性、そして立ち向かう勇気!
きっと彼女がもう死んじゃいたいって言った
あの頃、支えたのは私じゃなく支えてくれたのは
彼女の方だったのかなぁと・・・そう思った。
体重だって100kg以上、最高血圧だって
200近くて、脳検査ですでに数か所白くなって
いて脳梗塞予備軍だと言われて、それでも根性なくて
何やってもダメだった私が今、別人の様に強くなれた
のは、彼女からほんの少し勇気を分け与えて貰えた
からなのかも。
そして私が彼女に分け与えたものはただ陽気に
太陽みたいに明るい気持ち!それくらいしかな
かったけれど彼女の闇に少し日差しを与えて
あげられてよかった。
ミニバラだって程よい日差しと、そして渇きに
屈しない根性がなくちゃ潤えないからね!
私達は互いに今も互いを潤しながら生きている。
彼女が言った。
「今が一番、私達人としても女としても輝いてるよね!」
そして私は笑顔で答えた。
「そうだね~!」
私の名前を与えられた淡いピンクのミニバラは
彼女の家の庭で今も咲き続け、そして彼女の
名前のオレンジ色のミニバラは私の家の庭に
毎年咲き続けている。私達はそうやって互いの
庭で互いの事をいつも見守っているんだねぇ!
ずっとこれからも。