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第二ラウンド

 悪魔の使役する魔獣の猛攻により、ヤマトの障壁が崩れ、魔獣が一斉に雪崩れ込んで来る。

「第二ラウンド開始だ!」

 ファミアは魔獣と真っ向から戦うほどの腕はなかった。なので、とにかく走った。ヤマトの援護を受けられるように、魔術の射程圏内、すなわちヤマトと悪魔の戦場の周りを駆け回った。

(思っていたより引き付けられなかったな。これじゃヤマトの援護も期待できないかも)

 ヤマトの戦闘をチラリと見ていると、デザートバードの突撃が来る。それを剣で受けようとしたが、速度は力だった。ファミアは想定以上に衝撃をもらった。

(余所見も許されないか…このままじゃジリ貧だ。体力の限界はこっちが先に来る。だったら!)

 ファミアは真上に跳び上がり、その間に下に来ていたサンドウルフの背に飛び乗った。ファミアの突然の行動に、魔獣たちは動きを止めた。

「璽贐癭璢兤轟燦韉鬣…」

 ファミアは炎纏を詠唱して剣にまとった。

 一瞬の間を置いて下のサンドウルフが暴れ出し、デザートバードが突撃してくる。ファミアはサンドウルフから飛び下りて攻撃をかわし、目の前の虎型魔獣に、剣をその胴に押し当てて滑らせ、炎上させる。直ぐに後ろを振り向き、突撃で勢い余って体勢を崩したデザートバードに、左下から右上にかけてダイナミックに斬った。

「両断」

 デザートバードを斬ったその技は、真っ二つにすることに特化した、炎舞に含まれる技であった。

 しかし、息つく間も与えず、サンドウルフが八方を取り囲み、同時に鉤爪の引っ掻く攻撃を放つ。

「旋嵐」

 ファミアはその場で二回転し、炎が綺麗な円の残像を描いてウルフを穿った。旋嵐は遠心力によって二回転目で威力を高める、範囲、威力ともに優れた、炎舞の技であった。使えば砂ぼこりが舞い上がるほどの風が起きることから、嵐という名前がついている。

「あー服汚れちゃった。服汚さない舞いとか不可能なんじゃない?」

 炎妖族は真っ白な格好が特徴である。炎妖族が遠ざけられる原因の一つでもあったが、それにはちゃんとした意味があった。

 ―ほこり一つつかない炎舞をする―

 白い服は汚れが目立つ。ゆえに、白い服は、一流の美しい舞いをしなければならないという、自己への戒めであるのだ。

 その境地まではたどり着けていないファミアであったが、白の服に目立った汚れはなかった。そこからファミアの強さがうかがえる。

 そうこうしていると、ウルフや虎がよろよろと起き上がってきた。

「うーん、やっぱ立ち上がってくるか。まあ、炎舞は攻撃力が高い訳じゃないからね。パワータイプは苦手だけど、時間稼ぎという目的は果たせそうかな?」

 その後もファミアは、自身の真っ白な格好と剣に纏った炎によって生まれる、美しい紅白の舞いを続け、魔獣の群れの足止めをした。

 

「第二ラウンド開始だ!」

 そう叫ぶと、ヤマトが炎の竜巻を起こして自身を取り巻いた。障壁が崩れる前に詠唱していたのである。

 障壁が崩れて、その勢いのままヤマトに向かって一直線だった魔獣たちは、途中で速度を緩めることもできず、竜巻の直撃を食らう。自ら炎に突っ込んで行く様子は、まさに「飛んで火に入る」であった。

 魔獣は炎の竜巻に阻まれていたので、ヤマトは何かに邪魔されることもなく、「この手袋いいな」とか言いつつゆっくりと悪魔に歩み寄っていく。

「奇妙な魔術ですね。その複雑さからして中位魔術でしょうか。」

「火球だけど?」

 悪魔とその周辺の魔獣さえも、戸惑い過ぎて思考が停止し、一瞬制止する。まるで「…」という記号が具現化したような間が生じた。その空間を、無神経にも炎の竜巻を纏ったヤマトだけがトコトコと歩いていく。

 ヤマトが詠唱し始めたことで、悪魔は我に返り、止まった時間が動き出した。

「いや、あり得ないですよ?下位魔術だけでそんな芸当はできません。というか火球の原型も無いじゃないですか。そんなことしようと思ったら100年かかるか200年かかるか…いずれにしろ人間では…」

「いいから来い!」

 うだうだと言っている悪魔にしびれを切らして、パンッと手を叩いて叫んだ。悪魔を「はぁ」と深くため息をつき、考えてもしょうがないと思ったのか、姿勢を正してヤマトに向き直った。

「いいでしょう。お前たち、いつまでたじろいでいるのですか。早く行きなさい。」

 3体のデザートバードが、ハッというような反応をして我に返り、風魔術「強風」を使用して高速でヤマトに突進していく。

 ヤマトはすでに火球の再詠唱を終わらせていた。再び炎の竜巻が現れ、デザートバードを迎撃した。炎の猛威に晒され、デザートバードは黒焦げになって気絶してしまった。

 が、悪魔はそれも折り込み済みであった。デザートバードが稼いだ一瞬を利用して、詠唱を完了させていた。

「大地脈動!」

 悪魔が地面に手をついて叫んだ。それは中位土魔術「大地脈動」であった。「大地脈動」は地面を通して、土の形状を自由自在に操る魔術で、場合によっては数百メートル先でも、標的が土の近くに入る限りは容易に仕留められるという凶悪極まりない魔術であった。

 地面が脈打ち、形状を攻撃的な刺の形に変化させ

、初めは1本、次は2本と徐々に刺の数を増やしていき、ヤマトに襲いかかる。ヤマトは障壁の詠唱が間に合わなかったため、生身でかわしていくよりなかった。しかしながら、涼しい顔で避けている。

 だが、数を増やし、より鋭利になっていく刺をかわしきれず、頬に、肩に、足に、腕に、傷を増やしていく。動きが鈍ることこそ無かったが、これ以上傷を負っては危険であった。

 ヤマトは土の刺をかわしつつ、状況を打開するために詠唱していた魔術を完成させた。

「沼化」

 そう呟いて、ヤマトは刺の一番鋭い部分を手袋越しに手で受けた。刺はヤマトの手を貫…くことはなかった。その場で泥と化し、ヤマトに傷一つつけることさえ叶わなかったのである。そのまま迫り来る刺を一つ一つ手で触って溶かしていく。

「はははははははははは!危なかった!すごいなお前!ここまで土を自在に操れるなんてな!まるで土が生きてるみたいだ!いくつか魔術用語を継ぎ足しているのか。少なくとも今の俺では再現出来ないだろうな!」

「な、なんです?沼化?沼化と言いましたか?泥だまりをつくるだけの下位も下位の土魔術だったはずでは?」

 大地脈動は激しさを増していくが、ヤマトは、かわして溶かしてかわして溶かしてを繰り返し、悪魔に迫っていく。悪魔は、間合いを詰められ、攻撃に一瞬の迷いが生じた。

「ここっ!」

 ヤマトが火球を放ち、土の刺の間を縫って悪魔のもとにたどり着く。

「くっ」

 悪魔は小さく呻き、大地脈動でギリギリでうける。しかし、火球は着弾と同時に爆発し、大地脈動を貫通して悪魔にダメージを与えた。

「いつの間に爆炎火球の詠唱を…」

「火球だけど?」

「だからそれ何なんですか!?」

 普通であれば、土の壁を突き抜けるほどの威力が出る魔術は、火魔術では爆炎火球以上しかあり得ない。普通であれば。

 火球のダメージを負ったことで、大地脈動が中断され、ヤマトも深追いしたかったので戦闘は一時中断となった。ファミアの戦闘も、魔獣が大人しくなったため、ファミアとヤマトは合流した。

(何なんですかこの童は!?このままでは負けてしまいます。仕方ありません、あれを切りますか。では時間稼ぎと洒落こみましょう)

 夜はまだまだ終わらない。

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