推しの笑顔を引き出す方法 その②
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
「笑わせることができたら、俺のお願いを一つ聞いてもらう」「できなかったら、お前が俺の命令を一つ聞く」
そんな、妙な賭け が成立してしまった。
(まさか、こんなことになるとは……)
レオナルトは「ふっ」と鼻を鳴らし、こちらを見ている。
「それで、どうする?」
「どうするって……」
どうしよう。どうやったら、この冷徹な武人を笑わせられるんだ……!? そもそも、彼の笑いのツボはどこにあるのか。どんなユーモアなら、クールな公爵を「クスリ」とさせられるのか。
──わからない。
(どう考えても、俺の負けじゃないか!?)
「まさか、もう諦めたのか?」
レオナルトが薄く笑う。「ふっ」 という小さな笑い声が漏れた。
(お、おおお!? ちょっと笑った!?)
「……えっ、今、笑いましたよね?」
「いや?」
「いや、いや、絶対笑いましたって! これ、俺の勝ちですよね!?」
「……これで勝ちを認めろと?」
レオナルトは呆れたようにため息をついた。
「今のは、笑ったうちには入らん」
(いや、どう考えても笑ってたけど!?)
シリルは思わず抗議しそうになったが、ここで騒いでも仕方ない。本当の「笑顔」を引き出さなければ意味がない。
(……くそっ、やるしかない!)
シリル vs. レオナルト公爵 「笑わせ対決」、開幕──!!
【第一ラウンド:小ネタ攻撃】
シリルは、とりあえず軽めのネタから試すことにした。
「閣下、『面白い話をしろ』と言われて、すぐにできる人間ってそうそういないんですよ?」
「そうなのか?」
「そうですよ。だから、まずは簡単な小ネタから……」
シリルは手近にあったペンを取り、指の間でクルクル回す。
「ペン回しできます?」
「……できん」
「じゃあ、やってみてください」
レオナルトは無言でペンを受け取り、真剣な顔で試す。しかし、カラン。数秒でペンが床に落ちた。
「……」
「……」
(……今、ちょっと悔しそうな顔した!?)
「くっ……! もう一度!」
「やるんかい!!」
結局、レオナルトは三回連続でペンを落とした。
「これ……なぜできん?」
「そんな真顔で聞かれても!」
「貴様、なぜこれを回せる?」
「いや、普通に練習すればできますよ!? 軍の訓練のほうがよっぽど難しいじゃないですか!!」
「軍の訓練とこれに、何の関係がある?」
レオナルトはペンを睨みつけたまま動かない。
(いや、そんな敵を見る目でペンを睨むなよ……!)
──しかし、このやりとりでも、レオナルトは笑わなかった。
(くそっ……! まだ足りないか!)
【第二ラウンド:ことわざの言い間違い攻撃】
「では、次の作戦に行きます!」
「まだやるのか」
「当然です!」
シリルは堂々と胸を張る。
「人は、意外な言い間違いを聞くと笑ってしまうものです」
「……ほう?」
「たとえば……そうですね……」
シリルは適当なことわざを考えた。
「閣下、ご存じですか? 『鬼に金棒』 ということわざを」
「ああ」
「では、『鬼にカステラ』というのは?」
「……」
レオナルトが一瞬、無言になった。
(……お?)
「……鬼に、カステラ?」
「そうです。強い鬼に、ふわふわのカステラです」
「……ふむ」
レオナルトは腕を組み、真剣な顔で考え込んだ。
「確かに、鬼のような存在に、柔らかく甘いものが加わると……」
「えっ、ちょっと待って、真面目に考えないでください!?」
「いや、これは興味深い比喩だ。鬼は強さの象徴だが、柔らかいものを得ることで……」
「閣下!! これはただの言い間違いです!!」
「……そうなのか?」
レオナルトは少し残念そうな顔をした。
(いや、なんで残念そうなんだよ!?)
「戦鬼と呼ばれる俺に、忠実な側近は金棒だった。だが、最近のお前はふわふわしていて、俺に休めだの食事を取れだのよく眠れだの甘いことばかり言っている……」
「いやいや……この言い間違いはナンセンスなところが面白いのであってですね……」
と俺は手を振るのだが、レオナルトは自分の考察に目を細めた。
「お前は、カステラみたいなやつだな。お前は、ふわふわで甘いカステラ野郎だ……」
(いや、ちょっと! ちょっと今、顔緩んでましたよね!?)
「……ふっ」
「えっ!? 今、ちょっと笑いました!?」
「いや?」
「いやいやいや、閣下、ちょっと今、唇が動きましたよね!? 絶対ちょっと笑いましたよね!?」
「知らんな」
(また誤魔化したなこの男……!!)
【最終ラウンド:思わぬ伏兵】
どんなネタを仕掛けても、レオナルトは「ほぼ無表情」だった。
(やばい……! このままでは俺の負けに……!?)
そう焦っていたとき。突然、部屋の外から「にゃーん」という鳴き声がした。
「……猫?」
シリルが振り向くと、書斎の扉が少し開いていて、そこから黒猫がひょっこり顔を出していた。
「……あれ?」
(この城に、猫なんていたっけ?)
黒猫は、のそのそと部屋に入り、レオナルトの足元へ近づくと──よじよじよじ……。
「……」
「……」
「……おい」
「……え?」
レオナルトの足によじ登り始めた。
(ま、待って!? なんでいきなり!?)
シリルが戸惑っている間にも、黒猫は小さな爪を引っ掛けながら、器用にレオナルトのズボンをよじ登っていく。
そして、ポスッ。
「……」
「……」
レオナルトの膝の上に収まった。そして、そのまま「にゃあ」と小さく鳴く。
「……っ」
レオナルトの顔が、僅かに崩れた。
(……え!?)
「……ふっ」
小さな、しかし確かに聞こえた微かな笑い声。
「……閣下?」
レオナルトは猫の頭を指で軽く撫でながら、小さく笑った。
「……こいつ、なんだ?」
(つ、ついに……ついに笑ったああああ!!)
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