推しの笑顔を引き出す方法
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
シリル(転生主人公)が転生してしばらく経ったころ。レオナルトの側近としての業務にも慣れ、彼の傍にいることが当たり前になりつつあった。
しかし、ずっと気になっていることがある。それは、レオナルト公爵が一度も「まともな笑顔」を見せたことがない ということだ。戦場で敵を追い詰めるとき、嘲笑のような冷たい笑みを浮かべることはある。部下に命令を下すときも、皮肉げに口元を歪めることはある。だが、心の底から楽しそうに笑っている姿を、シリルは一度も見たことがなかった。
(……原作でも、そんな描写はなかったな。)
原作小説の中で、レオナルトは常に「冷酷な将軍」として描かれていた。感情を押し殺し、ただ合理的に戦いを進める男。
(でも、それって本当の「レオナルト公爵自身の姿」だったのか?)
彼が笑ったことがないのではなく、「笑う自由」を知らなかっただけなのでは?そもそも、彼は「楽しい」とか「嬉しい」という感情を抱いてもいい、表現してもいい、ということを自分に許せる機会があったのだろうか?
シリルは、ふと考える。
「閣下って、いつもそんな仏頂面ですよね」
レオナルトの書斎で、資料を整理しながらシリルはぼやいた。レオナルトはちらりとこちらを見る。
「……仏頂面?」
「たまには笑ったらどうです?」
「俺が笑って何になる」
レオナルトは眉をひそめ、書類に視線を戻した。
「別に、笑わなければいけない理由などないだろう」
「それはそうですけど……でも、ほら、楽しいこととか、嬉しいこととか、そういうときって自然に笑うものじゃないですか」
「楽しいこと、嬉しいこと……?」
レオナルトは怪訝そうな顔をした。シリルは思わず言葉を失った。
(えっ……この人、本気でわかってないのか……?)
いや、きっとわかるはずだ。子どものころは、無邪気に笑ったこともあっただろう。だが、戦場に立ち、剣を振るい、冷酷な将軍として生きるうちに、「笑う」という感情そのものをどこかに置き忘れてしまったのではないか。
ふと、シリルは「過去の自分」を思い出す。転生前の自分も、ずっと働き詰めだった。会社では評価されるために必死で、周囲の期待に応えようとし続けていた。気がつけば、心から笑うことなんてほとんどなかった。「楽しい」や「嬉しい」なんて気持ちを感じる余裕すらなくなっていた。そんな自分が、もし死なずにそのまま生き続けていたら? きっと、レオナルトと同じように、笑うことを忘れていたのではないか。
(……やっぱり、俺とこの人は似ているところがあるように思えてしまうんだよな)
シリルは心の中で小さくため息をついた。見た目は、こんなに美男子だけど、冷酷だと原作では言われていたけれど、それでも、原作を読みながら、自分と重ねてしまっていた。レオナルトに感情移入してしまっていた。
「……じゃあ、笑わせてみてください」
突然、レオナルトが言った。シリルは思わず目を瞬かせる。
「えっ?」
「お前がそこまで言うのなら、俺を笑わせてみろ」
レオナルトは、興味深そうにこちらを見つめている。
(え、えええ!? 無理だろ!?)
「そ、そんなの、簡単にできるわけないじゃないですか!」
「自分で言い出したのだろう」
「いや、でも俺、お笑い芸人じゃないんですよ!? 人を笑わせるのって、すごく難しいことなんですよ!?」
「ならば、なぜ『笑ったらどうです?』などと軽々しく言った?」
(ぐっ……!)
思わず言葉に詰まる。確かに、自分で言い出したことだ。でも、まさか本気で「笑わせろ」と言われるとは思っていなかった。
(くそっ、どうする……!? どうやったら、この人を笑わせられる!?)
ここで「無理です」と言うのは悔しい。だって、シリルは「レオナルトの新しい表情が見たい」と思ってしまったのだから。
何気ないことでいい。例えば、冗談にクスリと笑うとか、ほんの少し表情を緩めるとか。そういう「人間らしい笑顔」を、この男が見せる瞬間を見たい。
シリルはしばらく考え込んだあと、ぽつりと言った。
「……じゃあ、こうしましょう」
「何だ?」
「俺が、閣下を笑わせることができたら……そのときは、俺のお願いを一つ聞いてもらいます」
「……ほう?」
レオナルトは興味深そうに眉を上げた。
「だが、逆に笑わせることができなかったら、お前はどうする?」
「俺の負けってことで、閣下の命令を一つ聞きますよ」
「ほう……」
レオナルトは少し考え込んだあと、静かに口を開いた。
「いいだろう。受けてやる」
そうして、「レオナルト公爵を笑わせるための戦い」 が始まった。
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




