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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした  作者: リリーブルー


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推しの生活習慣を改善させる方法

2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

 レオナルト公爵の夜の鍛錬を止めた翌日。俺は早朝から書類整理をしていたが、どうにも気が散る。

 ——レオナルト公爵は、昨夜ちゃんと寝ただろうか?

(いや、きっとまた無茶をしているに違いない)

 そんな確信を抱きながら、俺は机に向かっていた。

「おい、シリル」

 いきなり声をかけられ、俺は反射的に背筋を伸ばした。

 ——レオナルト公爵だ。

昨夜、無理をさせないようにと声をかけたばかりの相手が、いつも通り冷然とした表情で俺の前に立っていた。

(……寝てない、な。)

 目の下に薄っすらと隈ができている。普段の彼は疲れを表に出さないが、こうして毎日間近で観察していれば、違いがわかる。

「……閣下、昨夜はちゃんとお休みになられましたか?」

 俺が探るように聞くと、レオナルトは一瞬だけ視線を逸らした。それが何よりの答えだった。そうやって、弱みを見せないようにしようとするのが習い性になっているのだろう。

(やっぱり、この人は「休むこと」が苦手なんだ。)

 彼は口を開く。

「貴様には関係ないことだ」

「関係ありますよ。閣下が倒れたら、剣の国はどうなります?」

 レオナルトは、俺の言葉を聞いても動じない。むしろ、「そんなことは考えるまでもない」とでも言うように、淡々と返してくる。

「俺の代わりはいくらでもいる。国が困ることはない」

(それ、完全に俺が転生前に思ってたことじゃないか……!)

「いや、困ります」

 俺はきっぱりと言った。

「閣下は『代わりはいくらでもいる』と仰いますが、実際、同じことができる人はいません。閣下は、唯一無二の存在です」

「……」

「それに、閣下が健康でなければ、戦も指揮できないでしょう? それとも、満足に眠れない状態で戦うおつもりですか?」

 レオナルトは、一瞬だけ沈黙する。それから、静かに口を開いた。

「俺のことをそこまで気にする必要はない」

 ——つまり、「俺のことはどうでもいい」と言いたいのだろう。

(……いや、どうでもいいわけがないだろ。)

 原作では、この人は 最後まで誰にも頼らず、無茶をし続けて死んだ。誰にも労られることなく、「冷酷な戦鬼」のまま終わった。

 でも、俺はそれを見て、「そんなの報われなさすぎる」と思った。

(この人が、自分を大事にできるようになるまで、俺は何度でも言うぞ……!)

「それなら、こうしましょう」

 俺は、一枚の紙を差し出した。

「これは?」

「『レオナルト公爵の健康管理計画』です」

「……何?」

 レオナルトは訝しげに紙を受け取ると、そこに書かれた内容に目を走らせた。


 夜の鍛錬は週3回まで。

 食事は1日3回、必ず摂ること。

 最低6時間の睡眠を確保する。

 ストレス軽減のため、短時間でも気晴らしの時間を作ること。


 レオナルトの眉がわずかに動いた。

「……ふざけているのか?」

「真剣です」

 俺はきっぱりと言い切った。

「閣下は今までずっと、ご自身を『戦う駒』として扱ってきました。でも、人は駒ではありません。機械ですら、ちゃんと整備しなければ、いずれ動かなくなるんですよ」

「……」

 レオナルトは無言で紙を見つめる。おそらく、こんな風に「自分を大事にしろ」と言われたことがなかったのだろう。誰も、彼にそんなことを言わなかった。彼自身も、そんなことを考えたことがなかった。だからこそ、俺が言うしかない。

「……食事と睡眠くらいは、今までだって、とっている」

「嘘ですね」

 俺は即答した。

「閣下、最近、ゆっくりと時間をかけて食事を取ったのはいつです?」

「……」

「最近の記録を見ると、閣下が時間をかけて食事をするのは昼だけ。それも、会議をしながら軽く口にする程度。戦場ではそれでも問題ないでしょうが、今は違います」

 レオナルトは、静かに俺を見つめた。——まるで、「お前はなぜそんなことを気にするのか?」と問うように。

「閣下、ご自身が考えているより、ずっと無茶をしていますよ」

 俺は言った。

「戦場で生き抜くために鍛えるのは大切です。危険の中で生きのびるためには、厳しい考えも必要でしょう。でも、閣下が強くあるために最も重要なのは、健康な体と鋭い判断力です」

 レオナルトは目を細めた。そして、静かに紙を折りたたむ。

「……お前は、俺に何を求めている?」

「求めている?」

「誰も言わなかったことを言い、誰も気にしなかったことを気にする。お前は、何のためにそんなことをする?」

(……うっ。)

 確かに、そう聞かれると答えに詰まる。俺がこんなにも彼の健康を気にするのは、「レオナルト公爵を救いたい」と思っているからだ。でも、それだけじゃない。

「俺は……」

 俺は口を開きかけて、言葉を飲み込む。

「……ただ、閣下には無理をしてほしくないだけです」

 レオナルトは、その言葉を聞いて、ゆっくりと息を吐いた。

「……勝手にしろ」

 そして、俺の健康管理計画の紙を懐にしまうと、そのまま部屋を出ていった。

(お? くだらないと言って引き破りもせず、紙を持ち帰るとは、もしかして、少しは受け入れてくれたのか……?)

 俺はそっと小さくガッツポーズの拳を握る。——ほんの少しだが、彼の「無理をする生き方」に一石を投じることができた気がする。この調子で、少しずつ、彼に「自分を大事にすること」を覚えさせていこう。——俺が転生前に自分に対してできなかったことを、この世界で、推しに対してやるんだ。

(次回、「レオナルト公爵の食生活を改善させる方法」へ続く)

2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

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