公爵閣下、少しは休んでください
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
夜の訓練場は静まり返っていた。俺は、暗闇の中で煌々と燃える松明の灯りを頼りに、訓練場の奥へ足を踏み入れる。
——そこにいたのは、レオナルト公爵。
彼は、騎士たちが寝静まった後も、剣を振り続けていた。
「閣下、こんな時間まで鍛錬を?」
俺の声に、レオナルトは振り向きもしなかった。
「……邪魔をするな」
剣を振る動きは、まるで機械のように正確で、無駄がない。汗で濡れた髪が額に張り付いている。息遣いは乱れていない。——だが、俺にはわかった。
この人は、無理をしている。何かにとりつかれたように、必死で剣をふるっている。苦しそうな表情。なぜそこまでして……。
「閣下、少しは休んだほうがいいかと」
「……俺がいつ休もうが、貴様には関係ない」
冷たい声音に、一瞬ひるみそうになった。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。俺は意を決して、彼の前に歩み出た。
「では、こう言い方を変えましょう。今の閣下の状態では、戦場で最高の力を発揮できません」
レオナルトの手が止まる。俺は続ける。
「睡眠不足では、反応速度が落ちる。疲労が蓄積すれば、判断力も鈍る。長年鍛え上げた体とはいえ、限界を超えて無理をすれば、いずれ必ず崩れる時がきます」
「……」
レオナルトは無言で俺を見た。彼の瞳は紫水晶のように冷たく、どこまでも静かだった。——まるで、自分の体などどうなってもいいと言わんばかりに。俺は、彼が何を考えているのか、少しだけわかる気がした。
(この人は、「休むこと」を許されてこなかったんだ)
彼は分家の三男として生まれ、結婚も許されず、ただ「戦場で死ぬための駒」として育てられた。「戦い続けること」こそが、彼の唯一の存在意義だった。だから、休むことが怖いのだ。休めば、自分の存在価値がなくなってしまうような気がするから。
(俺と同じだ……)
転生前の俺も、そうだった。仕事を詰め込みすぎて、自分を追い込みすぎて、でも、それをやめるのが怖かった。
だって、「頑張らない自分」には、何の価値もないような気がしたから。だから、今のレオナルトを見ていると、胸が痛くなる。
——この人を、原作通りに死なせるわけにはいかない。
俺は、彼の目を真っ直ぐに見つめた。
「閣下、俺は貴方の剣にはなれませんし、貴方の盾にもなれません。でも、貴方が無茶をしている時に、それを止めることはできます」
「……」
「誰も止めないなら、俺が止めます。貴方が、無理をして潰れる前に」
沈黙。レオナルトは、俺をじっと見つめていた。その瞳の奥には、何か言いたげな感情があった。だが、彼は何も言わず、ゆっくりと剣を下ろし、おもむろに鞘に納めた。
「……勝手にしろ」
短くそう言い捨てると、彼は踵を返して訓練場を後にした。
俺は、彼の背中を見送りながら、拳を握った。
(今のは、俺を認めたってことでいいのか……?)
それは、ほんの少しだけ、レオナルト公爵の「信頼」を得られた気がした瞬間だった。
(この人の本当の姿を知るのは、きっと俺しかいない)
——だからこそ、俺が彼を救う。
彼が「戦場で死ぬこと」以外の生き方を見つけられるように。俺の戦いは、ここから始まる。
(次回、「推しの生活習慣を改善させる方法」へ続く)
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




