推しの信頼を得るためには?
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https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
レオナルト公爵の側近として転生した俺は、今この世界の政治状況と、俺の立場を整理しようとしていた。
剣の国(レオナルトの国)と魔法の国(敵国)は長年対立している。 理由はいくつもあるが、簡単に言えば「剣の国は魔法資源を求め、魔法の国は剣の国の武器技術を求めている」。本来なら交易で解決できるはずだが、技術と資源の性質上、簡単に手を結ぶわけにはいかない。
……それどころか、一部の貴族たちは戦争が続いたほうが儲かると考えている。
「戦争を終わらせようとする動き=邪魔者」とみなされる可能性すらある。
俺が転生前に読んでいた小説では、レオナルト公爵は戦争を続けるための駒として利用され、最後には処刑される運命だった。そして、その戦争を終わらせたのが、敵国の「原作主人公」だったはず。
(……もし、俺が原作主人公のように戦争を終わらせることができたら?)
でも、それにはまず「推しの信頼」を得る必要がある。
今の俺は、ただの側近にすぎない。レオナルトにとっては、使えなければ切り捨てる駒のひとつでしかない。
(俺の力を示して、公爵の「特別な側近」にならなければ)
レオナルト公爵は今、敵国との戦争の準備を進めている最中だった。
会議で提示された戦略案は、軍の一部を敵国側の森に潜伏させ、奇襲をかけるというもの。敵国は魔法を得意とするが、直接的な戦闘力は剣の国に劣る。奇襲が成功すれば、戦争は有利に進むはず……というのが、軍部の結論だった。
だが——
「この作戦では、我が軍が全滅する可能性があります」
会議の場で、俺ははっきりと口を開いた。
重苦しい空気が流れる。レオナルト公爵がいる前で、軍部の案を否定するなど、通常の側近ならありえない。
レオナルトは、冷たい紫の瞳を俺に向けた。
「理由を言え」
「敵国は確かに魔法戦闘の技術に長けてはいません。しかし、魔法は単なる戦闘用のものだけではない。彼らは監視魔法や索敵魔法に秀でています」
俺の言葉に、会議室の面々がざわつく。「さくてき」とは、敵が どこに居るか捜し、位置や兵力を調べることだ。
「……索敵魔法?」
「森に潜伏しても、見破られてしまい、奇襲を仕掛けられない、ということか?」
「しかし……少数の貴族しか魔法を使えないのでは?」
「それが落とし穴です」
俺は机の上に地図を広げ、敵国の魔法について説明した。
「確かに、戦闘魔法は限られた貴族しか使えません。しかし、索敵や結界魔法は別です。魔法の国では、庶民でも簡単な魔法陣を扱えます。つまり、彼らの国の至るところには、索敵用の魔法が仕掛けられている」
「……!」
軍部の将校たちが息をのむ。
「我々の軍が森に潜伏しても、すぐに魔法で察知され、逆に包囲される可能性が高い。もし敵が先に罠を張っていた場合、森に潜んだ部隊はひとたまりもありません」
そして、この情報は——転生前の俺が原作小説で読んだ情報だった。
(この作戦、原作でも提案されてた。でも、結果は——奇襲を仕掛けたはずの剣の国が、返り討ちに遭って壊滅。レオナルト公爵が戦場で孤立し、戦況が悪化するきっかけになった)
それを、俺は転生者の知識を使って阻止しようとしていた。
レオナルトの紫色の瞳が、俺をじっと見つめていた。
「……なるほど。確かに、この作戦は危険かもしれない」
「閣下」
俺はすかさず言葉を続ける。
「もし潜伏作戦を行うなら、魔法陣の位置を把握し、無力化する手段が必要です。あるいは、別の方法で敵を誘導し、奇襲とは別の形で有利な状況を作るべきかと」
沈黙が落ちる。軍部の将校たちは俺を値踏みするように見ていた。
だが——
「……貴様、名前を言え」
レオナルト公爵が、静かに問いかけた。
「……シリル・フォードでございます」
すると、公爵は——
「いいだろう、シリル・フォード。貴様の意見を採用する」
ざわめく会議室。
「だが、この作戦の再考は貴様に任せる」
「——え?」
「口を出すなら、責任を持て」
レオナルトの鋭い瞳が、俺を射抜く。
「それができぬのなら、次に余計な口を開いたときに貴様の首はないと思え」
(……この人、やっぱり怖い!)
俺は冷や汗をかきつつも、頭を下げるしかなかった。
(でも……作戦を阻止できた。これは、大きな一歩だ)
こうして、俺はレオナルト公爵に「ただの側近」ではなく、「戦略参謀」として認められることになった——。
軍議の後、俺は重いため息をついた。
——転生前の知識を使って、レオナルト公爵に「ただの側近ではない」と認識させることはできた。だが、それは「使える駒」としての評価にすぎない。
レオナルト公爵の信頼を得るためには、もっと「俺だからこそ役に立つ」と思わせる必要がある。
俺の目標は、彼が原作通りに死ぬ運命を変えること。そのためには、彼に「本当に信頼できる唯一の側近」として認識されなければならない。
(……とはいえ、どうやって?)
俺は剣の国の軍事施設の一角にある自室へ戻る途中、ふと廊下の角で小声の会話を耳にした。
「おい、聞いたか? 公爵閣下、また昨晩、夜通し剣を振っていたらしい」
「またか……あの人、本当に眠らないな」
「そりゃ、あの戦鬼様だぞ? 化け物みたいな体力してるからな」
「でも、さすがにあの歳で無茶しすぎじゃねえか?」
「何言ってんだ。俺たちとは鍛え方が違うんだよ」
(……また、か。)
俺は眉をひそめる。
レオナルト公爵は、戦場での強さを保つために、異常なまでに鍛錬を続けている。しかも、誰にも頼らず、一人で。
原作でも、「公爵は無理をしすぎているのでは?」という兵士の声はあった。だが、それはすぐに打ち消されていた。
「冷酷な戦鬼なのだから、それくらい当然」
「誰も彼を止められない」
「彼自身が、無理をしないといけないと思っている」
(……これって、まるで転生前の俺みたいだな)
俺も、「評価されるため」に働き続けていた。会社のため? 同僚のため? いや、それは建前だ。
本当は——「認められたい」ただ、それだけのために無理をしてしまっていた。
でも、その結果が「過労死」だったのだ。
「レオナルト公爵も、このままでは——」
気づけば俺は、彼の元へ向かっていた。
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