鉄の檻を壊す手(ラセル視点)(レオナルト視点)
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
「……まったく、どれだけ派手に結界を壊してるんだよ、君は。ソフィスティケートという概念がないのかな」
魔力封印塔の結界が“破魔具”で歪められていくのを、ラセルは唖然としながら見ていた。
白い息を吐きながら、塔の縁に立つ青年は――目をぎらつかせて、魔具の針を回していた。
「……こっちも命懸けなんだよ。文句言うなら手伝って」
「君が来るって、誰が予想する?」
「誰も予想してないから、うまくいくんだろ」
彼の名はシリル・フォード。異世界から来た“読者”。ラセルが、呼んでしまった男。
(まさか、俺のために、命懸けの潜入をするなんて――呼んだ俺が一番、予想していなかった)
結界の境界に触れる。“封魔式”が、もう崩壊寸前まで削られていた。
(あと数分で、俺は自由になる)
「……どうして、助けに来た?」
思わず、そう訊いた。
「君は……俺を嫌ってるだろ? 君の“推し”を騙して、近づいて……ストーカーみたいなもんだった」
シリルは一瞬、目を伏せた。
「……たしかに、キモいと思ったよ」
グサッ。
「でも、それ以上に、あんたの顔が本気だった。あんな顔で、俺のこと庇われたら……“敵”だとか“あて馬”だとか、関係ない」
「……」
(あて馬って……。言ってくれるな)
デリカシーもないか。苦笑しながらも、今は、感謝だ。
「俺は、この物語を読んできた。読者だった。でも、今ここで動いてるのは“俺”だ。推しを救いたいのも、あんたを放っておけなかったのも、俺の感情だ」
ピシッ。
結界の最後の結合が、音を立てて割れた。
「ようこそ、外の世界へ。ラセル王太子」
「……敵を助ける、お人好しな君に感謝を」
「こういうのを、敵に塩を送るって言うんだよ、日本では」
ラセルは一歩、檻を出る。
(さあ、次は――あの人を取り戻す番だ)
◆
地下牢(レオナルト視点)
「……レオナルト・ヴァイス。剣の国に対する忠誠を疑われ、処刑対象として記録された」
冷たい声が響く。目の前にいるのは、かつての部下。戦場では背中を預け、苦楽を共にした男。
「……俺の忠誠を、誰が測れる?」
「王家です」
それが、この国の答えだった。目を閉じる。
(俺はもう、誰のために戦っていたのか、わからなくなった)
だが――
「レオナルト閣下、寝てる場合じゃない」
その瞬間、空気が変わった。何かが吹き飛ばされる音。結界の気配が断ち切られ、剣の音が、風を裂いた。
「……ラセル?」
目を開けた先には、金の髪と、笑う目。魔法の国の王太子――いや、俺の足元に転がっていた黒猫が、全身で盾になって立っていた。
「間に合った」
「……なぜ、来た」
「お人好しな“読者”が、俺を救出してくれたから。そして、“推し”を失いたくないのは俺だって同じからね」
「レオナルト、立てる?」
後ろから、聞き慣れた声。シリル。
「……お前たち、本気で国を敵に回す気か」
「今さらだろ」
「こっちなんか、最初から“敵国の王子”ですし」
「お前は黙ってろ」
剣を拾う。血が滲む手。でも、心は奇妙なほど静かだった。
「――行くぞ。ここからは、俺の剣が道を開く」
「じゃあ、俺が魔法で抑える」
「その隙に、俺が開錠魔具で扉を開ける。動きは任せて」
「……もうお前ら、すっかり戦場慣れしてるな」
「今さらだろ?」
三人が動いた。
地下牢の鉄扉を破り、兵の行動を読み、影に紛れ、城の裏門へ向かう。
敵は――味方だった者たち。けれど、それを斬らずに進むのが、レオナルトだった。
「殺さずに行く。それが俺の剣だ」
「……そのままでいてくれ」
ラセルの呟きに、レオナルトは小さく頷いた。
夜明け。裏門の結界を破り、三人は城を脱出した。背中を預け合って戦い抜いた夜だった。
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




