裏切りの剣と、血の夜明け
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
夜明け前の空気は、いつもより冷たかった。焼けた鉄の匂い――いや、違う。血の匂いだ。
空に黒煙が立ちのぼる。城門の周囲で、兵の怒号と剣戟のぶつかる音が響いていた。
「……もう始まったんだな」
俺は、遠くからその音を聞いていた。
塔の上、ラセルが封じられている部屋のそばで、気配を消していた。
レオナルトの部屋には、もう兵の影があった。
昨日の謁見から、ほんの数時間。レオナルトが「剣を置く」と言った時点で、王家は、次の“駒”を立てる準備をしていたのだ。
『“英雄”など、いつでも替えがきく』
『自分の私的な感情に従った者など、王家には不要』
そんな声が、聞こえた気がした。
かつて、国を救い、城を守り、前線を血で染めながらも。“恋をした”という理由で、あの人は、切り捨てられた。
(……俺が、守る。今度は、俺の番だ)
心の中で、そう決めていた。
城の中には、すでに「粛清部隊」が展開されている。ラセルの封印塔にも、厳重な結界と兵の配置。そしてレオナルトは、内通者により――“密かに”拘束された。
俺に報せを持ってきたのは、王家の直属の間者――ナインと名乗る青年だった。
銀の仮面をつけた彼は、俺に告げた。
「閣下は、もう“表の舞台”には戻れません。我々が知っている“剣の人”は、今日、消されます」
「……お前、どういう立場なんだよ」
「それを知る必要はありません。ただ、あなたが“召喚された存在”であることは、我々も把握しています」
皮肉なことに――この国の“裏”にいる者ほど、真実を知っている。
「一度きりの選択です。レオナルト・ヴァイスを、助けるか。この国で、“物語の読者”として黙って生きるか」
選ぶまでもなかった。
「……助ける。絶対に、あの人を取り戻す」
「そうですか。では――計画を」
◆
同時刻。レオナルトは、独り牢の中で、思いをめぐらせていた……。
狭い石の牢。手足を拘束され、視界は暗い。
“粛清”――王家が使う、その言葉は、ただの処分を意味する。
かつての戦友が手にした剣。側近だった者が、俺の名を呼ばず、番号で命令する声。
(……やはり、俺は“駒”だったのか)
この国のために、家族のために。そう信じていたから、血を流すことに、疑問を持たなかった。
でも。
「恋をしただけ」で、今まで積み上げてきた業績すら全部、無価値になった。人間らしい感情を、取り戻しただけなのに。
(……バカな話だ)
思い出すのは――あの時、手に感じた、シリルの体温。耳を赤くして「撫でられたい」なんて言って、自分で言って照れてたあいつの顔。
(……シリル)
もう一度、あいつに触れたかった。ただ、名前を呼びたかった。
「……目を閉じて。今はまだ、見せられないから」
囁くような声が、闇の中に落ちた。
「……!」
薄く目を開けると、黒装束の人影――いや、違う。あの目は、シリルだ。
「どうして……!」
「言ったろ、俺は“お前を助けるために呼ばれた”んだって」
◆
一方、塔の上では……。
「結界の変動……?」
ラセルは静かに目を開けた。
外で何かが起きている。それも、大きな乱れ――まるで、誰かがこの塔を壊そうとしているような。
「……シリル」
声が漏れた瞬間、結界が“焼き切れる”音がした。
風を裂いて現れたのは、見慣れた姿。片手に破魔具、もう片方にはラセルの封印を解除する魔具。
「迎えに来たぜ、王子様」
シリルの声だった。
「……君って、ほんと、物語破壊者だよね」
二人は――再び、共に闘い始める。
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




