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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした  作者: リリーブルー


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黒猫は、甘くて、痛い。撫でていた猫が“宿敵、敵国の王太子”でした(レオナルト視点)

2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

 夜の執務室。誰もいない静かな部屋。

 デスクに座った俺は、思考を停止したまま、眉間を押さえていた。


 目の前には、一冊の報告書。

 魔法の国の王太子、ラセル・ヴィル。

 仮名“レセル・ノウル”として潜入、さらに――


 猫の姿に変化して、俺の足元にいた。


 そう。

 あの、毎晩のように足元にいた。

 あの、部屋に入ってきて、腹を見せてひっくり返っていた。


(……思い出すな)


 撫でていた。

 背中を、喉元を、耳の裏を。

 可愛く鳴いて、尻尾を絡ませて――


(よりによって“敵国の王太子”だったとは……)


 頭を抱えた。




 そこへ、扉がノックされた。

 開けたのは、シリル。


「……お疲れ」


「……ああ」


「なんか、顔赤いけど?」


「……気のせいだ」


「……いや、絶対気のせいじゃない」


 椅子に腰かけた俺を、じっと見てくる。

 その目がなんとなく笑ってる。


「レオナルト……お前、思い出してるだろ。猫のこと」


「……」


「膝の上に抱いて撫でてたんだもんな、あいつを。ラセルのことを。しかも腹とか、耳の裏とか」


 おぞましい事実をシリルが突き付ける。


「やめろ」


「“なあ、今日も撫でていいか?”とか言ってたよな」


「それ以上喋るな」


「“お前、ほんとに甘えん坊だな”って、真顔で言ってたよな」


「殺すぞ」


「っぷ……! で、でさ、いまどんな気持ち?」


 笑いをこらえて嬉しそうに言うシリル、どんだけドS。


「……死にたい」


 顔を手で覆った。

 いつも膝に抱きかかえて撫でながら、あんなやさしい声をかけていた自分が、情けない。



「でもなぁ、俺もちょっとわかる気がするんだ」


 シリルがぼそっと言う。


「だってさ……あんなふうに寄ってこられたら、撫でたくなるよ。すり寄って、喉鳴らして、膝に乗ってくるとか……ズルい」


「……」


「俺だって……猫みたいに撫でられたいし」


「……何?」


「……いや、なんでもない。忘れて」


 シリルがぷいと顔を背けた。

 耳まで赤い。


「言ったんだから、もう遅い」


「う、うるさい!」


「え? 何? もう一回言って? なんだっけ、猫みたいに……?」


「言うなあああああ!!」



 その時だった。

 ふいに、なんでもないみたいな顔で、シリルが言った。


「……ラセルのこと、好きだった?」


「いや、恋ではない」


「そっか」


 シリルは、ほっとしたような顔をして息を吐いた。


「……俺はあいつを敵だと思っていた。でも、心のどこかでは、あいつを“敵”じゃなくしたかったのかもしれない」


「……」


「敵じゃなかったら、あいつが王子じゃなかったら、ただの猫のままだったら――俺は……撫でたことに、こんなに罪悪感や恥ずかしい思いをしなくてすんだんだ……。そうだよな?」


 そして、ぽつりと呟いた。


「猫に対して……心が、動いた。でもそれを、“精神干渉”って言われたんだ。自分の感情を……魔法のせいだって」


 シリルが、黙ってこちらを見ていた。


 俺は、苦笑した。


「……また、俺は“感情”を捨てるべきなんだろうな」


「そんなこと、言うなよ」


 シリルが歩み寄ってきて、俺の手を掴む。


「お前が笑ったの、何回見たと思ってんだよ。泣いても、怒っても、撫でても、全部、ちゃんと“レオナルト”だったじゃないか」


「……」


「俺は、ちゃんとお前が“心で動いた”のを見てきたよ。魔法のせいじゃない。“お前”の感情だったよ」


 その言葉に、初めて、涙が出そうになった。


 でも、泣く前に――俺は、シリルの頬に触れた。


「……猫みたいに撫でられたいって言ったな」


「ま、待って!? それはその場のノリというか、例えというか――」


「もう一度言え」


「え、や、だから、俺は……その、俺だって、撫でられたいな、と……」


「ふ」


 小さく、笑ってしまった。


 頭に手を置く。


 髪を撫でる。ゆっくり、優しく、心を込めて。



 シリルが、目を閉じた。撫でられている時の、猫みたいに、気持ちよさそうに。


 頬が赤くて、でも、少し泣きそうな顔だった。


「……ありがとう」


 俺が愛していたはずの猫は、もういない。猫じゃなかった。幻だった。でも、俺には、まだ、こいつが、シリルがいる。シリルが、俺の側にいてくれる。


「俺は……お前がいてくれて、よかった」


 その夜、感じたぬくもりを、より大切に思ったのは、撫でられたいと言っていたシリルよりも、俺の方だったかもしれない。

2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

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