閣下、信じてはいけません
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
夜明け前――王城の空気が、妙にざわついていた。
廊下を歩く衛兵たちの足取りが、普段より硬い。壁際に立つ警備兵たちは、俺を見てすぐ目を逸らす。
異変は、すぐに起きた。
「……“貴族使節”の身元に偽装の疑いあり。魔法の国の王太子、ラセル・ヴィル=フェルカであると確定された」
謁見の間にて、王命により召集された軍上層部の報告。
レオナルトの隣に立っていた俺は、胸の中が、ズンと重くなった。
(……バレた)
そりゃ、あれだけ戦えば、隠しようがない。あの魔法は“王家直伝”のもの。しかも、魔力の波長は記録されている。
「閣下」
ひとりの将官が、声を上げた。
「これまで貴族使節として寛容に対応しておりましたが、王太子と知れた以上、外交儀礼は適用されません。ましてや、自国要人に接触し、“感情的な関係”まで築いていたとあっては――」
「……感情的?」
「はい。ラセルは、明らかに閣下に“特別な感情”を抱いていた。我々は、魔法による精神干渉の可能性も考慮すべきだと考えます」
「……」
レオナルトは、何も言わなかった。
ただ、拳を軽く握ったまま、じっと前を見ていた。
そこへ、衛兵に連れられたラセルが現れた。
白い制服に、両手を縛られ、顔を上げたまま――けれど、その瞳には、曇りはなかった。
「ごきげんよう、公爵閣下」
「……今、“閣下”などと俺に呼びかける資格があると思っているのか?」
「ないかもしれません。でも、最後に呼びたかったんです。“レオナルト閣下”と。俺が好きだった人の、名前を」
微笑むラセル。場にいた誰もが、その“余裕”にざわめいた。
「黙れ、貴様は敵国の王子だ」
「自白を強制するべきでは」
「危険すぎます! 今すぐ魔力封印術をかけるべきです!」
声が飛び交う中、レオナルトが口を開いた。
「――それを、俺の目の前でやるのか?」
空気が、凍る。
「今ここで、ラセルを捕らえ、辱め、力を奪うと?それがこの国のやり方か。相手が敵国の王子なら、どんな手段も許されると?」
「……閣下……!」
「黙れ。お前たちの言う正義は、“俺が守ってきた剣”の名に値しない」
俺は、隣で震えていた。あの冷静なレオナルトが、ここまで感情をあらわにしたのは、はじめてだったから。
将官たちが、押し黙った中、ひとりの影が進み出た。それは、国王直属の監察官――ハイル・グランデだった。
「……公爵閣下。あなたの忠義に疑問はありません。しかし、この件ばかりは“王命”です。あなたの意志で止められることではない」
「……王命、か」
「はい。そして、閣下ご自身にも“審問”が下される予定です」
「……つまり、俺をも“反逆者”として疑っているというわけだな」
皆が息を飲む。
「――ふざけるな」
低く絞ったレオナルトの声。
「剣の国のために、血を流し、名を汚し、影を背負ってきたこの俺を――今度は、“恋をしただけ”で処刑するというのか」
「……」
「ならば、俺はその剣を、今日この日限りで置くことにする」
その言葉に、場が凍りついた。
「閣下!!」
「レオナルト、待って――!」
俺が慌てて手を伸ばしたとき……ラセルが、静かに言った。
「……レオナルト、ダメだ」
「……?」
「あなたが、ここで剣を捨てたら、すべて終わってしまう。この国も、あなたの信念も、僕たちの未来も」
「……お前が言える立場か」
「言えるさ。あなたを裏切った僕だからこそ、“君の正しさ”を壊しちゃいけないと思うんだ」
ラセルは、微笑んだまま、縄で縛られた両手を差し出した。
「……捕らえろ。僕は王子であり、罪人だ」
「……!」
「でも、あなたは――正義の人でいてくれ、レオナルト」
レオナルトは、ラセルの目をじっと見て――その手を、震える手で握りしめた。
◆
そしてその夜――。
ラセルは、塔の上の魔力封鎖室に収監された。正式な裁判までは一切面会禁止。魔力も封じられ、結界で包まれている。
でも――俺は、知っている。
ラセルは、自分の意志で捕らえられたのだと。レオナルトを守るために。
そして、レオナルトは――。
執務室にひとり、剣を磨いていた。
何も尋ねず、何も語らず。けれど、その瞳の奥には、揺るぎない“火”が宿っていた。
(……動き出す。もうすぐ、何かが)
俺は、その背中を見つめながら、心の中で誓った。
「――絶対に、ラセルを見捨てさせない。だって、俺を召喚したのは、お前なんだから」
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




