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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした  作者: リリーブルー


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閣下、信じてはいけません

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https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

 夜明け前――王城の空気が、妙にざわついていた。


 廊下を歩く衛兵たちの足取りが、普段より硬い。壁際に立つ警備兵たちは、俺を見てすぐ目を逸らす。


 異変は、すぐに起きた。



「……“貴族使節”の身元に偽装の疑いあり。魔法の国の王太子、ラセル・ヴィル=フェルカであると確定された」


 謁見の間にて、王命により召集された軍上層部の報告。


 レオナルトの隣に立っていた俺は、胸の中が、ズンと重くなった。


(……バレた)


 そりゃ、あれだけ戦えば、隠しようがない。あの魔法は“王家直伝”のもの。しかも、魔力の波長は記録されている。



「閣下」


 ひとりの将官が、声を上げた。


「これまで貴族使節として寛容に対応しておりましたが、王太子と知れた以上、外交儀礼は適用されません。ましてや、自国要人に接触し、“感情的な関係”まで築いていたとあっては――」


「……感情的?」


「はい。ラセルは、明らかに閣下に“特別な感情”を抱いていた。我々は、魔法による精神干渉の可能性も考慮すべきだと考えます」


「……」


 レオナルトは、何も言わなかった。


 ただ、拳を軽く握ったまま、じっと前を見ていた。



 そこへ、衛兵に連れられたラセルが現れた。


 白い制服に、両手を縛られ、顔を上げたまま――けれど、その瞳には、曇りはなかった。



「ごきげんよう、公爵閣下」


「……今、“閣下”などと俺に呼びかける資格があると思っているのか?」


「ないかもしれません。でも、最後に呼びたかったんです。“レオナルト閣下”と。俺が好きだった人の、名前を」


 微笑むラセル。場にいた誰もが、その“余裕”にざわめいた。



「黙れ、貴様は敵国の王子だ」

「自白を強制するべきでは」

「危険すぎます! 今すぐ魔力封印術をかけるべきです!」


 声が飛び交う中、レオナルトが口を開いた。


「――それを、俺の目の前でやるのか?」


 空気が、凍る。


「今ここで、ラセルを捕らえ、辱め、力を奪うと?それがこの国のやり方か。相手が敵国の王子なら、どんな手段も許されると?」


「……閣下……!」


「黙れ。お前たちの言う正義は、“俺が守ってきた剣”の名に値しない」


 俺は、隣で震えていた。あの冷静なレオナルトが、ここまで感情をあらわにしたのは、はじめてだったから。


 将官たちが、押し黙った中、ひとりの影が進み出た。それは、国王直属の監察官――ハイル・グランデだった。


「……公爵閣下。あなたの忠義に疑問はありません。しかし、この件ばかりは“王命”です。あなたの意志で止められることではない」


「……王命、か」


「はい。そして、閣下ご自身にも“審問”が下される予定です」


「……つまり、俺をも“反逆者”として疑っているというわけだな」


 皆が息を飲む。


「――ふざけるな」


 低く絞ったレオナルトの声。


「剣の国のために、血を流し、名を汚し、影を背負ってきたこの俺を――今度は、“恋をしただけ”で処刑するというのか」


「……」


「ならば、俺はその剣を、今日この日限りで置くことにする」


 その言葉に、場が凍りついた。


「閣下!!」


「レオナルト、待って――!」


 俺が慌てて手を伸ばしたとき……ラセルが、静かに言った。


「……レオナルト、ダメだ」


「……?」


「あなたが、ここで剣を捨てたら、すべて終わってしまう。この国も、あなたの信念も、僕たちの未来も」


「……お前が言える立場か」


「言えるさ。あなたを裏切った僕だからこそ、“君の正しさ”を壊しちゃいけないと思うんだ」


 ラセルは、微笑んだまま、縄で縛られた両手を差し出した。


「……捕らえろ。僕は王子であり、罪人だ」


「……!」


「でも、あなたは――正義の人でいてくれ、レオナルト」


 レオナルトは、ラセルの目をじっと見て――その手を、震える手で握りしめた。



   ◆



 そしてその夜――。


 ラセルは、塔の上の魔力封鎖室に収監された。正式な裁判までは一切面会禁止。魔力も封じられ、結界で包まれている。


 でも――俺は、知っている。


 ラセルは、自分の意志で捕らえられたのだと。レオナルトを守るために。




 そして、レオナルトは――。


 執務室にひとり、剣を磨いていた。


 何も尋ねず、何も語らず。けれど、その瞳の奥には、揺るぎない“火”が宿っていた。


(……動き出す。もうすぐ、何かが)


 俺は、その背中を見つめながら、心の中で誓った。


「――絶対に、ラセルを見捨てさせない。だって、俺を召喚したのは、お前なんだから」



2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

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