猫か、獣か。夜に吠える者は
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
王城の裏庭は、静寂に包まれていた。
深夜、書簡の整理に呼び出された俺は、管理室から戻る途中だった。
と、ふと。空気が変わった。
風が止む。木々の葉がざわめく。……鳥も、虫も、鳴き声をやめている。
(……これは、やばいやつ)
直感が告げた。気づいた瞬間、背後から鋭い殺気が――!
「っ、そこ!」
振り返りざま、足を蹴り出す。
風を切る短剣の音。間一髪でかわしたが、肌をかすめて血が滲んだ。
(うわ、またか!)
襲ってきたのは、フードを被った暗殺者。二人、いや三人……!
「貴様……!」
「終わりだ、“転移者”。お前がこの国に干渉した時点で、運命は壊れた。今ここで、消えてもらう」
「……っ! “知ってる”のか、俺のことを……!」
「お前があの男――レオナルト・ヴァイスの運命を変えた。その存在こそが、“禁忌”」
襲撃者が、炎を纏った刃を振り上げた。
殺気が肌を裂く。
(終わる――)
そう思った、そのとき。
「――やめろ!!」
轟音とともに、空間が軋んだ。
黄金の光が地面を走り、魔法陣が展開される。
瞬間、襲撃者たちの足元に結界の杭が突き立ち、魔法で弾かれた。
「なっ……!」
結界術。そしてこの制圧力。見覚えがあった。
(この魔法――ラセル……!)
振り返ると、そこにいたのは――貴族の青年の姿をしたラセル。
もはや誤魔化す様子もない。その金の瞳には、明確な“怒り”が宿っていた。
「――俺の召喚者を、殺させるものか」
召喚者。しかも「俺の」召喚者。
「……っ、やっぱり、知ってたんだな……」
「当然だ。お前がこの世界に来たときから、ずっと見ていた」
敵が魔法で反撃しようとした刹那。
「遅い――“連縛陣”!」
ラセルの作った魔法陣が、空間ごと襲撃者を封じる。
その光景は、ただの貴族が扱える力とは到底思えなかった。
――そのとき、風を裂く音がした。
銀の光が、空から舞い降りる。
音もなく地に着地したのは、長身の男。銀の髪に冷たい瞳、背中には黒いマント。
レオナルト・ヴァイスだった。
「遅れたか」
「レ、レオナルト!?」
「警備の動きが不自然だった。……察しはついていた」
彼は剣を抜く。
抜刀、斬撃、瞬撃。
結界の外にいた一人が、まばたきする間に沈んだ。
戦闘は、あっという間だった。
ラセルとレオナルト――魔法と剣、ふたつの“絶技”が交差し、敵を圧倒する。
最後の一人が、ラセルの結界に飲み込まれて沈黙したとき、ようやく、辺りは静寂を取り戻した。
ラセルは息を整え、剣を収めるレオナルトの方を向いた。
「……今ので、疑問は確信に変わったか?」
「……ああ」
レオナルトの視線が、真っすぐにラセルを貫いた。
「お前が、“猫”だったんだな」
「……」
「そして――お前は、“人”として俺に近づいていた。何のためにだ?」
沈黙。
だが、ラセルは逸らさない。まっすぐ、その視線を受け止める。
「……それを、聞いてどうする?」
「答えを聞かないと、お前を斬れない」
レオナルトの声に、シリルが息を呑んだ。
「やめろ……!」
「シリル、下がれ。これは――」
「……俺のことを、召喚したのは、ラセルだ」
「……!」
レオナルトが目を見開く。
「この世界を、“物語の世界”だと気づいて、運命を変えようとした。お前を死なせないために、誰かを……異世界から“読者”を呼んだ。それが、俺だったんだ」
レオナルトの視線が、シリルからラセルへとゆっくり戻る。
「……お前が、俺を“生かす”ために、俺の運命を壊した?」
「そうだ」
「なら、なぜ正体を隠した?」
「……それを言ったら、お前は俺を斬ろうとしただろう?」
ラセルは微笑む。その笑みは、少しだけ哀しくて、少しだけ優しかった。
「斬られたら、猫に戻れなくなる。……撫でてもらえなくなる」
「……」
「俺はただ、あなたのそばにいたかっただけだよ。あなたを助けたかった。……恋しかった」
ラセルの言葉に、空気が凍る。
そして、レオナルトは、そっと剣を鞘に戻した。
「……お前は、“敵”じゃないんだな」
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




