“読者”召喚(ラセル視点)
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
真夜中の王立書庫――王家の者しか入ることを許されない、最奥の区画。
膨大な魔法文献の中で、ラセルは一冊の古い本を開いていた。
“観測者の記録”
ページは黄ばんでいる。けれど、そこに記された魔法陣は、確かに動いていた。まるで、今も生きているかのように。
『この世界は、誰かに見られている。それは、神ではない。この物語を“読んでいる者”だ』
子供の頃は、そんな記述を“寓話”だと笑っていた。
だが今のラセルは、その言葉に縋っていた。
未来が見えてしまったからだ。
「……このままじゃ、レオナルトが死ぬ」
誰もいない空間で、彼は小さく呟いた。
――彼は未来を“読んだ”。
国家魔術で解析された“予言の断片”。
そこに記されていたのは、恐ろしく正確な物語の筋書き。
『剣の国の将軍、レオナルト・ヴァイスは、魔法の国の王太子――ラセル・ヴィルとの戦いで命を落とす』
という、避けがたい終幕だった。
否定したかった。
運命なんて、呪いだと笑い飛ばしたかった。
けれど、国の機関は「これは神託であり、物語であり、理だ」と断言した。
「……俺は、そんな結末を望んでいない」
彼が“戦鬼”と呼ばれるその人に恋をしてしまったのは、まだ少年だった頃だ。
初めて外交の席で目にした、その静かな瞳。
剣を持つ手の潔癖さ。
国のために命を懸ける姿――すべてが美しかった。
「王として在るべき姿」とは、彼のような存在なのだと、ずっと信じていた。
けれど、そんな憧れの存在を、自らの手で葬る未来が待っている――?
そんな世界を、認めるわけにはいかなかった。
「……未来を書き換えるには、“外”からの干渉が必要」
観測者の記録はそう記していた。
『物語の外にいる者――すなわち、“読者”。彼らは、すでにこの結末を知っている。彼らを、この世界に招けば……選択肢は、変わるかもしれない』
ラセルは、その一文の上に手を置いた。
指が、震えていた。
「……“読者”なんて、ただの幻想かもしれない」
途方もない絵空事かもしれない。
「けど、それでも……もし本当にいるのなら――」
ラセルは、会ったこともない”読者”を思った。
「“あなた”なら、あの人を救ってくれるかもしれない」
王太子の権限で、ラセルは異世界召喚の禁術を独自に発動した。
本来、召喚とは“従属”を目的とした術式。
だが彼が求めたのは、“干渉者”――この世界の未来を書き換える鍵。
数日後――
小さな魔方陣が、書斎で光った。
そして――ひとりの青年が、現れた。
シリル・フォード。
◆
「……やっぱり、お前だったんだな」
シリルを目覚めさせてから後、シリルに初めて会ったとき、ラセルは猫の姿だったが、ラセルには、はっきり“わかった”。
――この人が、未来を変える人間なのだと。
けれど、彼は想像していなかった。
この召喚が、“恋敵”をこの世界に呼ぶことになるとは。
レオナルトは、彼を見て笑った。初めて、心からの“安らぎ”を向けていた。
その笑顔を見て、ラセルは気づいた。
この笑みは、自分には、決して向けられないものだと。
「……悔しいよ。誰よりも、あなたの傍にいたかったのは、俺だったのに」
それでも――ラセルは後悔しなかった。
なぜなら、あの人が生きている限り、この世界にはまだ、救いがあるから。
ラセルは、風の吹く夜の塔でひとり、目を閉じた。
「お前が、あの人を守ってくれるなら……それでいい」
でも――もしも。
「もしも、お前が……あの人を泣かせたら」
金の瞳が、月光の下で細められる。
「そのときは、この王太子が“運命”を殺す」
彼の掌の中で、微かな魔力が、静かに脈打っていた。
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




