夜に潜む牙、猫はそれを許さない
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
翌日、レオナルトはいつも通り、冷静だった。
あの夜のこと――キスも、言葉も――まるでなかったかのように。
……いや、違う。
彼は、何も言わないまま、俺の隣に立ち続けている。
そして時折、誰にもわからないような小さな声で、例えば、
「……寒くないか?」
などと、気遣ってくるようになった。
それだけで、俺は何度でも死ねる気がする。いや、死にたくないけど。
そして、その日――俺は、夜の軍務を終えた後、書庫に資料を取りに行っていた。
「……ここ、ほんと迷うんだよな……」
王城の奥にある、古文書用の書庫。
夜間の立ち入り許可は少なく、ひんやりとした空気の中に、古い紙の匂いが立ち込めている。
資料を抱えて廊下を出た、そのときだった。
――パリンッ!
突然、窓が割れた。
「っ……な――!」
気づく間もなかった。
影が、俺の目の前に降ってくる。
ナイフの光。殺気。
(やば――)
咄嗟に身を翻した。
しかし、避けきれない。
次の瞬間――
「――ッ!!」
風が、爆ぜた。
衝撃音。床が焦げる。火花。
目の前の影が吹き飛ばされた。
「っ……え?」
何が起きたのか、理解できなかった。
が、次の瞬間――
「……っ、にゃっ!!」
闇の中、俺の足元に黒い影が飛び込んできた。
あの、黒猫だった。
「……おまっ、お前、なんで――」
俺の足元をくるりと回るようにして、猫は低く唸った。
襲撃者が再び立ち上がろうとする。
しかし――
ピシィィィ……ン!
床に魔法陣が浮かび上がった。
「――っ、封陣……!?」
「くそっ、退け、封じ込められるぞ!!」
もう一人、外にいた襲撃者が叫ぶ。
だが、遅い。
魔力が炸裂し、床の紋様が光を放つ。
数秒後、二人の影は封陣の中に沈黙した。
……そして、それを成したのは、黒猫だった。
「……え、ちょっと、待て……お前、魔法、使えんの……?」
黒猫はちらりと俺を見た。
そして、何か言いたげな顔で、「にゃあ」とだけ鳴いた。
その後すぐ、警備の兵士たちが駆けつけてきた。
「暴漢が二人、正体不明」
「魔法反応あり。魔法の国の使いかもしれない」
「側近のシリル殿、無事ですか!」
……俺はうなずきながらも、まだ頭が真っ白だった。
(なに……今の……?)
あの魔法陣、知ってる。
原作で、王太子が使っていた専用の結界術――
「……でも、あの王子は……原作には猫になんか……」
まさか、そんな――
俺は黒猫の姿を確かめようと思ったが、その姿はもうどこにもいなかった。
◆
一方そのころ――
誰もいない、城の最上階のバルコニー。
風が吹き抜ける中、ラセルは銀髪の青年の姿に戻って、柵にもたれていた。
「……はあ、危なかった……」
手には、小さな魔石の破片。
さきほど使った封陣のコア。
「俺が……あいつを助けるなんて、馬鹿みたいだな」
ぽつりと呟く。
でも。
「あいつは、レオナルトの笑顔を引き出した。俺にはできなかったことを、あっさり……」
嫉妬があった。
悔しさもあった。
でもそれ以上に、どうしようもなく――
「……悔しいけど、お前が傷ついたら……あの人が泣くからな」
誰もいない夜空に向かって、呟く。
「……シリル・フォード。あいつら、またお前を狙ってくるかもしれないぞ。だが、そのときは俺も……徹底的にやってやるよ。俺のすごさをお前に見せつけてやるぜ。覚悟しとけ」
ラセルの瞳が、夜の闇の中で、猫のように金色にキラリと輝いた。
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




