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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした  作者: リリーブルー


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その手の温度、確かめさせて

2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

 夜が更けても、眠れなかった。


 深い闇に包まれた室内。月の光が薄く差し込む中、俺はベッドの端に腰を下ろしていた。


 ――隣には、レオナルト。


 少しだけ乱れた軍服。閉じた瞳。胸元で静かに上下する呼吸。


 彼の軍服が乱れているのは、別に俺の理性が壊れて、推しに何かしてしまったからなわけではない。万が一、そんなことをしようものなら、俺の命が危ない。殺される。たぶん。残念ながら、単に、寝乱れただけだ。しかも、少しだけ。ちょっとボタンをはずした程度。でも……エロい。

「はぁ~、尊い。仰げば尊死我が推しの恩」

 呪文のように手を合わせて唱える。俺のベッドで眠る推しが尊すぎて俺のテンションが、おかしくなっているのかもしれない。


「……寝てるのか?」


 そっと声をかけてみる。返事はない。


(いや、普通に寝てる……よな)


 ほんの数刻前、彼は俺の部屋にやってきて、「眠れないから、少しだけそばに」と言った。


 それだけで心臓が跳ねた。


 何度も「今夜は一緒にいてもいいか」と確認するように聞いてきたのは、たぶん……不安だったから。


 ――いや、寂しかったのかもしれない。


 いつも冷静で、無感情で、圧をかけてくる男なのに。

 こんな風に俺を頼るなんて、ちょっと反則だ。


(……ああ、なんでこんなに綺麗なんだろ)


 頬のライン、睫毛の長さ、肩の広さ、指の形。

 どこを見ても整っていて、どこを見ても“好き”で――俺はもう、完全に落ちてる。


 気づけば、手が勝手に伸びていた。


 そっと、レオナルトの髪に触れる。


 ――さらり、と指先をすべる銀色の髪。


「……お前、寝てるときは、ちょっと子供っぽいな」


 そっと呟いた俺の声に――


「……それは褒めているのか?」


 目が開いた。


「ひ……!? 起きてたのかよ!?」


「……最初から、ずっとな」


「ちょ、恥ずかしいって! 起きてるなら言えよ!」


 俺の変な呪文も聞かれていたと言うのか。萌散らかして、あらぬことをブツブツつぶやかなかったか!? 大丈夫か!? 思い出すんだ、冷静に、思い出すんだ、俺! 何か変なことをつぶやかなかったかどうかを!

 そして、髪を触っていた言い訳、言い訳! なんでこんなに綺麗な髪なんだろう、とかつぶやかなかったよね? ええと、髪に虫がついて、葉っぱがついていたので取っていましたとか?

 俺、『不敬だ!』とかレオナルトに言われて怒られて殺される!? いや、そんなことはしないと思うけど、それは原作のレオナルトの鬼神のイメージであって、今の実際のレオナルトは、そんな怖い人じゃないはずなんだけど、でも、眠ってる人の髪を勝手に、触るとか、だめだよね泣。ごめんなさい。もうしません。許してください。平身低頭。


 身動きしたレオナルトの身体に触れないように、俺が慌てて手を引こうとした、そのとき。


 レオナルトの指が、俺の手首をそっと掴んだ。


「……やめるな」


「……え?」


「……触れていてくれ。お前の手は……あたたかい」


「……」


 不意打ちすぎて、何も言えなかった。


 俺の手を離さないまま、彼は目を伏せ、ぽつりと続ける。


「こうしていると、現実味がなくなる。まるで夢の中にいるようだ」


「……なんで?」


「お前が、俺の隣にいることが……不思議だからだ」


(……やばい、この人、たまにすごいことサラッと言う)


 心臓がバクバクする。もう、俺の心臓、壊れちゃう。がんばれ心臓。


「俺は、ずっと誰も信じず、誰にも触れなかった。……いや、触れられなかった。信じて失うのが、怖かった」


 あ、あ、あ……推し! 推しぃぃぃ! 推しが俺に、こんな告白を!


「だから……お前の存在が、わからないんだ。どうして、そんなに俺に優しくできる?」


 いやいやいや! それは、こっちのセリフだぁぁぁ! こんなに優しいレオナルト、こんなに繊細そうなレオナルト、打ちしおれていて、俺の前だけに見せるデレ。そう、これはデレに入るのか? 先生これはデレに入りますか? クーデレがデレに突入したのか!?


「……それは」


 理由なんて、たぶんいくらでもある。


 転生して、推しだったから。憧れていたから。助けたかったから。


 でも。


「……好きだから、かな」


 ちょちょちょ、言うに事を欠いて、さらっと本音を言っちゃった。うわーっ! ハズーーー! 穴があったら入りたいーーー!


「……」


 うわーん、黙らないでーー! その沈黙、怖いからーー!

 俺は、慌てて言葉を重ねる。レオナルトが引いたんじゃないかと思って、一生懸命、言い訳する、説明する。


「お前が、生きててほしいって思うし。ちゃんと笑ってほしいし。……俺のこと、必要だって思ってくれるなら、もっとそばにいたいって思う」


 一生懸命、「好き」の説明をした。レオナルトが、ドン引いていたとしても、ちょっと、あ、そういうことか、って思い直してもらえるように。なんとか、俺の気持ち、受け入れてもらえるように。


 レオナルトは何も言わなかった。


 でも、俺の手を握る指先が、少しだけ強くなった気がする。


(ああ、俺、これ……)


 受け入れて、もらえたってこと? 俺の気持ち、嫌じゃないってこと?


「……キス、してもいいか?」


 思わず、口をついて出たその言葉。


 ちょちょちょちょちょーーー! 俺、何、言っちゃってるのーーーー! 前世では、絶対言えなかったようなセリフ! しかし、今の俺は、美形である。ちょっと眺めの短髪黒髪、瞳の色は金や琥珀色、細マッチョな感じの二十代後半の美青年。だから、いける? だから、初めて、言えた。言ってしまった……。


 レオナルトは目を見開いて、静かに――でも、確かにうなずいた。


 やったーーー! なんだけど、そういう嬉しさより、ドキドキと緊張感がまさる。


 そして俺は、彼の頬に手を添え、そっと唇を重ねた。


 優しく、でも確かに、感情を込めて。


 レオナルトも、ほんの少しだけ唇を動かして、俺の気持ちに応えてくれた。




「……初めてだった」


 唇を離した後、レオナルトは静かに言った。


「え!?」


 三十代にして、ファーストキス!?


「いや、俺も……」


 もごもごもご……。


「自分から人に、触れられてもいいと思ったのは……お前が、初めてだった」


「……あー」


 あ、そういう、こと? ファーストキス、な、わけじゃなくて? なら、レオナルトのファーストキスは、誰なのさ。あ、あの猫とか? 嫉妬……。


 いや、でも、今はそんなことどうでもいい。そんなことより、今、初めて、俺になら触れられてもいいと、推しが思ってくれたのだから!


 ちょっと泣きそうになった。


 この人、こんなにもずっと孤独だったんだ。


 その孤独を、少しでも埋められたのなら――この転生にも、意味があったのかもしれない。




「……じゃあ、さ」


 俺は小さく笑って言った。


「これからも、触れていいか?」


「……ああ」


「もっとキスしても?」


 貪欲。推しの心がゆるんでる機に乗じて、押せ押せの俺。ふふふ。俺もワルだなぁ。


「……ああ」


「そのうち……ベッドで、ちゃんと?」


 今なら、こんなことも言っていいんじゃない? ふふふ。調子に乗る俺。


「……それは、俺からにさせろ」


 さすがに、釘をさされた。


「うっ……そ、それはそれで……!?」


 俺、その気になった推しに押し倒されるの? ふっふっふ……。顔がゆるんじゃって、しょうがないんだけどっ。


 レオナルトは、そんな俺の動揺を見て、ふっと笑った。


 ほんの少し、照れくさそうに。


 俺はその笑顔を見て――心の底から、恋に落ちた。


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