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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした  作者: リリーブルー


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15/27

推しと添い寝と、眠れぬ夜に

2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

 あの後、レオナルトが沈黙してしまい、その空気にいたたまれなくなってしまった俺は、自分の部屋に逃げ帰っていた……。


 だが、自室のベッドに横たわってみても、目がさえてしまって、ちっとも眠れなかった。


 何度寝返りを打っても、頭のどこかでレオナルトの声が反響している。


『……お前の言葉を聞いていると、不思議と……落ち着く』


(あれ、絶対……本気で言ったよな)


 ベッドの上で天井を見上げながら、俺は何度もその言葉を思い返していた。

 真面目に言われたからこそ、逆に逃げたくなる。

 だって、俺の方こそ本気なんだ。

 この世界に転生して以来、ずっとこの人を「救いたい」と思っていた。


 ――でも、もしかしたら、俺自身が「救われたかった」のかもしれない。


「……はぁ」


 ため息をついた、そのとき。


「……起きているのか」


 不意に、扉の向こうから聞こえたのは――レオナルトの声だった。にゃぁ、と猫の声も聞こえる……。


「……えっ、ちょ、な、なんで!? なんでお前がこんな時間に……!?」


「言っただろう。“話がある”と」


 扉が開かれ、月明かりに照らされた彼の姿が現れる。

 深夜にも関わらず、軍服の上着を羽織ったままの彼は、まるで幽霊みたいに静かに、俺の部屋に入ってきた。

 猫も、レオナルトについて、とことこ入ってきてしまったが、レオナルトが、優しくたしなめる。


「よしよし、ごめんな。お前は、俺の部屋で休んでていいぞ。俺のふかふかのベッド、使っていいから」


 とか、なんとか言って撫でてる……。


(えっ、推し様の神聖なるベッド、使わせちゃうの……?)


 ちょっと、もやもやする。猫相手に何をやってるんだろう俺は、と思うけど、全方位に嫉妬してしまう。


 猫はしばらく、にゃーにゃー言ってレオナルトの足元にスリスリしてまとわりついていたが、そう言われると、しぶしぶのように、廊下の暗闇に消えていった。レオナルトが優しく猫を追い払ってくれたことに、俺はほっとした。 


「話って……今……?」


「今でなければ、言えない気がした」


 レオナルトは、俺の部屋に入ってきて、ベッドの脇に腰を下ろした。

 夜の静けさが、やけに二人の距離を際立たせる。


「……なあ、シリル」


「……うん」


「お前が……俺に何を望んでいるのか、最近になってようやく、少しだけわかってきた」


 え、なになに、怖いんだけど。俺の、あんなことやこんなこと、変な妄想とか萌とか? それとも、俺が陰謀をたくらんでいるとか誤解してる?


「……そっか」


 俺は、ただそれだけ応えた。


「俺は……誰かの期待に応えたくて生きてきた。戦で、国で、役目で……誰かの“理想”になるために、自分を捨て続けてきた」


 おや、自分語り、始まったぞ?


「…………」


「でも、お前は……俺に“休め”と言った。体を大事にしろと言った。……あんなこと、誰にも言われたことがなかった」


 ああ、そのこと。


「……じゃあ、もう一度言おうか? 休め」


 苦笑混じりに言うと、レオナルトはわずかに目を細めた。


「……もう十分言われている」


 そして、ふっと小さく息を吐く。


「……今夜は、眠れない」


「え?」


 ぎゃー! キターーーーーー! 重大イベント発生のフラグ!?


「だから……ここに来た。お前と、少し話したくなった」


「…………」


 話、ですか。うん、話。落ち着け、俺。


 静かな告白だった。

 いつもの冷たい仮面はなかった。

 ただ、一人の男として、俺のそばに座っている。


 だけどさぁ……!


(……これはもう、距離、近すぎじゃないか……?)


 ほんとに、深夜、こんな長い銀髪を月の光に静かに輝かせ、そのたくましい身体に軍服をまとい、美形、紫色の神秘的な瞳、その憂いがちな表情で哀しげに、寂しげに、訴えかけるように……あぁぁぁぁ! 理性、理性を試されているぅぅぅ!


 内面の葛藤に忙しすぎて黙っていると、レオナルトはぽつりと呟いた。


「シリル。隣に、いいか?」


「えっ……え、ここに?」


 どんどん詰めてくる推し!


「寝るわけじゃない。……ただ、少し、そばにいたい」


「…………」


(いやこれ、さすがに心臓に悪くない!?)


 寝るわけじゃないって、寝るとか言わないで、このセンシティブな場面で。すごくドキドキしちゃうんですけど? しかも、寝る「わけじゃない」って、軽く拷問ですか? 俺、試されてますか?


 けれど。


「……いいよ。こっち、空いてる」


 俺は、ベッドの端をぽんぽんと叩いてしまった。


 そりゃあね、推しに、切なそうな顔で、そんな風に頼まれたらね? 優しくしないでは、いられないでしょ?


 レオナルトは、迷うことなくそこに座り、そして――俺の隣に、そっと横になった。


 うわぁぁぁ! 寝るわけじゃない、じゃなかったのか!? 寝てる、寝てるじゃないか! 勝手に! って、ことは、さっきの「寝るわけじゃない」は、単に「横たわる」の意味ではなく、そっち方面の、やんわりとした言い方の、寝る、ですかね? といういことは、そっち方面の、寝る、も視野に入っている、という解釈でよろしいんですかね!?


---


 静かだった。

 俺とレオナルトの間に、ほんの数センチの隙間。

 でも、その空間が、妙に熱い。


「……なんか、緊張するな」


「俺もだ」


「うわー、お前が言うとズルいな、それ」


 レオナルトの一言一言に、いちいち反応して俺の心臓がバクバクする。


「……シリル」


「……ん?」


 レオナルトの手が、俺の手の上に重なる。


 ギャー! やめてー! いや、やめないでー!


「お前の温度が……心地いい」


「…………っ」


 たったそれだけの言葉で、体温が跳ね上がった。


「もし……お前がよければ」


「……ん?」


「今夜だけ……少しだけでいい。……こうしていても、いいか?」


「…………」


 ひ、ひぃぃぃ! 俺の心臓は、もちこたえられるのだろうか!? がんばれ心臓! 生き延びろ! もちこたえるんだ!


「拒まれたら、すぐ出ていく」


 その言葉に、俺は、ゆっくりと――彼の手を握り返した。


「……いいよ。出ていかなくて。今夜は……一緒にいよう」


 もう、どうなってもいい。憧れの、推しと、二人、ベッドに横たわれるなんて。しかも、心は、通じ合って?いる。俺だけに、打ち明けてくれた、今までの苦しかった推しの気持ち。俺だけに話してくれて、今は、ほっとして、安らいでいる、推し。ああ、尊い。拝。


「……ああ」


 レオナルトは目を閉じると、ほんの少し、俺の額に唇を押し当てた。


 優しい、柔らかなキスだった。


 うっ、ひゃぁあぁぁぁぁ!! ご褒美キターーーーーー! イベント発生ーーー!!


 俺の心臓は、幸福感で爆発しそうだった。もう、死んでもいい。いや、また死んでる場合ではない。生きなければ。


2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

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