推しと添い寝と、眠れぬ夜に
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
あの後、レオナルトが沈黙してしまい、その空気にいたたまれなくなってしまった俺は、自分の部屋に逃げ帰っていた……。
だが、自室のベッドに横たわってみても、目がさえてしまって、ちっとも眠れなかった。
何度寝返りを打っても、頭のどこかでレオナルトの声が反響している。
『……お前の言葉を聞いていると、不思議と……落ち着く』
(あれ、絶対……本気で言ったよな)
ベッドの上で天井を見上げながら、俺は何度もその言葉を思い返していた。
真面目に言われたからこそ、逆に逃げたくなる。
だって、俺の方こそ本気なんだ。
この世界に転生して以来、ずっとこの人を「救いたい」と思っていた。
――でも、もしかしたら、俺自身が「救われたかった」のかもしれない。
「……はぁ」
ため息をついた、そのとき。
「……起きているのか」
不意に、扉の向こうから聞こえたのは――レオナルトの声だった。にゃぁ、と猫の声も聞こえる……。
「……えっ、ちょ、な、なんで!? なんでお前がこんな時間に……!?」
「言っただろう。“話がある”と」
扉が開かれ、月明かりに照らされた彼の姿が現れる。
深夜にも関わらず、軍服の上着を羽織ったままの彼は、まるで幽霊みたいに静かに、俺の部屋に入ってきた。
猫も、レオナルトについて、とことこ入ってきてしまったが、レオナルトが、優しくたしなめる。
「よしよし、ごめんな。お前は、俺の部屋で休んでていいぞ。俺のふかふかのベッド、使っていいから」
とか、なんとか言って撫でてる……。
(えっ、推し様の神聖なるベッド、使わせちゃうの……?)
ちょっと、もやもやする。猫相手に何をやってるんだろう俺は、と思うけど、全方位に嫉妬してしまう。
猫はしばらく、にゃーにゃー言ってレオナルトの足元にスリスリしてまとわりついていたが、そう言われると、しぶしぶのように、廊下の暗闇に消えていった。レオナルトが優しく猫を追い払ってくれたことに、俺はほっとした。
「話って……今……?」
「今でなければ、言えない気がした」
レオナルトは、俺の部屋に入ってきて、ベッドの脇に腰を下ろした。
夜の静けさが、やけに二人の距離を際立たせる。
「……なあ、シリル」
「……うん」
「お前が……俺に何を望んでいるのか、最近になってようやく、少しだけわかってきた」
え、なになに、怖いんだけど。俺の、あんなことやこんなこと、変な妄想とか萌とか? それとも、俺が陰謀をたくらんでいるとか誤解してる?
「……そっか」
俺は、ただそれだけ応えた。
「俺は……誰かの期待に応えたくて生きてきた。戦で、国で、役目で……誰かの“理想”になるために、自分を捨て続けてきた」
おや、自分語り、始まったぞ?
「…………」
「でも、お前は……俺に“休め”と言った。体を大事にしろと言った。……あんなこと、誰にも言われたことがなかった」
ああ、そのこと。
「……じゃあ、もう一度言おうか? 休め」
苦笑混じりに言うと、レオナルトはわずかに目を細めた。
「……もう十分言われている」
そして、ふっと小さく息を吐く。
「……今夜は、眠れない」
「え?」
ぎゃー! キターーーーーー! 重大イベント発生のフラグ!?
「だから……ここに来た。お前と、少し話したくなった」
「…………」
話、ですか。うん、話。落ち着け、俺。
静かな告白だった。
いつもの冷たい仮面はなかった。
ただ、一人の男として、俺のそばに座っている。
だけどさぁ……!
(……これはもう、距離、近すぎじゃないか……?)
ほんとに、深夜、こんな長い銀髪を月の光に静かに輝かせ、そのたくましい身体に軍服をまとい、美形、紫色の神秘的な瞳、その憂いがちな表情で哀しげに、寂しげに、訴えかけるように……あぁぁぁぁ! 理性、理性を試されているぅぅぅ!
内面の葛藤に忙しすぎて黙っていると、レオナルトはぽつりと呟いた。
「シリル。隣に、いいか?」
「えっ……え、ここに?」
どんどん詰めてくる推し!
「寝るわけじゃない。……ただ、少し、そばにいたい」
「…………」
(いやこれ、さすがに心臓に悪くない!?)
寝るわけじゃないって、寝るとか言わないで、このセンシティブな場面で。すごくドキドキしちゃうんですけど? しかも、寝る「わけじゃない」って、軽く拷問ですか? 俺、試されてますか?
けれど。
「……いいよ。こっち、空いてる」
俺は、ベッドの端をぽんぽんと叩いてしまった。
そりゃあね、推しに、切なそうな顔で、そんな風に頼まれたらね? 優しくしないでは、いられないでしょ?
レオナルトは、迷うことなくそこに座り、そして――俺の隣に、そっと横になった。
うわぁぁぁ! 寝るわけじゃない、じゃなかったのか!? 寝てる、寝てるじゃないか! 勝手に! って、ことは、さっきの「寝るわけじゃない」は、単に「横たわる」の意味ではなく、そっち方面の、やんわりとした言い方の、寝る、ですかね? といういことは、そっち方面の、寝る、も視野に入っている、という解釈でよろしいんですかね!?
---
静かだった。
俺とレオナルトの間に、ほんの数センチの隙間。
でも、その空間が、妙に熱い。
「……なんか、緊張するな」
「俺もだ」
「うわー、お前が言うとズルいな、それ」
レオナルトの一言一言に、いちいち反応して俺の心臓がバクバクする。
「……シリル」
「……ん?」
レオナルトの手が、俺の手の上に重なる。
ギャー! やめてー! いや、やめないでー!
「お前の温度が……心地いい」
「…………っ」
たったそれだけの言葉で、体温が跳ね上がった。
「もし……お前がよければ」
「……ん?」
「今夜だけ……少しだけでいい。……こうしていても、いいか?」
「…………」
ひ、ひぃぃぃ! 俺の心臓は、もちこたえられるのだろうか!? がんばれ心臓! 生き延びろ! もちこたえるんだ!
「拒まれたら、すぐ出ていく」
その言葉に、俺は、ゆっくりと――彼の手を握り返した。
「……いいよ。出ていかなくて。今夜は……一緒にいよう」
もう、どうなってもいい。憧れの、推しと、二人、ベッドに横たわれるなんて。しかも、心は、通じ合って?いる。俺だけに、打ち明けてくれた、今までの苦しかった推しの気持ち。俺だけに話してくれて、今は、ほっとして、安らいでいる、推し。ああ、尊い。拝。
「……ああ」
レオナルトは目を閉じると、ほんの少し、俺の額に唇を押し当てた。
優しい、柔らかなキスだった。
うっ、ひゃぁあぁぁぁぁ!! ご褒美キターーーーーー! イベント発生ーーー!!
俺の心臓は、幸福感で爆発しそうだった。もう、死んでもいい。いや、また死んでる場合ではない。生きなければ。
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