敬語をやめた日
2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓
https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
ところで、俺がレオナルトに対して敬語を使っていないということが、気になっている人もいるのではなかろうか。今回は、敬語をやめたいきさつを話そうと思う。
「それで、お前は俺に何を求めている?」
レオナルトの声は低く、静かだった。冷たい紫紺の瞳が、俺をまっすぐ見据えている。彼の目は、紫色から紫紺まで、光の加減で変わるのが、また……美しい。俺はごくりと唾を飲み込んだ。
「……求めている、というわけではなく……その……」
敬語が抜けない。というか、この人を前にすると、妙に緊張してしまう。
元々のシリル・フォードは、レオナルトの忠実な部下だった。貴族としての身分はそれなりに高いが、軍事的な権限を持つ公爵であるレオナルトとは、本来ならば明確な主従関係にある。それを考えれば、俺が彼に敬語を使うのは当たり前だ。しかし——
「お前は俺の側近として仕えると言ったな?」
「……はい」
「ならば、最低限、俺の命令を正しく理解し、即座に実行できる能力が必要だ」
レオナルトの指が、卓上の書類を示す。
「だが、お前の報告書は回りくどい。余計な言葉が多すぎる」
「……えっ」
「敬語が長い。読みにくい」
「……えっ、えっ」
「戦場では、一瞬の判断が生死を分ける。お前のような回りくどい言い方をする者は、いずれ命を落とすことになるだろう」
「……」
「よって、無駄な言葉は省け。話すときも敬語は、いらん」
「えええぇぇぇぇ!?」
思わず素の声が出た。
「敬語をやめろって、それ、つまり……閣下に対してタメ口をきけってことですか?」
「そうだ」
「いやいやいや、それは無理ですよ!?」
「なぜだ?」
「だって、俺はあなたの部下ですよ!?」
「だからこそだ。俺の部下なら、俺の指示に従え」
「えぇぇぇ……!?」
いやいや、これ、おかしくない? 普通、主従関係なら、部下は敬語を使うのが当然では……!? そこに、萌とかもあるのでは? その微妙な距離感、へだたりにこそ、敬う気持ちとか、貴い感じが出るのでは? せっかくのファンタジーなのに、敬語なしなんて、ホップの入っていないビールのようなものでは?
「それとも、お前は俺に逆らうつもりか?」
「……それは……」
「ならば、やめろ」
「……」
「今すぐ、やめろ」
「……えぇぇ……」
俺は、しばらく唸った。
(えっ、敬語をやめるってことは……普通に「お前さぁ」とか「マジかよ」とか言っていいってこと……? えっ、公爵閣下に……!?)
でも、ここで「嫌です」と言ったら、「俺の命令に従えないのか?」とか言われるのが目に見えている。
「……わ、わかりましたよ……」
「よし」
「……その……じゃあ……えっと……」
(どうすればいいんだ!? いきなりタメ口とか、ハードルが高すぎる!)
「……えーと……あ……お、お前……今日の戦況は……どうだったんだ?」
「……」
「……」
「……」
「……フッ」
「ちょっ、笑った!?」
俺の必死すぎるタメ口に、レオナルトはほんのわずか、唇の端を持ち上げた。……くそ、めっちゃバカにしてる顔だ!
「……いいだろう」
「な、なにが」
「お前の話し方は、ややぎこちないが、まあ、悪くはない」
「……」
「それに……」
レオナルトはふと、視線を落とした。いつも無表情で冷徹なその顔が、ほんの少しだけ、優しさを帯びている気がした。
「……お前の言葉を聞いていると、不思議と……落ち着く」
「……えっ」
「今まで、俺にタメ口をきく者はいなかった。……だが、タメ口が悪いとも思わん」
「……」
何それ、ズルくないか。そんな言われ方したら、俺……。ちょっと、勘違いしそう。敬語があるから、へだたりがある関係だって思えるのに。敬語がなかったら、親しい間柄だって勘違いしそう。
「……まぁ、わかったよ……じゃあ、これからは……敬語、やめる……」
「それでいい」
「……でも、突然そんなこと言われても、すぐに自然には話せないから……」
「慣れればいい」
「……お前さぁ……」
わ、やっぱりレオナルト閣下にお前とか、不自然すぎる。
「……フッ」
「だから笑うなってぇぇぇ!」
こうして、俺の敬語は、強制的にやめさせられたのだった——。でも、たぶん、時々は、使う、敬語。と思う、うん。
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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした




