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転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした  作者: リリーブルー


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13/27

敬語をやめた日

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https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

 ところで、俺がレオナルトに対して敬語を使っていないということが、気になっている人もいるのではなかろうか。今回は、敬語をやめたいきさつを話そうと思う。


「それで、お前は俺に何を求めている?」

 レオナルトの声は低く、静かだった。冷たい紫紺の瞳が、俺をまっすぐ見据えている。彼の目は、紫色から紫紺まで、光の加減で変わるのが、また……美しい。俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「……求めている、というわけではなく……その……」

 敬語が抜けない。というか、この人を前にすると、妙に緊張してしまう。

 元々のシリル・フォードは、レオナルトの忠実な部下だった。貴族としての身分はそれなりに高いが、軍事的な権限を持つ公爵であるレオナルトとは、本来ならば明確な主従関係にある。それを考えれば、俺が彼に敬語を使うのは当たり前だ。しかし——

「お前は俺の側近として仕えると言ったな?」

「……はい」

「ならば、最低限、俺の命令を正しく理解し、即座に実行できる能力が必要だ」

 レオナルトの指が、卓上の書類を示す。

「だが、お前の報告書は回りくどい。余計な言葉が多すぎる」

「……えっ」

「敬語が長い。読みにくい」

「……えっ、えっ」

「戦場では、一瞬の判断が生死を分ける。お前のような回りくどい言い方をする者は、いずれ命を落とすことになるだろう」

「……」

「よって、無駄な言葉は省け。話すときも敬語は、いらん」

「えええぇぇぇぇ!?」

 思わず素の声が出た。

「敬語をやめろって、それ、つまり……閣下に対してタメ口をきけってことですか?」

「そうだ」

「いやいやいや、それは無理ですよ!?」

「なぜだ?」

「だって、俺はあなたの部下ですよ!?」

「だからこそだ。俺の部下なら、俺の指示に従え」

「えぇぇぇ……!?」

 いやいや、これ、おかしくない? 普通、主従関係なら、部下は敬語を使うのが当然では……!? そこに、萌とかもあるのでは? その微妙な距離感、へだたりにこそ、敬う気持ちとか、貴い感じが出るのでは? せっかくのファンタジーなのに、敬語なしなんて、ホップの入っていないビールのようなものでは?

「それとも、お前は俺に逆らうつもりか?」

「……それは……」

「ならば、やめろ」

「……」

「今すぐ、やめろ」

「……えぇぇ……」

 俺は、しばらく唸った。

(えっ、敬語をやめるってことは……普通に「お前さぁ」とか「マジかよ」とか言っていいってこと……? えっ、公爵閣下に……!?)

 でも、ここで「嫌です」と言ったら、「俺の命令に従えないのか?」とか言われるのが目に見えている。

「……わ、わかりましたよ……」

「よし」

「……その……じゃあ……えっと……」

(どうすればいいんだ!? いきなりタメ口とか、ハードルが高すぎる!)

「……えーと……あ……お、お前……今日の戦況は……どうだったんだ?」

「……」

「……」

「……」

「……フッ」

「ちょっ、笑った!?」

 俺の必死すぎるタメ口に、レオナルトはほんのわずか、唇の端を持ち上げた。……くそ、めっちゃバカにしてる顔だ!

「……いいだろう」

「な、なにが」

「お前の話し方は、ややぎこちないが、まあ、悪くはない」

「……」

「それに……」

 レオナルトはふと、視線を落とした。いつも無表情で冷徹なその顔が、ほんの少しだけ、優しさを帯びている気がした。

「……お前の言葉を聞いていると、不思議と……落ち着く」

「……えっ」

「今まで、俺にタメ口をきく者はいなかった。……だが、タメ口が悪いとも思わん」

「……」

 何それ、ズルくないか。そんな言われ方したら、俺……。ちょっと、勘違いしそう。敬語があるから、へだたりがある関係だって思えるのに。敬語がなかったら、親しい間柄だって勘違いしそう。

「……まぁ、わかったよ……じゃあ、これからは……敬語、やめる……」

「それでいい」

「……でも、突然そんなこと言われても、すぐに自然には話せないから……」

「慣れればいい」

「……お前さぁ……」

わ、やっぱりレオナルト閣下にお前とか、不自然すぎる。

「……フッ」

「だから笑うなってぇぇぇ!」

 こうして、俺の敬語は、強制的にやめさせられたのだった——。でも、たぶん、時々は、使う、敬語。と思う、うん。

2025年 11/1~11/30 投票期間 BL大賞 参加中↓

https://www.alphapolis.co.jp/novel/780153521/689943168

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

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