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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(古龍襲来)「あの日の意志は娘のなかに」

作者: 希望の王

世間知らずの白髪の少女と古代魔法都市(新章・本当のルート)「あの日の意志は娘のなかに」の続編です。

挿絵(By みてみん)

娘の結衣


銀髪とオレンジの髪の少女、結衣は、埃っぽい魔法学校の廊下を一人歩いていた。非魔法使いでありながら、その類稀なる射撃の腕と、決して人を殺さないという強い意志で、この特異な学び舎で次席の座を掴み取った異色の存在だ。今日は、首席の光魔法使い、クリス・バーンが珍しく訓練場に姿を見せるという噂を聞きつけ、その圧倒的な光魔法を間近で見ようと足を運んでいた。


訓練場では、クリスが光の剣を無数に放ち、標的を蜂の巣にしていた。その眩いばかりの光の奔流は、まさに神業。結衣は、ただただ見惚れるしかなかった。負けず嫌いな結衣だが、クリスに対しては、ライバル心よりも憧憬の念が強かった。いつか、あの光のように、誰かを守れる強い存在になりたいと、心の中で強く願っていた。


その静寂を切り裂くような、地を揺るがす咆哮が響き渡った。黒い影が空を覆い尽くす。それは、黒いドラゴンよりも遥かに巨大な、古龍グレンガレオンだった。太古の力を宿す超大型ドラゴンは、その巨体に見合わぬ速さで魔法学校へと迫り来る。


「避難しろ!」


数名の教員の叫びも虚しく、生徒たちは恐怖に駆られ我先にと逃げ出した。しかし、結衣とクリスは、その場に立ち尽くしていた。傍らには、結衣が手なずけたスライム、一角獣、そして黒いドラゴンの姿もあった。


「逃げないのか?」クリスの声は、どこか冷静だった。


「私は、ここにいるものを守る」結衣は、母アルファから託された多機能戦術戦闘服「機動天衣」に身を包み、腰のホルスターからエーテル鉱石製のハンドガンを抜き放った。


「私もだ」クリスの瞳にも、強い光が宿った。


古龍グレンガレオンが、巨大な口を開き、漆黒のブレスを放った。それは、全てを飲み込む破壊の奔流。教員たちと、結衣の仲間たちは、まともに受け吹き飛ばされ、地面に叩きつけられ動けなくなった。


挿絵(By みてみん)


しかし、結衣だけは違った。「機動天衣」の魔法的な防御フィールドが、ブレスの威力を軽減し、軽傷で済んだのだ。一人、立ち上がった結衣は、古龍に向けて銃を構えた。


「させない!」


トリガーを引く。エーテル鉱石製の銃から放たれた現代の銃弾は、古龍の鱗に弾かれる。圧倒的な力の差を前に、結衣は苦戦を強いられた。巨大な足が、倒れている結衣を踏み潰そうと振り上げられる。その時、黒いドラゴンが身を挺してその足を受け止めた。骨がバキバキと音を立て、苦痛の悲鳴を上げる黒いドラゴン。それでも、結衣を守ろうと必死に踏ん張っている。


その隙を突き、一角獣がスライムを背に乗せ、古龍の開いた口へと突進した。スライムは、古龍の体内で自己増殖を始め、巨大な胃袋を内側から膨張させていく。激痛に悶え苦しむ古龍は、堪らず口からスライムの群れを吐き出し、咆哮を上げながら退却していった。


全てが終わった後、結衣は、満身創痍の黒いドラゴンに駆け寄り、優しく撫でた。クリスは、そんな結衣の姿を静かに見つめていた。


「あんた、すごいな」クリスが、初めて結衣に素直な言葉をかけた。


「みんながいたから…」結衣は、かすれた声で答えた。


その日を境に、二人の間には、これまでとは違う、特別な感情が芽生えた。互いの強さを認め合い、弱さを補い合う、固い友情。負けず嫌いな結衣にとって、クリスは依然として目標だったが、同時に、かけがえのない親友となったのだ。共に困難を乗り越えた二人の瞳には、未来への新たな光が宿っていた。


数年後。結衣とクリスは、世界防衛軍という、世界の平和維持を目的とした国際的な組織に所属していた。古龍グレンガレオン撃退の功績は世界中に知れ渡り、クリスはその圧倒的な魔法力から、大将のさらに上、特級大将という異例の階級に抜擢された。一方、結衣もまた、非魔法使いとしては異例の出世を果たし、中将の地位に就いていた。中将の多くが強力な魔剣士や魔法使いである中、結衣の存在は異彩を放っていた。世界防衛軍の主力は、依然として現代兵器だった。戦車、軍艦、戦闘機。それらは、魔法とは異なる力で世界を守るための要だった。


そんな中、世界防衛軍にとって新たな難敵が現れた。その名は、フランデール・ルフタシア。若い女の魔法使いで、その能力は、信じられないものだった。彼女は、触れた物の構造を分解する魔法を持っていたのだ。その力を使って、世界防衛軍の兵器を次々と分解し、希少な部品を闇市場で密売していた。その目的は、ただの金儲け。スケールの小さい悪党だった。


クリスと結衣は、この厄介な魔法使いの調査を依頼された。二人は、フランデールの潜伏先を突き止め、その圧倒的な力で彼女を追い詰めた。クリスの眩い光の魔法は逃げ場を奪い、結衣の正確無比な射撃はフランデールの動きを封じた。抵抗する間もなく、フランデールは捕縛され、世界防衛軍の本部へと連行された。


尋問室。結衣の母、アルファが静かに座っていた。彼女は、世界に数人しかいないと言われる、世界級魔法の一つ、幻想魔法の使い手だった。その能力は、常識を覆すものだった。彼女は、他者の持つ魔法を無条件で奪い取り、自分のものにすることができ、また、それを別の誰かに譲渡することさえ可能だった。


アルファは、目の前で震えるフランデールに冷たい視線を向けた。「貴様の魔法は、無駄な力だ」


フランデールは、恐怖に顔を歪めた。「やめて…私の魔法を奪わないで!」


アルファは、フランデールの懇願を無視し、その指先から淡い光を放った。フランデールの体から、目に見えない力が吸い取られていくのが、結衣には感じられた。フランデールは悲鳴を上げ、床に崩れ落ちた。


アルファは、奪い取った分解の魔法を、傍らに控えていた、非魔法使いの実力を持つ軍人に譲渡した。その軍人は、驚愕の表情から一転、決意を宿した瞳でアルファに敬礼した。その場で、彼は中将に任命された。


床にへたり込んだフランデールは、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにして叫んだ。「私は…無能者になりたくない!私の魔法を返して!」


アルファは、立ち上がり、冷たい眼差しでフランデールの頬を容赦なく殴りつけた。乾いた音が尋問室に響いた。


「人を舐めすぎだ」アルファの声は、氷のように冷たかった。「お前のような小物が、世界の秩序を乱そうなどと、片腹痛いわ。0から出直して、世界の広さを知れ、クソガキ…。」


フランデールは、ただただ泣きじゃくることしかできなかった。結衣は、母の容赦のなさと、フランデールの絶望的な姿を、複雑な思いで見つめていた。魔法を持つ者と持たぬ者。力を持つ者と持たぬ者。その差は、時に残酷なほどに大きかった。しかし、アルファの言葉には、確かに真実が宿っているようにも思えた。甘い考えでは、この世界で生き残ることはできないのだと。結衣は、自身の銃を握りしめ、その重さを改めて感じた。彼女には、魔法はない。だが、彼女には、決して揺るがない意志と、守りたいものがあった。それこそが、彼女の力なのだと、改めて心に刻んだ。

ごめんなさい、修正したら、読了時間3分超えました。

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