第34話―桜星の交錯/黒は彼岸に
――数日後。
「――オラァッ!!」
「クッ……!ハァッ!」
僕達は今日も模擬戦をしていた。先日はアリオスで、現在の相手はシュタリウス王だ。
「ガハハッ!さすが、戦闘センスはピカイチだな!やってて最ッ高に楽しいぜ!!」
「それは何よりです。まだまだ行きます――よッ!!」
言葉と共に、僕は瞬時に距離を詰め、左袈裟に斬り下ろす。それを対角線から受け、真っ向斬りに繋げるシュタリウス王。僕は最小限の動きで躱すと、今度は下からの斬り上げを放つ。シュタリウス王はバク宙で避け、お互いに突進し、鍔迫り合いへと移行する。
今僕達は、互いに神剣を用いて仕合っていた。先日の黒衣の魔女――〝漆黒の魔女〟ヴァルヘイトが消える直前、シュタリウス王が神剣を呼び出し斬りかかろうとすると、「ソレはマズいな」と、危惧するようなことを言っていた。封印が解けたばかりというのもあるのだろうが、恐らくかなり弱点なのだろう。
「ッし、じゃあそろそろ――決めるか」
「………ええ」
瞬間、場の雰囲気が一気に変わる。僕達は再び距離を取り、僕は半身で、シュタリウス王は剣を頭上に掲げるように、改めて構え直す。
緊張が極限まで達した時、お互いに声を発する。
「勇星神剣、極致【爛天星燎】――」
「想奏神剣、極致【喜輝想晴】――」
いつでも来いと言わんばかりのシュタリウス王の構えに、僕は躊躇う事なく突っ込む。
「面白えッ!!一発勝負だッ!!煌け――“星嵐天煌”ッッ!!!」
僕の突進に合わせて、恐るべき速さで数多の星を纏った金色の剣を振り下ろす。僕は迎え撃つように、下から斬り上げながら――
「――“富希菊”ッッ!!」
互いの剣が衝突した瞬間、轟音と共に辺りに衝撃波が走る。金色の星を薄紅色の花弁が包んでいくが、どちらも止まることを知らない。
「オ……オアァァッッ!!!」
「セ……ヤアァァッッ!!!」
薄紅色と金色の輝きがどんどん増していき、互いに譲るまいと交錯する。
やがて、光が収束し、そこにあったのは、シュタリウス王の腹部に当たりかける桜色の刃と、僕の首に添えられる金色の刃だった。
「………………」
「………………」
お互いに何も言葉を発することなく、数十秒の時が過ぎる。そしてどちらから示し合わせるともなく、同じタイミングで声を発する。
「「……引き分け、」」
「だな」「ですね」
互いの同じ言葉に、僕達は自然と笑みが溢れる。
「ガッハッハ!!面白え!!ここまで俺に着いてこれた奴ぁ初めてだ!!お前さん強いな!!」
「お褒めに預かり光栄です。神剣同士でやり合うことなんて殆ど無いでしょうから、とても貴重な経験で楽しかったですよ」
二人で戦いの余韻に浸っていると。
「ヴァイ様ー!!マズいよ!何だかヤバいことになってるよー!!」
慌てた様子で、物凄い速さでジャックが走ってくる。
「ちょ、ちょっと落ち着いて下さい!一体、何があったのです?」
「はあっ、はあっ……!……すー……、はー………。ごめんね、ボクはもう大丈夫……ってそうだった!こんな事してる場合じゃないんだ!!二人共、今すぐに玉座の間に来て!!」
――――――――――――――――――――――
――数時間後。“聖界”サザンクロシニアス連合王国、王城、玉座の間。
「――さて、そろそろ奴さんらは騒いでる頃かなァ?」
「アッハ、全く無茶するッスよねぇ。城を支配したと思ったらァ、今度は民衆の不安を逆撫でして戦争まで持っていくんッスから。面白すぎて腹捩れるかと思ったッスよぉ」
「そりゃあいい。そのまま死んでしまえ」
「アッハァ、そりゃ酷くないッスかァ?」
飄々としたまま肩をガックリと落とすイール。その様子見ていたアリオスが仲裁に入る。
「まあまあ、彼もこれでも役に立つんだからさ。そんな事言ってあげないでよ、ね?」
「ガッハッハ!お前も言うようになったなぁ!!」
豪快に笑いながら、シュタリウスはガシッとアリオスに肩を組む。
そこに、コツ、コツ――と、足音が響く。
「……お?お前さん、誰だ?あの数の兵士超えてくるなんて、お前さんタダモンじゃねェな?」
シュタリウスは急に現れた者を警戒し、睨みながら言う。
「何、アレぐらい大したことは無い。それにそう目くじらを立てるな。今、汝らと事を構える気は無い。利害の一致、という奴よ。それに――」
「「ッ!?」」
「……へぇ」
瞬間、乱入者の雰囲気が変わり、玉座の間を殺気で支配する。
「――本当に殺り合う気ならば、端から容赦はしておらぬ」
「……わぁ〜ったよ、お前さんに敵う気がしねえ。とりあえずはお前さんと協力しようか。俺はシュタリウス。こっちの右にいる細目のバカがイール、んでこっちがアリオスだ」
「ちょっ、バカは要らないッスよォ!ま、よろしくッス」
「よろしく頼むよ」
「んで、お前さんの名は?」
乱入者は黒く淀んだ眼を三人に向け、名乗る。
「――ヴァルヘイト・ルティ・イス・ラ・ジルレディア」
「………ジルレディア、だと………!?」