第33話―静寂へ誘うは大いなる罪業
僕が倒れたことで、夜が消える。ヴァルヘイトが消えた後、皆が僕の下へ駆け寄る。
「ヴァイ……!」
「大丈夫です、ご心配をおかけしてすみません。〚治癒〛」
僕は【光魔法】で、自身に穿たれた傷を癒す。だが、傷は無くなったが、どこか……何か、小さな虚無感のような、モヤモヤしたモノが胸に残る。
「……これは………?」
「どうした、ヴァイ?」
胸に手を当てながら呟く僕に、シュタリウス王が不思議そうな顔をする。
「……いえ、何でも」
僕はその違和感を無視し、アリオスに向き直る。
「アリオス、頼みがあります」
「ん?何だい?」
「細剣との戦い方を学びたいのです。力を貸していただけませんか?」
「ああ、そういうことね。もちろん、俺でよければ力になるよ」
「助かります」
「では、血界は解除しない方がいいかな?」
ヴァン殿が氷の空を指しながら問う。
「そうしてくれるとありがたいです。ここだと余波などを気にせずに仕合えますので」
「相解った。思う存分に暴れるといいさ」
「ありがとうございます。では、少し離れた場所でやりましょうか」
「俺もいいか?お前さんらの仕合を見てえんだ」
シュタリウス王の問いに、僕は二つ返事で答える。
「ええ、構いませんよ。もしよければ、貴方ともやってみたいところではあったので」
――――――――――――――――――――――
数分後。場所を変え、僕とアリオスは向き合っている。
姉さんは“裏極致”すらも軽く伸されたことに自身の力不足を感じたのか、ラグナ殿と真剣での仕合をするようだ。
「じゃ、行くよ――姿を変えよ、万変剣、変化・刺ノ型」
アリオスの詠唱により、彼の長剣が限りなく細い剣へと変化する。
「イズ」
「はっ」
呼ぶと、イズはすぐに漆黒の魔剣へと変化する。僕はそれを握り、半身で構える。
「では、行きます――フッ!」
「ッ!テアッ!」
僕は左袈裟で仕掛ける。対するアリオスは落ち着いた様子で弾くと、その勢いのまま突きを放ってくる。僕は身体を右へスライドし、危なげなく避けると、左の逆袈裟を放つ。
――細剣の特徴はその細さ。故に鋭さは普通の長剣とは比較にならない。その鋭さを活かし、突きを多用した攻撃が多く、突きの連続に斬撃を織り交ぜるなど、多彩かつ独特な攻撃が厄介ですね。
アリオスは僕の左逆袈裟をバックステップで避けると、こちらへ突進しながら、魔力を消す。
「万変剣、極致・刺ノ型――“万華鏡”ッ!!」
「クッ……!」
神速の連続突き。何とか弾こうとするも、幾つかは漏れてしまい、僕の両肩と腹部で計五ヶ所が穿たれ、血が噴き出す。
「ッ……難しい、ですね……。突きばかりだと、こちらのリズムに引き込めない」
「そうだね。それが細剣の厄介な所だ。さあ、君はコレをどう攻略する?」
言いながら、アリオスは細剣を肩と並行に構える。
「掴んでみせますよ……、戦い方を!――セアッ!」
――――――――――――――――――――――
――同時刻。“聖界”サザンクロシニアス連合王国、王城門。
「――さァて、頼むぞ、アリオス」
「ああ、任せてよ。じゃ――」
そして複製体のアリオスは、自身の手を正面に翳し。
「――喰らい尽くせ、〚暴食〛」
その瞬間、アリオスの手から、皆喰らい尽くさんとブラックホールが如き漆黒が伸びていき、城中の騎士達を皆飲み込んでいく。急な奇襲に、皆成す術なく呑み込まれ、辺りは阿鼻叫喚と化す。
「これはっ……!陛下………ッ!!」
「………しくじったな。奴らが攻めてくるのは今が好機だった。油断してしまった………」
リーデン、そしてクライアも、抵抗空しく闇に呑み込まれていき、王城の敷地内は、ただ不気味な静寂に支配されるのだった。