第31話―翳る憎悪、断ちしは神の極光
「――〝漆黒の魔女〟の……封印が、解けたみたいです」
「うそ………このタイミングで……!?」
絶句するカレン様。まさにその〝漆黒の魔女〟の話をしていたタイミングでの復活だ、無理もない。
それに、先程の禁書庫の火災。奪われた〝黒ノ禁術〟。更にこのタイミングでの、〝漆黒の魔女〟の復活。流石に、繋がっているとしか思えない。だとするなら――
「恐らく、“禁術ノ書”を奪った何者かがソレを使ったことで、共鳴し復活した、といったところか」
「ええ、同意見です」
ラグナ殿が僕の考えを完璧に当ててみせる。僕の同意に、彼女はニヤリと笑みを浮かべる。
「フッ、貴殿のお墨付きならば間違いはあるまい。……陛下、すぐに助太刀に行かねば」
「ええ……そうね。じゃあ、皆転移するわよ」
「「「御意」」」
「はーい!」
そう言って僕達は、転移魔法を発動しようとした、その時。
「俺も行こう。助太刀は多い方がいいだろ?」
「ですが………」
「なーに、昨日の借りを返す良い機会よ。――リーデン、クライア!」
「「はっ、ここに」」
シュタリウス王が呼ぶと、二人はまるで瞬間移動の如く現れる。
「少し留守にする。しばらく頼むぞ」
「御意に」
「その御力、存分にお振るい下さいませ」
「おう。……っし、じゃ、行くか!」
シュタリウス王は楽しみだとばかりに、右拳を左手の平に打ち付ける。
「では、行きましょう。シュタリウス王、僕に掴まってください」
「おう、頼んだぜ」
僕はシュタリウス王に促し、掴まってもらう。そのまま全員で、転移魔法を発動し、僕の幻想体の座標を基に移動する。
転移した先は、赤い氷の世界だった。ヴァン殿の権能の一つ、〚血界〛。
そこで見たのは、イズ達が一人の魔族を相手し、手こずっている様子。僕は内心少し驚く。今更だが、イズとルークは剣そのものだ。戦いに関しては群を抜いている二人が、ヴァン殿やメロウ殿といった強者もーいる状況で押されている。その事実が、奴は只者では無いことを示している。
僕達はイズ達のもとへ駆け寄り、声をかける。
「イズ!ルーク!」
「我が主」
「ご主人様達、お気をつけを。こいつ、斬っても死なないのです」
「……?」
「影淵剣、極致其の弍、“獄淵・飛燕一刀”」
どういうこと――と聞く前に、イズが黒炎を飛ばし、奴に斬撃を入れる。
「甘いと言っておる。その程度で通じると思うな」
すると、確かに斬った黒衣の男の腹は、ドロリとした粘質によって元に戻っていく。たちまち傷は見えなくなり、斬撃痕すらも無くなっていた。
「どういう能力なんだそれは………」
姉さんが呟く。その言葉に、男が僕達を見る。
「……汝ら、〝魔女〟だな?」
「……だとしたら何なのです。僕はヴァイ。〝紫の末裔〟です」
「同じく〝紫の末裔〟、レイティアだ。私達は名乗ったぞ。お前も名乗れ。お前は誰だ?」
「余が誰か、だと?」
男は黒く濁った目で僕達を見やる。見覚えのある、その眼。その眼には、確かな憎悪が宿っていた。
「余は〝漆黒の魔女〟が始祖、ヴァルヘイト。まあ、跡継ぎはおらん故、一代限りの〝魔女〟だがな。挨拶も済んだ、では――」
ヴァルヘイトと名乗った彼の影から、ドロリと何かが浮かび上がる。ソレは次第に剣の形を成していき、やがて剣身のとても細い、一振りの剣となる。
その細剣を握ったヴァルヘイトは、一瞬にして僕達へと間合いを詰める。
「ッ――!!」
――速いッ!!
「――汝らから始末してくれようぞ!!」
「イズッ!!」
イズを瞬時に魔剣へと戻し、間一髪の所で剣を受ける。
――重いッ!?
何という重さだ。本当に細剣を振るったのかと思うほどに重い。それでも、僕は何とか彼の剣を弾き返し、体勢を整える。
「魔剣の紹介がまだであったな。これぞ、我が憎しみの果て――憎蝕剣フリチラリアなり」
ヴァルヘイトは漆黒の細剣の切っ先をこちらに向けながら言う。
「戦闘中に駄弁るとは、余裕だな?」
先ほどの言葉を挑発と受け取ったのか、姉さんが睨みながら問う。
「余裕よ。今の汝らを斃すなぞ、児戯に等しい。しかし、余は今気分が良い。封印から解放され、久しく感じていなかったこの憎しみを感じているのだから。故に、少し遊んでやろうぞ。来るが良い」
完全な挑発。その言葉に、姉さんが完全にキレる。
「だったら、お望み通り行ってやるよ!!万物照らすは、灼き焦がし尽くさんと燃え盛る神の極光――」
純白の魔剣となったルークを握り、走りながら詠唱を始める姉さん。その瞬間、その手に握る魔剣が虹色に輝き始める。
「陽天剣極致、焉裏其の壱ッ!!」
放つは――奥義たる極致の秘頂、“裏極致”。
虹色から紅い輝きに変化した剣を握り、思い切り跳躍する。空高く剣を振り上げ、落下と共に、力任せに振り下ろす。
「――“烈天轟刃”ッッ!!!」