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第29話―憎悪に塗れし、漆黒の魔女

 ――同時刻。聖界サザンクロシニアス連合王国、某所。


「ほいほーい、持ってきたッスよォ、例のブツー」

「重畳だ。アッチはどんな感じだった?」

「ぶっちゃけ結構危なかったッスよー。一瞬バレるかとヒヤヒヤしたッスもん」


 相変わらず本当かどうか判らない調子で言いながら、イールはその手に持つ“禁術ノ書(インデックスリスト)”――〝黒ノ禁術(シュヴァルツ)〟をシュタリウスに渡す。


「シュタリウス、何だい、それは?」


 感情の見えない虚ろな眼でアリオスが問う。シュタリウスはニヤリと笑いながら、今受け取った“禁術ノ書(インデックスリスト)”をアリオスに渡す。


「まあまあ、とりあえずソレ、開いてみな?」

「……?解った」


 アリオス不思議そうな顔のまま受け取ったソレを開く。瞬間、何やらヌルリと粘性を帯びた、漆黒のオーラのようなモノが〝黒ノ禁術書インデックス・シュヴァルツ〟から溢れ、蝕むようにアリオスに纏わりつく。


「グッ!?アァッ……!!!グアアアアァァァァッッッ!!!!」


 果たして、彼をどんな苦痛が襲っているのか。想像を絶するほどの苦痛なのだろう、藻掻くように暴れながら悲鳴を上げる。


「アアアアアァァァァッッッ!!!アアアアアァァァァッッ!!!!」


 アリオスが藻掻き続けている間も、漆黒の靄は絶え間なくアリオスを蝕み続ける。およそ十分ほど経っただろうか。完全に蝕み切ったのか、靄は止まった。


「ァ……ゥ、ッ………ァ…………」


 それと同時にアリオスは倒れたまま沈黙し、動かなくなる。


「おいおい、死んじまったか?……ったく、せっかくお前さんに似合う“禁術インデックス”を与えてやったのに……興醒めだな」


 やれやれ、とばかりに肩をすくめながら首を振り、ため息を吐くシュタリウス。だが、次の瞬間。

 ゴウッ!!という衝撃が空間を走り、シュタリウスとイールは吹っ飛ばされ、後ろの壁に背中を強かに打ち付ける。


「うおッ……!……カッ……!」

「ガハッ……!クッ……。……ハッ、やっぱ、制御できんじゃねえか……!」


 壁に打ち付けられ、地面に落ちたシュタリウスがアリオスに眼を向けると、ゆっくりと、だが確実に起き上がっている。


「………殺す」


 起き上がり、見えたその眼は、さながら〝無〟だった。何も映さない、それどころか全てを吸い込むような、闇。元々憎悪に塗れていたその眼は、もはや誰にも手が付けられないほどに憎悪しか無かった。


「アッハァ……。こりゃえげつない“禁術モン”持ってきちゃったッスねえ……」

「ああ、こいつぁ凄え。さすが、古代系統外属性魔法【黒】――」


 シュタリウスは悪魔の如き嗤いをその顔に浮かべる。





「――歴史から消されし、〝漆黒の魔女(シュヴァルツ)〟の魔法だ」


 ――――――――――――――――――――――

「……〝黒ノ禁術(シュヴァルツ)〟、その正体は――遥か昔に封印され、歴史から抹消された〝魔女の一族〟、〝漆黒の魔女(シュヴァルツ)〟の扱う古代系統外属性魔法。能力は、憎悪や憤怒、そういった負の感情の増幅よ」

「「〝漆黒の魔女(シュヴァルツ)〟……?」」


 僕と姉さんがカレン様の言葉を繰り返す。初めて聞いた。〝漆黒の魔女(シュヴァルツ)〟。現在いまに生きる僕達以外の、〝魔女の一族〟。僕達の反応にカレン様が頷き、続ける。


「同じ魔女でありながら、他の全ての〝魔女の一族〟を憎む者。それが、〝漆黒の魔女(シュヴァルツ)〟。王書庫で少し読んだのと、お父様に少し話を聞いただけだけどね。私が知っているのは、彼――アリオスもそうだったように〝無魔力〟で、両親だけじゃなく、他の魔女達からも虐げられていたらしいの。魔女の風上にも置けないって」


 言いながらカレン様は、アリオスを流し見る。少し表情が強張こわばるアリオス。カレン様の言葉は続く。


「彼は憎んだ。魔女の皆を。自らの体質を。――この世界を」


 語っていく内に読んだ内容を思い出したのか、その眼に涙が溜まっていく。


「っ………その、想いが……憎しみが、世界に、通じたのかな……。彼の……全てを塗り潰すほどの、憎しみの結晶が、“禁術インデックス”……古代系統外属性魔法、【黒】。通称、〝黒ノ禁術(シュヴァルツ)〟。………〝無魔力〟だったのに、【黒魔法】を会得してからは、魔力が“魂”を満たして、魔法が使えるようになったみたい」


 たちまちの内にその涙は瞳から零れ、カレン様の頬を伝って落ちる。


「……お父様が、言ってた。………救えなかった。何もできなくて………救えなくて、申し訳無い、って……。友一人救えずして、何が王だ、って………。お父様も泣いてた。人前では絶対、泣かないあの人が……私の前で、泣いてたの」

「グリエド様が………」


 僕は驚いた。いや、驚いたのは僕だけではない。シュタリウス王が、ラグナ殿が、ジャック殿が、そして姉さんが、皆一様に眼を見開いている。それほどまでに、あの御方は気丈だった。誰の前でも、弱気を見せなかった。弱音を吐かなかった。故に、あの御方は、最期まで王だった。だが……よしんば僕達がそんな言葉を吐いたところで、気休めにすらならないだろう。それほどまでに、あの御方の負った傷というのは、深いはずだ。


「お父様が、彼を封印したんだって。最後の最後まで……、彼の眼は、憎しみに染まってた。でも、完全に封印される直前、微かに口が動いた、って。何て、言ったかは……解らなかった、って」

「……その、彼は、今どこに?」


 目を伏せながら、カレン様が答える。


「“魔界ロゼルナ”の王城。その地下に、今も封印されたままなの」


 その時、僕の胸元が鮮やかな紫色に光る。“魔界”からの連絡だ。


「すみません、少し失礼します。……どうしましたか?」


 僕は右手の指を耳に当て、呼びかける。すると、何やら焦燥に駆られた声が、あちらから聞こえてくる。


『ヴァイ君!緊急事態よ!!何か、城の地下から爆発音みたいなのが聞こえたと思ったら、真っ黒な服の男が出てきた!!今ヴァンやイズ達が何とか抑えてるけど……かなり押されてる!!』

「なっ………!?」

「………どうしたの?」


 驚愕する僕に、カレン様が問う。他の皆も不思議そうな顔でこちらを見ている。意を決して、僕は答える。


「――〝漆黒の魔女(シュヴァルツ)〟の……封印が、解けたみたいです」

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