第25話―失われていた歴史
「……ふう。この姿の方が、接しやすかろう?」
「「「………こ、子供………?」」」
突如光り輝いた彼岸刀が変化した姿は、赤髪赤眼の少女――いや、幼女だった。
僕達は困惑する。先ほどまで威厳のある刀と話していたのに、その正体が幼女だったのだ。無理もない。
「わっはっは!我の威厳ある姿に声も出まいか!」
――いや、威厳の欠片もないのだが。
と思ったのは、恐らく僕だけではないだろ――
「いや、威厳の欠片もねえが?」
……………。
「な、何いいぃぃ!?」
………言ってしまった。
ややオーバーリアクション気味に驚く幼女。……どこから突っ込めばいいものか。一先ず僕は、驚き続けている彼女に話しかける。
「え、えーっと……、貴女は、彼岸刀が魔人化した姿、という認識でよろしいのですね?」
「うむ!我が名は彼岸刀・舞儚一文字!この姿ではムーアとでも呼ぶが良い!」
えっへん!と効果音が付きそうなくらいに腰に手を当ててない胸を張る。
「……む?其方今、何か無礼なことを考えておらなんだか?」
「滅相もございません」
僕は被せ気味に否定する。……勘はかなり鋭いようだ。僕は一つ咳払いをして、話題を変える。
「それはそうと……なぜ急に魔人体に?」
「ああ、そういえば忘れておった」
そう言って、急にシュタリウス王を指差すムーア。自分を指しながら困惑するシュタリウス王。
「俺?」
「其方――皇帝の末裔じゃな?」
「……は?」
「皇帝とは………フィルシスターヴァ帝国か?」
ラグナ殿が問うと、ムーアは彼女に向き、フッと笑いながら答える。
「懐かしい名よ。ジルレディアの方が馴染み深いのではないか?」
「馴染み深いも何も、私達は魔族故、そもそも“聖界”には疎くてな。リコリスジルレディアも、フィルシスターヴァも、貴女を迎えに行く前に調べた付け焼き刃の知識だ」
「ほう?ではどこまで知っておる?」
「知ってると言えるほどのモノでもないさ。以前、この“聖界”が連合王国となる前、大陸の中で一番力を持っていたのがその帝国ということぐらいだよ」
肩をすくめながら言うラグナ殿。続けてムーアが問う。
「では、我の以前の使い手の名は?」
「そこまでは書いてなかったな……」
「……たしか、今の国の名前――サザンクロスが、皇帝の名前じゃなかったか?」
ここで、シュタリウス王が答える。彼の回答に、我が意を得たり、とばかりにムーアは頷く。
「その通りじゃ。正確に言えば、サザンクロス・ルティ・イス・ラ・フィルシスターヴァ二世。それが我が以前の相棒の名だ。ジルレディアに変わってからは、サザンクロス・ルティ・イス・ラ・ジルレディアじゃな。これが十四代まで続き、十三代目の皇帝によって、今で言うこの“聖界”が統一された。今のこのサザンクロシニアスという国は、武による統一を嫌った十五代目皇帝、いや、初代国王によって成された国、という事じゃ。そして、その十五代目の名前が――」
隠されていたであろう歴史が、次々と明らかになっていく。
「――ヴィルティス・ルティ・イス・ラ・ジルレディア。またの名を、ヴィルティス・リル・ウル・サザンクロスじゃ」
「ちょ、ちょっと待て。ってことは、俺らサザンクロス王家ってのは………」
「先程も言ったであろう?皇帝の末裔じゃと。即ち、フィルシスターヴァ帝国が初代皇帝、その名残じゃ」
「マジかよ………。王書庫にも書かれてねえぞそんなこと……」
「失伝しておっても無理はない。何も、都合の良いことばかりが歴史ではないからの」
話について行けてない僕達は、頭に疑問符を浮かべながら二人に質問する。
「その、ヴィルティスという方は?」
「なんだ、お前さんら知らんのか」
そう言ってシュタリウス王は、真剣な眼差しになって語る。
「ヴィルティス・リル・ウル・サザンクロス。この国の初代国王にして、グリエド先王の親友、と言われてる御方だ」