第24話―紅き情熱の刀の正体?
「――ヴァイ殿、少し慣らしに付き合ってもらえないだろうか」
王城に戻るなり、ラグナ殿が言う。
目的の彼岸刀を手にした後、僕達は転移魔法で王城へ戻ってきていた。
「ええ、構いませんよ。僕も少し気になってましたので」
「重ね重ねすまない、恩に着る」
そう言って僕達は訓練場へと向かう。訓練場へ着くと、“聖界”の騎士達がいつも通り鍛錬をしていた。
僕達は空いている一画を借り、お互いに向き合う。
「慣らしとは言っても、私がここから一つ“極致”を放つだけだ。握った時に、ある程度は繋がれたからな」
「……さすが、“千龍”のラグナ殿、ですね。承知しました。――深淵に溺れろ、影淵剣アビスレイジ」
僕が目の前に掲げた手に、漆黒の魔剣が握られる。対するラグナ殿は、居合のような構えを取り、眼を閉じる。
「玉座で煌く妖しき光は、主を待ち侘びる孤独な輝き。我が手に来たりし紅は、久しく忘れし情熱を燃やす。燃え盛れ天蓋の花、愁雨と共に狂い咲け――彼岸刀、舞儚一文字」
鞘ごと刀が彼女の左腰に現れ、同時に柄を握って抜き放つ。シャリイイィン!と高らかに鳴り響く抜刀音と共に見えた紅い刀身は、二度目だがやはり美しく、何度見ても見惚れてしまう。
「……美しいな、お前は」
『フッ、そうであろう。なればこそ、我の認める主にしか扱わせぬ』
「ああ。認めてくれて、ありがとう」
ラグナ殿が刀と会話する。しばらくして、彼女は僕に向き直る。
「……さて、待たせたな。準備はいいか?」
「ええ、いつでも」
「では――行くぞ」
僕は半身に構える。対するラグナ殿は、自身の真上に刀を構えている。
「彼岸刀、極致其の壱――」
「影淵剣、極致其の伍――」
お互いに魔力を消し、極致を放つ。
「――“儚火冥乱”ッッ!!」
「――“淵葬閻舞”ッ!」
闇と紅炎が衝突し、拮抗する。ギャリイイィィンッッ!!!と高らかに音を響かせ、互いの剣から火花が散る。突如、僕の剣から出る闇が、彼女の刀が纏う火と共に消えていく。
「セアッ!!」
やがて完全に闇が消え、未だ纏われる火刀が振り抜かれ、僕の魔剣が弾かれる。そして僕の手から離れ、少し遠くに突き刺さる。
「……お見事です」
「ああ、これは凄まじい。さすが帝王の一太刀だ」
『……ほう?我を握ってすぐに“極致”を放つとは。其方、中々の使い手だな?』
「そう思ったから貴方は私を選んだのだろう?」
少し呆れ気味に言うラグナ殿。そして訪れる沈黙。
『……フッ、フハハハッ!それもそうよ!』
……剣が笑っている。イズとルークも剣ではあるが、それでもあの二人は魔人体となっているから話せる。剣のまま話す剣……それも感情表現が豊かな剣というのを、他に誰が知っていようか。
やがてひとしきり笑った後、刀が真面目――そうな雰囲気になって言う。
『だが、それでもよ。其方が我を握り、一瞬にして我を従わせた時は驚いたぞ。前の我が主ですら、この我を従わすのには苦労していたというに。其方に握られた瞬間、此奴だ、と何故か妙に納得したものよ』
「私のスキルだろうな。貴方とは既に“魂の繋がり”があるから解ると思うが、私のスキルは『鮮雷剣神』と言ってな。魔剣や聖剣など、握ってすぐにその“魂”に触れることができるのだ」
ラグナ殿が言うと、彼岸刀がなるほど、と頷いた、気がした。
『この時代の〝剣神〟は其方か。なるほど、我も納得したわけよ』
「「〝剣神〟……?」」
僕達が疑問の声を上げると同時に、後ろから声がかけられる。
「――その様子じゃ、首尾よく妖刀を手にしたみたいだな」
「シュタリウス王。ええ、なんとか無事に、ね」
そう言ってラグナ殿は、その手に握る紅の刀を掲げる。
『……ほう?』
「「ッ!?」」
次の瞬間、ラグナ殿の掲げていた妖刀が輝き始め、彼女の手から離れ、地面へと光が移動する。すると、光は徐々に人の形を模っていく。やがて、光が収まり、現れたのは――
「……ふう。この姿の方が、接しやすかろう?」
「「「………こ、子供………?」」」
――そこには、赤髪赤眼の幼女が立っていた。