第20話―矛盾する記憶
「そもそも、確かにアリオスを拾ったのは俺だ。だが――コイツに〝大罪〟の力を与えたのは、俺じゃない」
「………え?」
アリオスが困惑の声を上げる。当然だ。以前、アリオスは「“境界”でシュタリウスに拾われ、その時に貰った力が〝大罪〟だ」と言っていた。
それが今、シュタリウス王当人の発言でひっくり返ったのだ。混乱するのも無理はない。斯く言う僕達も、皆混乱している。
「いや、でも、アンタ俺に言ったよな?『力が欲しいか。全てを我が物にできる、圧倒的な力が』って。アレはどういうことだ?」
「アレは俺のスキルの権能で与えようとしたんだよ。っとそうだ、俺のスキルについて話とかなきゃな。――勇星神剣、エクスキャリヴァルド」
「神剣……?」
シュタリウス王が召喚した剣は、柄頭から切っ先まで黄金に染まっている。その剣からは、僕の想奏神剣と同じ力を感じる。
「俺のスキルは、『勇敢なる星導神』。主な権能は、この〚勇星神剣〛と、〚導きし者の恩恵〛。まあ簡単に言やあ、俺の手を取った奴に、俺のスキルの一部を分け与える事ができる訳だ」
「「「なっ……!?」」」
僕を含めた全員の表情が驚愕に染まる。スキルを分け与えるスキル。条件付きとはいえ、馬鹿げている。
シュタリウス王の話は続く。
「そんなわけで、俺はこの力でお前にスキルを付与しようとした。もちろん、スキルだって使いこなせなけりゃ宝の持ち腐れだ。だから戦闘面でも俺が鍛えてやるって意味でのあの言葉だったんだが……お前どこであの力貰ってきたんだ?」
「いや……俺も知らないよ……。俺はアンタに貰ったって記憶してるんだから……」
「記憶に齟齬があるな……。誰かに操られてんのか……?」
ここで、僕は“聖界”に来た時のことを思い出した。
「そう言えば……」
「どうしたのだ、ヴァイ殿?」
ラグナ殿が不思議そうな顔をしてこちらを振り向く。
「カレン様達は知ってると思うのですが、国に入る前の結界の中で〚幻視〛をかける前、彼の記憶を覗いた時に吹っ飛ばされまして」
「ああ、そう言えばそんなことがあったな。アレは一体何が起きたんだ?」
姉さんが身を乗り出しながら口を挟む。
「あの時、彼の記憶で、少し不可解な記憶のカケラがあって。それを覗いたら、弾かれたんです。恐らく、記憶が封印されてるようなのですが……」
「俺の記憶が?誰に?」
「いえ、僕もそこまでは……」
「記憶の封印、だと……?」
シュタリウス王が何やら深刻そうな表情を浮かべる。
「何か心当たりがあるのですか?」
「……恐らく、いや、間違いねえな。オヤジの権能だろうよ、それは」
「あの人の……?」
アリオスは信じられないといった顔をする。協力関係にいた人が敵かもしれないのだ、無理はないだろう。
「どんな人なのですか?」
「狡猾、この一言に尽きるな。自陣に引き込むのが得意で、王位継承戦もそれで勝ち上がった奴だからな。正直、俺も好かねえ」
思い出したのか、苦虫を噛み潰したような表情をするシュタリウス王。
「それで、あの人のスキルは?」
アリオスが問いかける。
「俺もあんま覚えちゃいねえんだが……たしか幻惑系のスキルだったか。名前は……『狡猾なる誘惑神』、だったと思う」
「『狡猾なる誘惑神』………。僕と同系統のスキルですか。仲良くはなれなさそうです」
苦笑しながら僕は言う。僕の言葉に、皆同感だとばかりに首を縦に振る。
「では、その前の国王というのは、今は妾達の敵ということでいいんじゃな?」
「多分な。断定はできねえ。とはいえ、ほぼそう見て間違いはねえだろうよ。だがその前に、複製体の俺のことを考えなきゃいけねえ。あの時、玉座の間で話せなかったのも、おいそれと禁忌について口にできねえからだ。まあ、明らかになった今、こうして色々話しているわけだが。それと……」
ここで急に、シュタリウス王が真剣な眼差しで僕らを見回す。
「先に言っておく。お前さんらでは、俺は倒せねえ」