第19話―明かされる過去
数時間後。
僕達はあれから倒されたリーデンとクライアを癒して医務室へ運んだ後、改めてシュタリウス王の執務室へと来ていた。姉さんは、カレン様の権能にて既に傷も完治しており、僕達と一緒にいる。
僕達の前には、シュタリウス王が窓から国を見下ろしていた。
「……さて、俺達はまだ何が何だか解ってないんだ。説明してもらおうか、シュタリウス?」
アリオスが一歩前に出てシュタリウス王を軽く睨む。窓の外を見ていたシュタリウス王はこちらへ向き直る。
「……そうだな。そうなんだが、どっから説明すればいいものやら……」
腕を組んで唸るシュタリウス王。ならばとばかりに、僕は彼に問いかける。
「では、教えていただきましょうか。数ヶ月前、貴方は何故、我々に宣戦布告をしたのです?」
僕の投げかけた質問に、シュタリウス王がピクリと眉を動かす。やがて一つため息を吐き、執務用の椅子に座って話し始める。
「………それが、この国の民意であったからだ」
「と……言いますと?」
彼は足を組み、その足に頬杖をつく。
「かつて、俺達の国は繋がっていた。それは知ってるだろ?」
「ええ」
僕達は頷く。
「だが、〝魔女狩り〟とやらにお前さんら〝魔女〟の血筋が殺されてグリエド先王がブチ切れた。そんでまあ、俺達は話し合った上で、二つの国を断絶することにしたんだが。その前に、何度かグリエド先王がこっちに武力行使に出たんだな。まあこれはお前さん達は知ってるか」
シュタリウス王が話しながらその足を組み替える。
「もちろん、死人は出ないようによく配慮してくれてたよ。だが、やはりというべきか、まあ戦えない国民の恐怖の対象となってな。生かしてちゃダメだ、殺してくれって。安心して生活もできない、ってな。あの人が死んだ後、そこの嬢ちゃんが魔王に就いたときも、また喚いて。簡単に言やあ、ストライキ寸前だったわけだ。さすがにそんな不満が溜まってちゃ、後々面倒だからよ……。少しばかり、利用させてもらった。………これは王として謝罪しよう。申し訳なかった」
シュタリウス王は椅子から立ち、僕達に向かって頭を下げる。部屋を沈黙が支配する。
やがて、数分の沈黙の後、カレン様が口を開く。
「……良い。国民の為なら、致し方無い……とまで言うわけではないが、だが、その苦悩というのは、同じ王という立場である妾にも理解できるからな………」
「………恩に着る」
王である二人が苦笑する。若くして王の座に就き、誰にも言えなかったのだろう。同じ悩みを共有する対等な立場の方がいることで、肩の力が少し抜けたのではないか。
そして今度は、ラグナ殿が質問する。
「では、私も教えていただきたいのだが。貴君達と〝魔女狩り〟とは、どういった関係にあるのだろうか?」
シュタリウス王はこちらに向き直り、頭を掻きながら、バツが悪そうに説明し始める。
「それがだな……。俺自身あんまよく解っちゃいねえんだ」
「ほう?それは何故?」
「っていうのも、一応俺と〝魔女狩り〟に協力関係ってのは一切無い。というか、誰が〝魔女狩り〟かってのも俺ぁ知らねえんだ。なあ、アリオス?」
「何でそこで俺に振るんだよ………。まあ、そうだね。何なら俺も知らないし。……あー……でも、前の王とは協力はしてたかな。あの戦いに俺がいたのも、あの人の指示だっ――」
「オヤジと協力してただと!?初耳なんだが!?」
「ちょっ………近いっての!!」
アリオスが肩を掴むシュタリウス王を引き剥がす。
「では、あの“境界”での戦い、アンタは関与していないんだな?」
姉さんが少し強く問いかける。
「あ、ああ。厳密には宣戦布告をしたのは俺だから、関与してないわけじゃないが……〝魔女狩り〟に行けなんて言ってないし、そもそもアリオスがどんな行動をしてるかすら知らなかった」
「なるほど、理解した。では、次の質問だ。少々予想はつきつつあるが……何故、あの時彼を――アリオスを殺した?」
ラグナ殿が魔力を少し解放しながら凄む。鋭い殺気のような魔力が空間を支配する。
「あの矢。先ほども彼が言ったが、貴君ら王族の紋があった。それに、矢を放った後。『負け犬の駒など、もはや不要だ』と、そう言っていた。それは確かにシュタリウス王、貴君の声でだ。コレに対して貴君はどう釈明する?」
「………それは、俺じゃない。そもそも、アリオスを拾ったのは確かに俺だ。だが――」
ここで、衝撃の事実が明かされる。
「――だが、コイツに〝大罪〟の力を与えたのは、俺じゃない」