第18話―禁忌の秘儀
「想奏神剣、極致【赫怒想吼】――“心華芍灼”ッッッ!!!」
僕の握る長剣が鮮やかな紫色に染まり、辺りを同じ紫色の芍薬の花弁が舞い始める。
その花弁が剣身に触れる度に、紫炎が大きくなっていく。僕は凛と燃える紫炎を纏った長剣を振りかぶり、イールへ真正面で斬り下ろす。奴は腕を交差させて受ける。
「ッ……!!こりゃすげえッス…ッ!でも……アンタにアタシの腕が斬れ――」
その瞬間、奴の腕から先が二つ、血飛沫を上げながら宙を舞う。
「…………は?」
硬直するイール。僕は見逃さず、振り下ろした剣を返して左下から逆袈裟に斬る。
今度も確実に入った。左腰から右肩にかけて、深い刀傷を刻む。
「くっ……はっ………」
イールがゆっくりと倒れる。だが、まだ息はあるようだ。致命傷となり得る場所は避けたのだから、当然ではあるが。
「〚精神拘束〛。さて、まだ生きてますね?貴方には、色々答えてもらわないと」
「クッ……。答える、ことなん、て……何も、無いッスよ」
「ああ、ご安心を。わざわざ貴方の口から聞く必要はありません。聞けないなら、直接視るまでです」
僕はしゃがみ、動けないイールの頭を掴み、権能を行使する。
「では、視せてもらいましょうか。〚追憶の軌跡〛」
僕はイールの記憶を覗く。
最初に見えたのは……儀式?内容は………召喚、のように見える。
「儀式………召喚…………」
僕が声を出して言うと、シュタリウス王が瞬時に僕のところに来る。
「召喚の儀式だと……?………まさか、テメェなのか……?“複製召喚の儀”をやりやがったのは……!!」
「何……!?あの秘儀は禁忌じゃぞ……!?」
“複製召喚の儀”。死者・生者関係なく、人物を複製する秘術。ここで注目すべきなのは、人物を複製するということ。つまり、既に死んでいる者に使用した場合、傍から見れば蘇生されたように思える。だが、この秘術はそんな生易しいものでは無い。確かに、その複製された人物――言うなれば複製体――の身体組織、そういった外見的、身体的特徴はオリジナルと同一だ。だが、その“魂”は、魔力は、記憶は、果たして同一と言えるのだろうか?いや、もっと言えば、この秘術によって生み出された複製体は、オリジナルがいないなら、それはオリジナルと言えるのか?その答えは誰も解ってない。何故か。非人道的故に、その研究は禁止されているからだ。同様の理由で、この秘術も禁忌とされており、行なった者は即刻斬首刑となる。
もし本当に行っていたなら、コピーされた人物は誰なのか。僕が思考に耽っているのをよそに、シュタリウス王が動けないイールの胸倉を掴む。
「答えろ!!テメェなのか!?答えろよ!!!」
「――おいおい、そうカッカすんなって、〝俺〟よ?」
「嘘、だろう……?」
「何故…………よりにもよって………」
皆絶句する。それもそのはずだ。何故なら――
――シュタリウス王が、もう一人現れたのだから。
「おいおい………噂をすればなんとやら、ってやつか。………ハッ、笑えねえ冗談だ、なッ!!」
オリジナルのシュタリウス王が無詠唱で金色に輝く聖剣を召喚し、複製体のシュタリウスに向けて振るう。
だが、その攻撃は複製体のシュタリウスを透過し、奴はそのままイールを連れてどこかへ消えていった。
『悪いけど、今はまだ戦うわけには行かねえんだな。そん時が来たら、またな』
ボロボロになった場内に、ただそんな声が響き渡るだけだった。