第17話―想いは赫のごとく燃え上がる
「――“壊天”ッッ!!」
高度からの踵落としに、姉さんは陽天剣を逆手に持ち替え、下から迎え撃つ。
「極致其の捌、“空牙刼照”ッッ!!!」
白き極光を纏った純白の魔剣と黒く染まった脚が激突し、その衝撃で姉さんの立つ地面が砕ける。
「グッ……!重、てえ……!!」
「影淵剣、極致其の伍、“淵葬閻舞”ッ!!」
僕は少し押されている姉さんに合わせるように極致を放つ。闇を纏う魔剣と純白の牙が、奴の黒脚を押し返し、また拮抗する。だが、僕達はここで賭けに出る。
「姉さん!!」
「ああ!合わせる!!」
僕達の魔剣の光が変化する。同時に、僕達は一気に弾き返す。
「「天上天下――天淵双滅撃ッッ!!!」」
「ウオッ……!?」
弾き返した勢いのまま、くるりと回転し、その勢いのままクロスさせるように奴の腹を斬る。
斬った瞬間、硬い反動が手に伝わり、浅いことが解る。だが、僕達の黒白の斬撃はイールを吹っ飛ばし、その身体を壁にめり込ませる。
一瞬にして静まり返る場内。ただへこんだ壁から欠片がポロポロと落ちる音だけが響く。やがて、壁にめり込んだイールが動き、壁から飛び降りる。
「アッハァ……。中々派手にやってくれるじゃないッスか……。アタシの身体に傷が入るなんて十数年ぶりッスよ」
「ほう?そりゃしっかり効いたみたいで何よりだ」
姉さんがくつくつと喉を鳴らしながら笑う。服についた土を払いながら嗤う。
「確かに効いたッスよ。だから――」
刹那の内にイールが姉さんの目の前まで迫り、その掌を姉さんの腹に添える。
「ッッ!!」
「――“決壊”」
「ガッ!?!?」
ドウッ!という異音と共に、姉さんの体を通して後ろへ衝撃波が抜ける。同時に、吹っ飛ばされはしなかったが、姉さんが大量の血を吐き出して倒れる。
「姉さん!!」
「レイティア殿!」
「レイティア!」
皆姉さんの元へ駆け寄る。気を失っているのか、姉さんから返事が聞こえない。
「アッハハハハハハッ!!面白い、最ッ高に面白い力ッスよ!!」
「イール……貴様、何をしたッ!!」
「あれれ?魔女なのに知らないんッスかァ?“禁術”、系統外属性魔法……【壊】ッスよ」
「なっ……」
「なぜ………“禁術ノ書”が持ち出されて……!?」
“禁術”。その昔、国ができるより以前に、古代系統外魔法と共に編み出された魔法。いや、どちらかと言うとアリオスの扱っていた〝大罪〟と同じ魔術に近しいか。その力は強力で、誰にも制御ができないとされ、“禁術ノ書”として“魔界”と“聖界”で分けて保管していた、はずだった。
故に、僕達は絶句した。互いの“禁術ノ書”の保管場所は、“禁書庫”として他の閲覧禁止の本と併せ、誰も入れないように強力な結界が張られているのだ。なのに、なぜかそれが今持ち出されている。
「テメェ………“禁書庫”にどうやって入りやがった!!アレにゃ俺の許可が必須なんだぞ!!」
シュタリウス王が怒鳴り散らかす。その手には固く拳を握っており、今にも飛び出しそうだ。
だが、僕はそれを手を出して静止させる。
「シュタリウス王、ここは僕にやらせていただきませんか?」
「……ヴァイ、お前」
「僕の姉さんを傷つけた。――絶対に許さない」
「「「ッッ!?」」」
ゴウッ!!と魔力の嵐が吹き荒ぶ。僕が普段抑えていた魔力を解放した事で、僕を中心として魔力が渦巻く。それに当てられ、失神している者も何人かいるようだが気にしない。僕は天に手を掲げ、叫ぶ。
「もう誰も失わない!!想奏神剣、アストクラウスッッ!!!」
「神剣……、だと!?」
突き上げた僕の手に桜色の長剣が召喚される。後ろで何やら驚きの声が上がってるようだが、僕の耳には入らない。燃え上がるような怒りを持って、僕は極致を放つ。
「想奏神剣、極致【赫怒想吼】――“心華芍灼”ッッッ!!!」