第16話―敵か味方か
「そこまでッ!!勝者、〝紫〟の弟ッッ!!」
「…………」
僕はジト目でシュタリウス王を見ながら、右手に握っている漆黒の魔剣を魔法陣へと収納する。
「完膚なきまでに叩きのめされたな。いっそ清々しいよ」
「いい勝負でした。とても楽しかったです」
僕達はどちらともなく握手を交わす。少し離れて見ていたシュタリウス王が豪快に笑いながらこちらへ近づいてくる。
「ガッハッハ、面白え戦い見れて最高に興奮したぜ!!」
「見世物では無いのですが……」
「ガッハッハ、そんな細けえこと気にすんなって!俺も血が滾ってき――」
「「陛下はやめてください」」
リーデンとクライアが同時にバッサリと切り捨てる。二人の言葉に、シュタリウス王は肩を落として口をへの字に曲げながら異を唱える。
「何でだよー、たまには俺だって暴れてえんだよー」
「手加減というモノを陛下は知らないじゃないですか」
「何を言う!!戦いに手加減など――」
「「必要なんですよ!!」」
またも二人に切り捨てられ、項垂れるシュタリウス王。
「――アタシ抜いてなァに楽しんでるんッスかぁ?」
「……イール……ッ!」
「ヴァイ、知っているのか?」
「……少し、因縁がありまして」
僕はイールを睨みつけながら姉さんに答える。先刻収納した影淵剣を無詠唱で召喚し、半身で構える。
「アッハ、その節はお世話になりましたァ。さァて……陛下ー、アタシも彼と一戦やってもいいッスかァ?」
「……テメェ、出て来んなっつったよな?」
「まあまあ、そんな事言わずにィ、ね?」
近づきながら、どこかイラつくような声で宥めるように言うイール。だがその動きは、逆に挑発しているようでかなり苛立ってくる。だが、シュタリウス王に触れる直前、リーデンとクライアが前に出る。
「それ以上近づかないように」
「近づけば……多少の権力行使をされても致し方はないぞ?」
「アッハァ……めんどくさいッスねぇ……。んじゃ……先にアンタらから死んでもらうッスよ!」
「グッ……!?」
「カハッ……!?」
両手の拳で二人を吹き飛ばすイール。それを見た瞬間、シュタリウス王が鬼の形相になる。
「イール……テメェ!!!」
「おっと……アタシの相手はアンタじゃないんッスよ……っとっと」
「セアッ!!」
僕の斬撃をイールは間一髪で避ける。
「僕がお望みなんでしょう?お相手になりますよ」
「アッハァ、自分から来てくれるんですかァ。ありがたいッス、よ!!」
「ッ!!」
イールが右脚で回し蹴りを放つ。それに合わせて、僕は上から斬り下ろす。ガキイィィン!!と、金属同士がぶつかるような甲高い音が鳴り響く。重たい。一撃が本当にただの蹴りなのか疑うほどに重い。
「姉さん!!」
「ああ!陽天剣極致其の参、“天威無烽”ッッ!!!」
蹴りと剣が拮抗している中、僕の背後から姉さんが、白き極光を纏った純白の魔剣をイール目掛けて振り下ろす。僕の剣を強引に弾き、左脚で上段後ろ回し蹴りを放ち、今度は姉さんと鍔迫り合いの状態になる。
「その身体、お前〝半人半魔〟だな!面白いじゃねえか!!」
「そッスよー、だからこんなこともできるんッスよ、ね!!」
イールは僕と同じように姉さんの剣を弾くと、空高く跳び上がる。そして、瞬時に下降し、姉さん向かって踵を落とす。
「――“壊天”ッッ!!」